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チャーハンよもやま話

失敗しないチャーハン。それは全人類共通の悩みである。だがコツさえ掴めば、チャーハンはそう難しくない。ただ、美味しいチャーハンを作るためにはいくつかクリアしなければならない条件があり、それを省くと確実に失敗する。失敗点は様々だ。フライパンにこびりつく。ごはんがダマになる。全体的にベチャベチャする。妙にパサついているetcetc……。しかしその悩みも今日でおさらばだ。あくまで自己流だが、今回は美味しいチャーハンを作るコツを書いていきたいと思う。

・材料

ごはん 茶碗一杯分
玉子 2個
酒 大さじ1
塩 適量
胡椒 適量
味の素 適量
醤油 小さじ2
万能ネギ小口切り(もしくは白ネギ)
焼豚 50g(コンビニのパック半分程度)

・準備

まず、炒飯に大事なのは火力である。だが家庭用コンロとフライパンでは限界があり、具材投入直後が一気に温度が落ちてしまう。なので米は炊きたてを使うか、あらかじめレンチンしてアツアツにしておこう。できればかために炊いておくのが望ましい。そして作る時は必ず一人前ずつ作ろう。チャーハンを大量に食べたいのは分かるが、あまりに米が多すぎると重なって炒める時に均等に油が回らない。米はお茶碗一杯分だけ。これだけは厳守して欲しい。

手早く作るために、具材は最初から切っておく。基本は米と玉子だが、ネギと焼豚があれば見た目はいっぱしの炒飯になる。ネギは、白ネギ、万能ネギのどちらでも良い。投入するタイミングが違うだけだ。万能ネギは小口切り、白ネギはみじん切りにしておこう。焼豚はコンビニに行けばおつまみ用のチャーシューの切れっぱしが売っている。カニカマをほぐしてカニチャーハンにするのも悪くない。カニカマはやや貧乏臭いかもしれないが、焼豚より安いのが利点で、これは食堂ではなく自炊のレシピである。それにカニ缶より、なぜかカニカマのほうが旨味があって美味いのだ。生のカニ身が手に入るなら、チャーハンなんか作らずにカニ雑炊を作ろう。そちらのほうが風味は断然上だし、食われたカニも浮かばれる。

・調理

材料を準備し終わったらさっそく作ろう。炒飯に大事なのはまず油だ。フライパンにドン引きする量の油(大さじ5程度)をいれる。炒飯を食す者は決してカロリーを気にしてはいけない。そして、次に大事なポイントとして、フライパンをあらかじめ、煙がたつまでガンガンに熱する。パラパラにするためには熱した油と玉子によるコーティングが不可欠で、重ね重ね言うが、大事なのは火力である。恐れず、フライパンを極限まで熱することが、チャーハン作りの鉄則である。

玉子は基本的に二つ使う。一つでもいいが、二つのほうがパラパラになりやすい。できれば室温に戻しておこう。玉子二つを容器に割り入れ、丁寧に溶いておく。そして限界まで熱したフライパンに一気に注ぎ込む。大量の油をフライパンでちゃんと熱していれば、投入した玉子がカーテンのように広がり、ふちが一気に泡立つ。玉子を投入したらあとは時間との勝負だ。間を空けず、すかさずレンチン、もしくは炊きたてのアツアツの米を投入する。使うのはおたまがベストだが、慣れないとややコツがいるため、木のしゃもじでも構わない。刻みながらひっくり返し、丁寧にほぐしつつ玉子で覆うように迅速に炒めていこう。料理番組のように手に持ってフライパンを煽るのだけはやめてもらいたい。あれはプロ用の火力だからできる芸当であり、家庭用コンロだと火から離せば火力はとたんに低下する。炒める時は絶対にコンロからフライパンを離さない。これがもう一つの鉄則だ。

ほぐし終わったら、塩、胡椒、そして味の素をふりかける。化学調味料を使うことに抵抗を覚える人間は多い。かくいう自分も普段の調理には味の素は使わない人種だ。だがラーメンとチャーハンを作る時だけはこの禁を破る。何事にも例外はあるのだ。ラーメンやチャーハンはジャンクに作ったほうが確実に美味い。味の素以外でも、粉末状のガラスープの素や、味覇などでもいい。ただすでに塩をいれているので投入しすぎには気をつけよう。ガラスープや味覇を使うなら、塩分調整が難しいので塩は省略しても構わない。焼豚を使うなら具材の塩分もあるので、気持ち控えめにするのが味付けのコツだ。その気になればあとからいくらでも足せる。人生と同じで、やりすぎれば取り返しがつかないが、その前ならいくらでも引き返せるのだ。

味付けが終わったら具材を投入しよう。焼豚はすでに火が通っているため、あまり炒める必要はない。カニカマも同じである。みじん切りの白ネギの投入もこの時だ。

具材を混ぜたら、次に、酒を大さじ1杯だけ投入する。炒めていると水分が飛んでパラパラになるが、今度はパサパサという壁が立ちはだかる。それを防ぎ、旨味を増すのが酒だ。これをいれることで、ふんわりかつパラパラなチャーハンが完成する。酒を投入したら軽く混ぜてすぐに火を止めよう。炒めすぎると元の木阿弥になる。

そして仕上げに醤油を鍋肌から一周させるようにひと回しする。フライパンはまだ熱く、焦げた醤油の香ばしい香りは完璧なチャーハンの出現を予感させる。酒投入→火を止める→醤油一回しまでは一息に矢継ぎ早で行う。インターバルは存在しない。速度が命だ。手際の良さだけが唯一にして絶対の答えである。万能ネギをいれるなら醤油の後、盛り付けの直前が望ましい。混ぜ込まず、最後に上にちょこんと乗せるのも風味があっていいのだが、混ぜ込んでしまったらしまったで全体的な見栄えがとてもいい。玉子投入から米を炒め、最後の醤油ひと回しの工程まで、チャーハン全体の調理時間は2分以内が原則だ。繰り返す。チャーハンは2分以内に作るべきである。ピオリムかヘイストがかかっているような状態で作ろう。

先ほどアツアツの米を入れていたお茶碗にチャーハンを詰める。潰さない程度にぎゅう詰めすれば、割れる心配もない。そしてお皿を乗せてふたをして両手で固定し、ひっくり返せばチャーハンのできあがりだ。別にそのまま盛り付けても構わない。変に気取らず、そのまま豪快にかっ食らうのも一つの作法であり様式美だ。チャーハンは自由なのである。

レンゲ、もしくは大きめのスプーンでできたてのチャーハンをほおばれば、たとえ自宅でもそこは場末の中華料理屋へと変貌する。気難しい店主が、腹を空かせた貧乏学生のために数十年間腕を振るってきたのにかなり近い味のチャーハンがそこにはある。ジャンクだが、口に運ぶ手は止まらない。

最後に要点を軽くまとめておこう。

・米は炊きたてを使うかレンチンする
・米はお茶碗一杯分だけ使う
・油はたっぷりいれる
・フライパンをあらかじめ熱しておく
・炒める時はコンロから離さない
・玉子は2個使う
・最後に酒大さじ1をいれる
・調理時間は2分以内が原則

チャーハンは難しい。だが手順を守れば誰にでもすぐにパラパラのチャーハンは作ることができる。あとは試行回数をひたすら重ね、腕に徹底的に覚え込ませよう。仕事で疲れた時に、手早く作り、一気に喰らい、脳髄を痺れさせる。チャーハンのジャンクさは最大の麻薬であり、明日への活力に繋がるのだ。

#エッセイ #レシピ #チャーハン



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