今さらだけど島田紳助の自己プロデュース力を読んだ
ひょんなことから、「プロデュースってなんだろう?」と思う機会があり、プロデュースを学ぶ上でバイブル的な本ってあるのか?とググってみたところ、引っかかったのがこれ
2009年の本であり、まだ彼が芸能界を引退する前の話。
私は彼のことが嫌いだった。面白いと思わなかったし、よくわからないユニットを出してオリコンにランキングさせたりと。
だから、芸能界を引退するという話をニュースで知ったときは嬉しかった。
あれから10年。嫌いではあったけど、事実テレビには引張りだこだったわけだし、いろんな面で成功していた人物だったなと今なら感じる。
というわけで、そんな嫌いだった島田紳助に教えを乞うことにした。
注意事項
私の理解に基づくまとめなので、一部間違ったことを書いている可能性がある。その点ご了承ください。
また、書籍の内容を全部まとめるわけではなく、私が印象に残ったものを抜粋している。
どんな本なの?
2007年にNSC(吉本総合芸能学院)で行われた島田紳助による特別講義を書籍化したもの。書籍として書かれたというよりは、講義を文書化したものなので目次とかがしっかりとまとまっているわけではない。
ここからの構成
書籍の中で印象的だった箇所を私見を交えて書き、それまでのまとめをその都度書いていく。
自分だけの教科書
島田紳助は駆け出しの頃、面白いと思った漫才を片っ端からラジカセで録音し、何が面白いのかを徹底的に研究した。
とにかく紙に書き出しまくったそうだ。そうしていくうちに、なぜ面白いのか、なぜ観客を笑わせることができるのか理由がわかり、自分だけの教科書が出来上がったという。
また、様々な漫才師の漫才のコピーをしたという。その中でいいと思ったものはパクったという。
パクるのは、ネタではなくシステム。例えば、島田紳助が笑いの原型としてパクった相手はB&Bの島田洋七であった。その島田洋七の作り出す「間」をコピーしたという。
漫才がうまいと言われる人たちは、一般的な漫才よりも「間」を置く傾向にあるという。一般的な漫才が1分間に10回間を置くとしたら、うまい漫才は1分間に20回間を置くそうだ。
しかし、島田紳助が目指したのは「うまい漫才」ではなく、「客にウケる漫才」。そのふたつは違うものだと島田紳助は気づいていたという。
「客にウケる漫才」は間を置かない。テンポ間が大事だという。それをB&Bの島田洋七からパクったのだという。
つまり、自分がおもしろい漫才を生み出すために、すでに世の中にあった漫才の実例を多く見てきた。そして、成功しているものはどういうものかを調べて、それを真似した。
ここで大事なのは、ただ真似をしたのではなく、それをおもしろいと思わせる仕組みを真似したことである。
ここまでのまとめ
すでに世の中に出ているものをたくさん観察する。そして、何が世の中の人に受け入れられてヒットしているのか理由を見つける。
いいと思ったものはパクる。それ自体をパクるのではなく、それを生み出している、支えている仕組みをパクる。
X + Y の法則
さきほどパクる、と書いたが、ただパクっただけだと2番煎じ、フォロワーになってしまうだけである。
島田紳助は、「X + Y」でものを考えることが大事だという。
ここでいうXとは「自分」、Yとは「世の中の流れ」のこと。
このXとYがわかっていない限り悩むのは時間の無駄だという。
XとYがぶつかったとき、それはヒットになるという。
例えばY、世の中の流れの方からX、自分にぶつかってきてヒットする。それは一発屋なのだという。
Xがわかっていない状態でヒットするから、なにが面白かったのか、何が世の中の人に受け入れられたのかがわからない。だからすぐにブームは去ってしまう。
長く売れている人はXをよく知っている。だからYが変化するにつれて、少しずつXを動かす、自分自身を動かしていく。
つまり、進化しないものは時代に取り残される、というところだろうか。
パクることについて書いてあったが、このXをよく知っていないと、パクリはただの2番煎じで終わってしまうのだろう。
島田紳助は、自分のキャラを考えたときに、漫才界のヒール(悪役)を見出したという。
彼は元々不良で、怖い世界のことがよくわかっていた。本当に怖いやつは面白くないけど、怖いやつが実は弱かったらめちゃめちゃおもしろい。
それは彼にしかわからなかったことだし、武器だった。そのXにY、当時客にうけていたB&B島田洋七のやり方を乗せたことで、それがヒットに繋がったのだと思う。
ここまでのまとめ
X(自分)とY(世の中の流れ)をよく知ることが大事。
X(自分)のことを知らないうちにY(世の中の流れ)がぶつかってしまうと、一発屋として長く成功できない。
「本当の客」を見極める
島田紳助は、自分たちの客は「20歳から35歳の男性」と設定していた。
そのターゲットに対しては絶対に負けない。絶対に笑わせると決めていた。
だから、客がお年寄りばかりのときは手を抜くわけではないが、笑わせようと思わず全力を出さない。なぜなら本当の客ではないから。
しかし、客層がターゲットである「20歳から35歳の男性」のときは全力投球した。
一部の領域の客にターゲットを定めたのは、当時の音楽業界の影響だという。
当時、レコードが大ヒットしていた「アリス」は日本人全員にヒットしていたわけではなく、一部の層にヒットしていた。だけど、それはヒットしていると思わせていた。
対象的に、大衆音楽であった演歌はその当時下火になりかけていた。
島田紳助は、漫才業界もいずれ音楽業界と同じく、一部の層の支持で支えられるとにらみ、自分たちの本当の客とは誰か定めた。
ちなみに「20歳から35歳の男性」にしたのは自分たちと年代が近ければ感覚が似ているだろうということからだという。
だからこそ、売れだしたときについてくる女性ファンには警戒したという。
彼からしてみたら、女性はターゲットではない。ついてまわるからヒットしているように自分たちが錯覚してしまい、彼女たちを笑わせたくなってしまう。そうすると、自分たちが設定していた「本当の客とは?」がぶれてしまう。
客席の女性ではなく、カメラの向こうのこたつで見ている男性を常に意識して漫才をしたという。
これは、漫才だけではなく何にでも言えることだと思う。「本当の客」が誰なのかを見極めないと、自分がどこを走っているのかわからなくなってしまう。
商品開発でペルソナを建てるのとおなじだと思う。
私が島田紳助を嫌いだった理由の一つに、俳優やタレントで結成したアイドルグループをプロディースしていたことがある。
とあるクイズ番組から派生したアイドルユニットをCDデビューさせ、オリコン上位にランクインさせていた。
当時、思春期真っ只中の私は「テレビの力を使って実力もないやつらを歌手デビューさせやがって」と憤慨していたけれど、今振り返ってみると私はそのアイドルユニットたちの客ではなかったのだと思う。
売れるということは、客がいるわけで、島田紳助は反骨精神の塊だった中学生男子など客には設定していなかったというわけだ。
ある意味、彼の手のひらの上だったのだなと今なら思う。
ここまでのまとめ
自分たちの「本当の客」を設定する。誰にでもヒットするものはない。
ヒットしたとき、寄ってくるファンにブレない。はじめに設定したターゲットを忘れない。
おわりに
ほかにもいろいろ書いてあったが、私がまずまとめたいと思ったことだけまとめてみた。
嫌いな人物であったが、この書籍を読んでみて、嫌いだと思っていたのも、島田紳助の術中通りだったのではないかと思えてきた。
プロデュースとはまず自分なり、売り出したいものをよく知り、その上ですでに世の中に出ているものをよく観察し、取り入れられる部分を取り入れる。そしてターゲットを見極めてそこにプッシュしていくことなのかなと、この本を読んだ限りでは思った。
まだプロデュースという概念のほんの一握りしか触れていないとおもうので、この書籍をとっかかりに学んでいきたい。
それこそ、まずは敏腕プロディーサーと呼ばれる人たちの観察から始めてみたい。
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