人間に準ずる知能の実現について

chatGPTに代表される生成系AIの発展が目覚ましい昨今、すぐにでも人間並みの知能が実現されるかのような、そしてそれによってすぐにでも人類は滅びるなどという言説が見られるようになりました。

私が思うにまだまだ遠いと思われるので、いくつかの予言を残しておこうと思います。

1.触覚どうする問題

今存在するロボットと人間のセンサとしての最も大きな違いは皮膚です。皮膚並の高密度触覚・温度センサ(それも柔らかい身体へ埋め込まれた柔らかく耐久性の高いセンサ)は存在しません。そのため、最新鋭のAI搭載ロボットでも、人間の手作業に相当する技能を習得するのは極めて困難です。人間にとって当たり前のようにできる、「ゴミ箱からゴミ袋を出して口を縛る」みたいなタスクはロボットには全く歯が立ちません。実用的には炊事洗濯掃除を担う家庭用ロボットは非常に大きなニーズがあると思われますが、今のところ、数年で実現できるという技術水準ではありません。
つまり、(見た目は人間っぽくても)実際に人間の作業を代替できるロボットの登場には10年以上の歳月がかかると思われます。


2.行動の選択肢多すぎ問題

人間にとって、今何をするのかを決めることは造作もないことです。しかし、行動として取りうる可能性は、ちゃんと数えようとすると膨大な数になります(次の0.1秒で右指を1mm動かしながら顎を2mm上げて・・・とか言い出したらほとんど無限に思える可能性があります)。人間は行動の膨大な自由度を持つのに、なぜか実際に行動できています。人間並の高自由度のロボットを動かそうとしても、膨大な選択肢の中から行動を選択するのに十分な計算量がないように思われます。
自然な言語応答を実現しているGPT4ですが、言語は1次元です。一方行動は少なくとも数十次元あります。しかも言語は時間ステップを考える必要がないですが、行動は時間方向も考える必要があります。一般に次元が増えると計算量は爆発的に増えますが、あのGPT4と比べてさらに桁違いの計算量が必要だとすると、おそらく古典コンピュータでは行動選択可能な計算量を実現できないと思われます。したがって、何らかの自然計算デバイス(脳オルガノイドかもしれませんが)が開発されない限り、人間並の自然な行動を実現するのは困難と思われます。ただ、言ったこと(命令)を実行するだけの受動的なロボットなら比較的早くに実現するかもしれません。問題なのは自律的に行動選択して動けるロボットの計算です。


3.抽象(共通概念)をどう扱うか問題

GPT4でも実は大きな桁の足し算を間違えます。私はこれは、分布意味論を愚直に実行したLarge Language Modelsは言語同士の関係性を捉えられても、人間にとっての概念間の共通概念(抽象)を捉えられないせいで、足し算のルールがわからないからだろうと思っています(tokenの一貫性とかの問題もあるようですが)。
概念間の共通概念を考え出すと、上記の行動選択と同じ問題が生じます。つまり、概念が10000個ある場合、任意の2個の概念の共通要素の組み合わせの数は、10000×9999/2≒10^8。さらに3個だと10^11, 4個だと10^15となっていきます。さらに、新たに生成された概念の中の共通要素の組み合わせを考えると10^15×10^15=10^30と、指数的に増えていきます。もちろん、全て扱う必要はないでしょうが、問題なのは、これらの概念を未来予測に用いる場合、時間的要素のある概念を並べる組み合わせの数が爆発することです。例えば、10個の概念を並べて現在から未来へのシナリオを作るとしましょう。概念の数が10000あるなら、10000^10=10^40となります。普通に考えて人間が未来を考えるときに概念が10個で足りるわけないので、200個だとするなら、(10000)^200=10^800となります。10000の概念が10^15になれば、10^3000となり、到底古典計算機で扱える量ではなくなります。こちらについても、やはり何らかの自然計算が必要と思われます。そして、2023年6月現在で自然計算によりこのような膨大な組み合わせの問題が容易に解けるなどということは知られていないと思われます。まだまだ研究が必要です。


4.その他の問題

感情や意識の問題を考えている人もいますが、工学的に人間並みの知能を実現する上ではあまり重要ではないかなと思っています。別に人間と同じ感情を持っている必要はないし、意識の有無は実用的にはどちらでも良いと思われます。ただ、意識があるなら人権に相当するものを知的ロボットに与えるのか、といった社会的な議論は起こりそうです。
完全に勘ですが、上述の膨大な組み合わせの問題を自然計算で解く過程には意識クオリアが接続されている気がします。つまり、組み合わせ問題を自然計算で解けるようになったとき、そこには意識がある可能性があると思っています。


5.で、人類は絶滅するのか

絶滅します。

しかし、そもそもAIのせいではなくどちらかというと自然の摂理と思います。よくSFである設定で人間とAIが戦争するストーリーがありますが、現実はもっと面白くないものです。すでに起きていますが出生率が下がり続けており、上がると考える合理的な理由がない以上、生殖によって生まれる人類は減り続け、やがて消え去ると考えられます。そもそも、人間並みの知能のロボットができたとして、自分の理想の異性をロボットとして実現できたときに、誰が生身の人間に魅力を感じるのでしょうか。可愛さだけを実現するロボットができたときに、可愛さと憎らしさの両方がある実際の子どもをどれくらいの人が育てようとするのでしょうか。それが現実に起こることで、子どもはどんどん減るでしょう。
一方で、老化が克服される可能性はあります。さらに意識のアップロードの研究も行われており(私はその実現性に疑問を持っています。不可逆な自然計算に意識が紐ついていると思っているからです)、現生人類の絶滅時期を見通すのは困難です。しかし、子どもが生まれなくなるのは極めて確度が高いと思っています。
寂しいですが、これからは人間を超える知能を持ったロボットが宇宙へ広がっていくのでしょう。人間が身体を改造してサイボーグになったり、自分の疑似コピーを作ったりするでしょうから、単に生身の人類が絶滅するだけで別種の人類が生き残るのだからセンチメンタルになる必要もないのかもしれませんが。


まとめ

最後は話が飛びましたが、思いつくままに書き連ねてみました。
近い未来に答え合わせするのを楽しみにしておきましょう。

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