高い靴を履きたかった
子どものころに見たアイドルは、みんなそろって高い靴を履いていた。
歩くだけでも確実に転んでケガをしそうな華奢なハイヒールで、ミーちゃんもケイちゃんも、ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんも軽やかに歌い踊っていた。
毎日見ていたら、きっと自分もできるようになるのだろう、と思うのが子どもというもので、
「私もいつか大人になったら、あんな高い靴を履いて街を闊歩するかっこいいお姉さんになるんだ」
などと思っていたりした。
とんでもない勘違いである。
ヒールの高い靴を履き歩くというのは、美へのこだわりと並々ならぬ根性と訓練の果てに獲得できる特殊技能なのだ。
実際に社会人となった私は、ピンヒールはおろか、3cmのパンプスでも履いて歩くのがつらく、ふくらはぎがぱんぱんになるということがよくわかった。
あれらは、基本的に人間の履物ではない。
わざわざ足を傷めつけて、何が楽しいのかと今は思う。
その結果、私は足元だけ異様に健康志向が高い女になった。
美よりも健康、見た目より快適性の方が大事である。
ワゴンセールの特売運動靴では、足が納得しない。
ジャストフィットは当たり前、長時間歩き回っても疲れない構造、雨や雪の日に外で履いても滑らないグリップ性能、着脱の楽さ、ついでに冬なら暖かさも靴に求めている。
で、その私が、いろんな靴遍歴を経て、最終的にこれがいい！と思ったのが、こちらの靴たちだ。
釣り具メーカーDAIWAが出している磯釣りシューズ。
波がざぶざぶ押し寄せる磯でも平気な高い防水性能と、濡れた岩場でも滑らないグリップ性能を誇る。
実際は、ビビりの釣り師であるため、そんな岩場に行ったことがないのだが、一日の内に雷雨と雪と雹が交互にやってくる冬の北陸・敦賀で外を歩くのにはとても快適だった。
雪道で転んだことも、足が冷えて辛かったこともない。
ハイカットで、こけそうになった時に足首を守ってくれるところも最高だ。
妙に足元だけゴツく見えるかもしれないが、今のところこれに勝る靴は見つけられていない。
万が一ドレスなど着る機会があったとしても、足元はこれを選ぶだろうと思う。
こちらは、防水性能ではフィッシングシューズに劣るものの、着脱のしやすさ、履き心地の良さ、見た目のかわいさで大好きな靴。
もう、20年くらい履きつぶしては同じ靴を買い続けている。
MERRELLの定番、ジャングルモックシューズ。
めったに履かないが、スカートにも合わせやすい。
なにより私は、スエードフェチなので、靴箱の中にこの子がいると思うだけでうれしい。
手触り最高、匂いも好きだ。
結局私は、かかとの高い靴はついぞ履きこなせるようにならなかったが、そこそこお値段の高い靴を長く愛用する女になった。
服は全身ノーブランドの安い女ではあるが、いつも靴だけは高い女になったのである。
ある意味、子どもの頃の夢が叶ったと言えないだろうか。
言えないか。
＊＊連続投稿817日目＊＊
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