カモガワ奇想短編グランプリ感想文

公開されている中で受賞作エントリー作問わず面白そうだなと思ったものを読みました
他にも読んだら追記するかも(2023/12/08現在8作読了)

とり、の、しんわ、を、つたえ、ます
伝えられる「とりのしんわ」。
それは侵略された者の言葉。悲哀に満ちた「とり」の「しんわ」には過去のおぞましい出来事が秘されている。
それは永劫伝えられ続けなければならない。私やあなたの言葉で。私たちがどうなろうと。繰り返してはいけない過去があるから私たちは言葉を使う。
言葉を使え。
平和をうたえ。

おいしいはかいしのそだてかた
おいしいはかいしはきっと、とてもとてもす的な人生を歩いてきた人の証なのでしょう。
その人のこれまでの人生がどういったものだったかを、他人の好みに左右される「味覚」で評されることになるとは思いませんでした。
果たして万人に受け入れられる「おいしいはかいし」はあるのでしょうか。

ピザ葬
死んだ人はこの世から消えてしまうけれど、たしかに生きていたし、これからもきっと身内や知人の心の中で生きていくだろう。
けれど食物として死にゆくことで、近い身内の肉体の一部としてこれからも生きていく。
生きていくことになるのだろうか。
この私の体で、亡き祖父が、生きていくことになるのだろうか。
すでにこの体には祖父の血が流れているというのに。

傘と死の間の青
世界から唐突に告げられる理不尽な宣告から目を背けることは決して罪ではない。
誰だって死は怖い。私も四六時中怖くてたまらなくて毎日が苦痛で生地獄に等しい。いっそこの雨に打たれてしまいたいと思うことさえある。
けれど中には世界と抗おうとする人がいて、そういう人こそが人類を世界を未来を切り開いて進んでいく人々なのだろう。
時には言葉にしておこう。じゃないと当たり前の事実はすぐに忘れ去られてしまう。
ありがとう、平穏平和な優しい世界。愛してるよ。ずっと一緒にいようね。

さよならボキャブラリー
言葉が一つずつ消えていく名作「残像に口紅を」を想起させる、言葉のボキャブラリーが減っていく青年と元恋人。
そのため彼は世界中の様々な言語を駆使する。
言葉を奪われ続けようと伝えたい言葉があるという気持ちは素敵なものだ。
反面、言葉という枠に当てはめなければならない自分の気持ちに適した言葉が見つからなければ耐え難い苦痛を耐え、相手に誤解させてすれ違いが生じることも覚悟で、知らない言語を使わなければならない機会もあっただろう。
その国のその文化のその風俗のその文脈で使われるからこそ発揮される言葉の真の力の、上辺だけを借りるしかない青年はとてもとても悲しい。

四元数の悪魔
数学苦手な身の上でありつつ、読んでいく。ところが単純にとてもおもしろく、この面白さを伝えるためにはどう説明をすればいいのかと数学の問題を目にした時と同じくらい頭を悩ませる。悲しいかな、私は中学の関数でさえつまずく数学苦手な人間なのだけれど、その程度の頭の悩ませ方でしかないのなら読む価値はないなどと断じずにぜひとも一読してみてほしい。
おもしろい。

群れのルール
建物に食われた男と、程よい住処を運良く見つけた人形のカップル。
よくよく考えれば建物はまさしく生き物なのだ。人が住まなければ建物は死ぬとも言われる。人が建物に新たな何かを持って入って、そこで行われる生活の営みが建物の栄養となり、やむなく発生したゴミを排泄する。建物とは生き物そのものではないか。

オンゾ
怪異とも妖怪とも知れない、口に出すことも憚られる「何か」ことオンゾ。
身近にありそうな土俗的な怪談風の語りから、徐々にオンゾの正体について突きつめられて行きそうでいかなくて、有耶無耶にされてしまって、追いかけても追いかけても見つからないうちに気づいたら自宅に帰っていた。ような気がする。そんなお話に思えた。


この記事が参加している募集

サポート代は新しい本の購入費として有効活用させてもらいます。よろしければお願いします。