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〈引越し日記3〉鳥取、最後の帰り道

”鳥取、最後の帰り道”(事件)の前置きとして、まずは我が相棒・ジムニー のことをお話しします。これを書くにはまだ少し、いやだいぶ胸がチクリと痛むのだけど。

まずは私の、マイカー遍歴について。大抵のことは運が良い方で、いい出会いに恵まれているのが自慢の我が人生。しかし車に関しては、どうもそうでは無いなあ、というのがこれまで。

初めて自分の車を持ったのは、大学を卒業し、岡山県西粟倉村の会社に就職した頃。通勤はもちろん、車なしでは生活できない田舎だったので、引っ越してすぐに紹介してもらった車屋さんで二十数万円のタントを購入した。

その後、タントは1年ほどで故障して廃車となり、同じ車屋さんでまた安くで2台目を買うも、今度は数年後に自分で事故をして廃車にしてしまった。3台目に購入したワゴンRもまた、特に思い入れはなく”移動手段”として購入した安い中古車。数年経たないうちに、耳障りの悪い音が目立つようになり、気に入らない車の中で過ごす時間がストレスにも感じるようになった。たった6年の間に、乗った車は3台。車を持っている人であれば、ずいぶんスパンが短いと感じられるだろう。
車に関しては運がない、と言えばそうなのだが、そもそも安さばかりを重視して自分が気に入った車を選んだこともなければ、当然大切に乗ってもいないことが不運を呼んでいるようにも思えた。そこで、車を大切に長く乗るためにも、自分が好きな車に乗ろうと考えてたどり着いたのが、今は”元”相棒となったジムニーだった。

よく見る人気の車種だけれど、私が心を奪われたのは新型ではなく、古い型。古い車を扱う車屋さんを運よく知人に紹介してもらい、まずは相談にと初めて訪問した日に、ちょうどその車屋さんにいたのが、JA22Wという型の深緑色のジムニー だった。

「古い車は、小さい子供やペットのように手が掛かる。その覚悟を持って乗れる人にしか売らないし、その覚悟を持って乗れる人なら、古い車を持つことは、最新の機能が揃った車にはない楽しさがあります。」そんなふうに何度も説明してくれた車屋さんから、私はこのジムニーを買った。初めてマイカーローンを組み、悩みに悩んで決めた日産・パオのモスグリーンで全塗装も施した。間違いなく、世界に一台だけの私の車、を手に入れた。

車を自分の好きな色でぬれるなんて、人生初めての経験。

その後は、やはり車屋さんから何度も説明を受けた通り、ちょこちょこと不具合が起き、その度に修理をしたり、ある部分は車の個性と受け入れてうまく付き合っていく心構えも育ててきた。
燃費は悪いし、修理のたびにお金もかかる。でも、好きな車に乗る楽しさを教えてくれたのはこのジムニー だった。駐車場で、他の車と並ぶ様子を見るたびに「やっぱりどこの子よりもかわいいな」とご機嫌になれたし、狭いけれど自分の好きを詰め込んだ車内は、まるで動く自分の部屋のように感じられた。鳥取に遊びに来た妹や友人を乗せたり、一人でもこの車ならどこへ行くにも楽しかった。

乗り始めて、まだ2年。これからも長く一緒に過ごしていきたいと思っていたし、鳥取から熊本への引越しを決めてからも、当然熊本に連れて行くつもりでいた。鳥取から神戸港まで約3時間運転し、神戸港から新門司港までのカーフェリーに乗って、新門司港から熊本までまた2時間ちょっとの運転…という引越し計画を立てて、いよいよ鳥取での生活も残りわずかとなった、鳥取での最終出勤日。冷たい雨が降る夜の帰り道、「この道を帰るのも今日が最後か」と思うと、静かにこみ上げてくる気持ちもあり、感慨深さと寂しさとでないまぜになってボーッとしながら信号が青に変わるのを待っていたら、プスンっとエンジンが止まる音ともに、まさかこのタイミングでジムニーが動かなくなった。

ただでさえ感傷的になっていたところに、思わぬトラブル。途方に暮れたい状況でも、保険会社に電話してレッカーを依頼し、近くのコンビニから助けに来てくれた心優しいおじさんと共に車を路肩に寄せて(おじさんが車を押してくれた…!)、雨の中、1時間近くレッカーを待ち、どうにかレッカーに運ばれるジムニーを送り出したところで、そういえばベランダに洗濯物を干したままだったことを思い出し「びしょ濡れだなあ」と思った瞬間、ぼろぼろと涙が溢れた。歩いている人はもちろん、車通りもほとんどない雨の夜であるのを良いことに、おんおん泣きながらふらふら歩く30歳。

結構、怖い。

という散々な最後の帰り道となったのだけれど、まだこの時はこのことをきっかけにジムニーを手放すなんて選択を自分がするとは思ってもいなかったし、ただでさえ今悲しいのにもっと悲しい決断を想像するのが辛かったのかもしれない。

今のところ、なんだかズーンと暗い状況になってしまったけれど、その後の決断は必ずしも悲しいだけではないのでご安心ください。つづく。




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