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卒業制作どぶろく「SoTsu」ができるまで

この度は卒業制作どぶろく「SoTsu」をお買い上げいただきありがとうございます(QRコードから辿り着いた皆様)。
「SoTsu」は LAGOON BREWERY Inc. で1年間インターンをした藤本千央が企画・制作をしました。本製品は私の醸造家としての最初の作品となります。こうしてお手にとっていただいたのも何かのご縁、酒の肴に本ページにて事の成り立ちなどご紹介いたします。

ほかリンクから来られた方、製品の紹介についてはこちらのオンライン商品ページをご覧ください。
https://lagoonbrew.official.ec/items/74322613

インターンシップの記録は別ページ↓にまとめる予定です。まとめました!

※ 本文の中でどぶろくをSAKEと表現しています。これは世界的に日本酒、または清酒をSAKEと表現され始めていることに端を発し、その源流であるどぶろくもSAKEに分類されると広義的に解釈し使用しています。
※登場人物説明:シャチョー(代表 田中さん)、師匠(CTO 尾崎さん)

Episode1. 事の始まり

インターンシップも10ヶ月目に入ったとある日、とある居酒屋でシャチョーがいい加減に酔っ払うのを見計らい「インターンシップの終了にあたり、卒業制作として1本SAKEを作らせてもらえませんか?」とお願いしたのが全ての始まりでした。
結果は「いいよ。どんどん作っちゃって」という気軽〜な感じのお返事をいただき、あっけなく賽は投げられたのでした。

実のところ以前から考えてくださっていたようで、こんな長い社畜人生で鍛えた小手先の技など使わずとも深き懐でチャンスを与えてくださるシャチョーなのでした。

Episode2. SAKEの設計

さて言い出したからには後には引けない。少し前から師匠には卒業制作を作りたい旨を相談をしていて、あとは「シャチョーの了解取れたらいいよ」という段階だったので早速段取りに入りました。

初めて製品として作るのは『シンプルなどぶろく』と決めていたので、タイミング的に使える材料は米は「五百万石」、酵母は「新潟G9NFarg」とわかった時、理想のイメージが固まってきました。LAGOON BREWERY では製品企画の方針によって米の品種を変えたり酵母を変えたりと毎度スケジュールギリギリまで試行錯誤の末決定されるので、どういうSAKE造りに取り組めるかはその企画の行方次第という要素もありました。

私の理解ではどぶろくはSAKEの源流であり、かつてあったように普段の生活の中に組み込まれて身近で自由な存在であってほしい、そのための現代版を作りたいという思いが常にありました。
原材料はパーフェクト、早速「普段使いのどぶろく」を醸すべく妄想を膨らませ、、、製造計画書をExcelでチクチクと作りながらあーでもないこーでもないと夜が更けるのでした(そもそも今までまともな計画書を作ったことがなかった…汗)。

Episode3. ドタバタの仕込み

今回のどぶろくにおいてポイントは辛すぎず甘すぎず、爽やかな味わいの頃合いで発酵を止めること。よってその設計に沿ったスケジュールが決まりました。使用する米や麹の量の微調整を計画書と睨めっこしながら繰り返すうちにあっという間に仕込みの日になりました。

初めてふるい缶(麹菌を入れて蒸米に撒くための容れ物)を振り、酛(SAKEのスターター)は朝に夕に温度を測ってツラを眺めてはご機嫌伺いの日々。
見てるだけと自分でするのは大違い。毎日勉強すること反省と改善と、大変慌ただしい日々が始まりました。
今回の仕込みは三段仕込みという清酒の製造方法を用いました。「添・仲・留」と3日間(実質お休み日があるので4日)に分け「米麹、米、水(時々氷)」を醪(もろみ)に追加していきます。こうすることでSAKEがキレ感のある味わいになってくるのです。
師匠の教えによると酒造りはいくつかのポイントを押さえれば誰でもできるということ、その一つは仕込み終わりの温度をしっかりと決めていくことでした。ところが氷を入れすぎて冷や汗かき祈りながら翌日検温をする羽目になったり、かと思えば酵母が元気に働いてくれてあっという間にSAKEの温度が上がり「もう上がらないでぇぇぇ」と心の中で悲痛な叫びを上げつつ醪を冷やせるタイミングを見計らったり。誰にでも…できないぞ!そんなこんなでキリッとした味が生まれました。(エッ…設計とは?!)

実は今回温度調節機能が付いていない寸胴仕込みだったので、仕込んでからの温度管理に目が離せませんでした。こうして仕込みの後は3週間ばかり、ひたすら醪のご機嫌を伺い、「人ができることは醪/微生物が心地よい環境を作ることだけ。あと酒がなりたいようになるのを待つだけ」そんな先人の教えのその言葉を実感した仕込みでした。

ちょっと引くくらいの検温頻度と(品温と)その時の醸造メモの一部↓

ある日の醸造メモ

もちろん毎日(なんなら毎時間)師匠に相談しながら、「大丈夫、悪くない。酒が行きたい方向に行ってくれるから」など慰められながら、「翔空」の仕込みもあるのに本当に親身に相談に乗ってくださいました。
醪の様子は五感で確認するもの。見るだけ、測るだけではなく、香りを嗅いで櫂を入れるときには米の溶け具合を感触で確認して。よって単に暴走したSAKEではありませんので、安心して飲んでください!

Episode4. ドタバタの製品企画

実はこの度の卒業制作は全体的にプロデュースを担当させていただくことになっていました。
したがってどういうラベルデザインにしてどうやって売っていくか、価格はどうするのか、企画に関わるを全て自分で行う必要がありました。人生で初めてマーケティングなる指南本を読み、デザインと製品規格を決め。なるほどこれが独り立ち…こんなタフなことを日々行っているんですね…いやいやこれでまだ一部ですよ、税務処理関係が一番大変らしいと聞いたなどと呟きながらこなすのでした。いや、夏休みの宿題は最終日にやるタイプ、もちろんシャチョーの手を大いに煩わせたのでした。本当に世の中の製品企画に携わる方々を尊敬します!!

ラベルのデザインは卒業の「卒」をあしらいました。予算がないのでDIYで…。冷蔵庫からこのボトルが出てきたらカワイくてほっこりするだろうな、という方向性を目指しています。
世の中はそろそろ皆造のシーズン。もしくは身近に卒寿を迎えられる方がいらっしゃったり、今まで取り組んできたことから卒業して新しい道に進む方、卒業気分を味わいたい方、みなさまをお祝いして乾杯

Episode5. テイスティング

お猪口やグラスに注がれたSAKEから立ち上る香りを「上立ち香」といいます。SoTsuに関してはこの香りは結構控えめ、ともすればアルコールがツンと香るかもしれません。
次に口に含みゆっくりと味わうと「含み香」が鼻に抜けていきます。SoTsuは開けたては青リンゴのようなフレッシュな甘みが口内に拡がり、酸素に触れたどぶろく(一晩置くとさらに顕著)は熟したバナナのような甘みを帯びます。とここで意見が分かれました。バナナを主張をする私と「いんや」というシャチョーと師匠。今のところ1:2で私が劣勢です…。酵母の働きとしては可能性があるのですが、みなさまどう思われますか?

どぶろくとしては辛めの仕上がり、発泡感がさらにそれを煽って食事のお供に楽しめるすっきりとした味わいになりました。醸造の頃合いは菜の花咲き乱れる福島潟で爽やかな風が吹いており、そんな風ごとお届けできるといいな、ちょっと高度なことも目指しました。

2023年春の福島潟 - 遠くに飯豊山が望める

Episode6. オススメの飲み方

SoTsuは気軽に普段の食事に取り入れて楽しめるSAKEです。
例えば忙しい夜はインスタントカレーで済ましてしまう、という時にお供にいかがでしょう?どぶろくって結構カレーみたいなスパイシーな食事に合うんです!
ちょっと濃い部分が残ってきたら炭酸で割ったり、ポッカレモンを2振りくらい加えたり。すっきりさが増して飲みやすくなります。
しっかり和の食事のときは、塩辛や肝和えなどやや癖のある一品と合います。どぶろくのとろみのある部分が臭みを拭い去って旨味を残してくれるのです。

おすすめの飲み方ありったけのページは↓に。ぜひご参考ください。
(WIP…汗)

Special thanks

最後に多くの方に支えられ本製品のリリースを迎えられたこと、みなさまに感謝申し上げます。
そして新人の醸造家が自身の名前を出して作品を世に出せるなど、本当に稀な機会だと思います。そんな機会を快く提供くださり、長年築いたあらゆるコネクションで応援してくださるシャチョーこと田中さんに心より感謝申し上げます。多大なる支援のおかげで信頼を裏切らない作品になったと思います。
同時にこの1年、物忘れの激しい年頃のインターンを辛抱強く鍛えてくださった師匠こと尾崎さんに言い尽くせない感謝を申し上げます。非常に細かなポイントをひとつひとつ丁寧に教えてくださり、ベテランの経験を持ってしても新しい蔵ではトライ&エラーの日々。安定した品質を確保すべく奮闘する日々を間近で見せてくださり、授業で不安定な出勤に合わせて作業調整をしてくださり、感謝する内容は尽きません。
最後に発送手続きまで細かな気配りで支えてくださったかすみ店長とカフェのスタッフのみなさん。蔵の陰の立役者であり、ときには凛とした姿勢で仕事に厳しく取り組まれ、たまにおやつを恵んでくださいました。ハードワークに耐えられたのはかすみ店長のおかげです。本当にありがとうございました!



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