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ギフテッドと障害

きっとあなたは思い込んでいるのでしょう。人間というものは完璧になることを約束され、そこへと到達すべき存在なのだから、そのために足りないことを一生かけて探し続けなければならないと。(幸せのレッスン/エレーヌ・グリモー)

資質に欠けるスクールカウンセラー(SC)の問題点として『障害のラベリング』が挙げられますが、メディアが発達障害を取り上げるようになってから、生徒の対人関係や学業にまつわる諸問題を発達障害に起因するものと短絡的に決めつけ、生徒のパーソナリティとはほとんど向き合わずに他の施設にまわして解決したことにするSCがわりといるようです。

実際のところ、医師が発達障害の診断する場合も多く、その数があまりに多いことから、誤診の可能性も指摘されるようになりました。近年「揺さぶられっ子症候群」を根拠にした虐待の裁判でも、逆転無罪が相次いでいるように、既に発達障害の診断が下りている場合であっても、誤診の可能性を念頭に置いて支援にあたる必要があると思います。

心理学者ジェームス・T・ウェブらは下記著書の中で、ギフティッド特有の過興奮性によるADHDの誤診や、高知能内向性によるアスペルガー症候群の誤診について触れ、学習障害が見落とされやすいことにも言及しています。また、理想主義創造性に起因する問題行動や抑うつ、依存症、その他の重複診断についても深く考察しています。教職、心理職、精神医療職に従事される方にとって先鋭の知見が多く含まれています(下記抜粋)。

もともと日本の義務教育制度は軍事目的で導入された経緯があり、当時の全体主義の社会に適合するような教育理念が根底にあるため、特別支援教育は福祉的な意味合いが強く、知能に恵まれた子どもは対象外となっています。しかし今の社会は、既存のレールに乗って前進するだけではうまくいかないことが多いため、多数派から外れてしまいそうな(不登校になる可能性の高い)生徒を見極めて、処世術を学ばせることも必要だと思います。

私はこの本を読んで、ギフティッド教育が進んでいるアメリカでも誤診の問題が多く存在することや、博士課程を修了したアメリカの心理士ですら、ギフティッドについてほとんど正規の授業を受けていないことを知って驚きました。日本でも一昨年から大物芸能人の薬物や自殺絡みの報道が続いたので、下記の内容が広く知られるようになればいいなと思います。

ADHD/反抗挑発症・素行障害/嗜癖性障害

学校でADHD様の問題行動を見せるがADHDではないギフティッド児は、家や博物館、図書館、動物園などではそのような問題行動は見せないだろう。(略)特に、才能のある子ども同士で活動する際に問題行動が極端に減るかどうかは重要なポイントとなる。(P81)

ギフティッド児の受ける反抗挑発症(Oppositional Defiant Disorder: ODD)の誤診は、ADHDの誤診と同じくらい多い。(略)ギフティッド児は対人関係上の判断力が知的能力よりも遅れていることが多いという点に留意すべきである。(略)ギフティッド者は挑発的で議論好きであるが、社会的に望ましい方法のほうが効果的だと感じるとすぐに自身の行動を修正することがある。(略)大半のギフティッド児の反抗や怒りの根底には、「だれも自分を理解してくれない」という感情がある。(略)ギフティッド児は、社会や世界の不公平さに関心を向ける特性が強い。(P96-98)

学校や会社のコンピュータへのハッキングやウェブ上へのウィルスの拡散は、ギフティッドの若者の怒りと特に関連する素行障害の2つの例である。反抗挑発症や素行障害のいずれにおいても、カンニングが問題とされないことには留意すべきだろう。(P101)

ギフティッド者は特に新たな経験には開放的で、社会のルールや慣習を鵜呑みにしたがらない。(略)青年・成人ギフティッドがアルコールや薬物などに溺れるのには理由がある。おそらく、彼らのなかに生じた失望絶望を何とかしようとするのだろう。(P232, P233)

強迫症/アスペルガー症候群/不安症/気分障害

我々の見解では、強迫症(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)はギフティッド児が誤診されることの多い障害である。強迫症と高知能は重なりがあると我々は認識している。(P113)

内向型で数学やコンピュータなどに熱烈な興味を注ぐようなギフティッド児や成人ギフティッドのことを、ギフティッドについてよく知らない臨床家はアスペルガー症候群と誤診する可能性がある。(略)内向型の者は、求められればそれを自覚して関心を移すことができ、そうしようと努力する。(P131)

ギフティッドの特性として、激しさ繊細さ自己批判的な思考合わない社会環境の多さがある。(略)少なくとも我々の臨床観察からすると、ギフティッド児や青年ギフティッドの不安症は急速に増加傾向にあるように思われる。(P147)

我々は、双極性障害と診断された非常に幼いギフティッド児の親からの依頼をいくつも受けてきた。8歳以下の子どもでの双極性障害は誤診の可能性が非常に高い。(P151)

ギフティッド児では、中学や高校の段階、つまり、彼らが将来を見つめ始める時期から実存的うつを経験し始める。(略)7歳という若さで、人生は険しすぎてもう生きていたくないと訴える子どもの話も聞いている。実存的うつに苦しむ人々は、彼らにとって大切な人から拒絶されたとき、特に自殺のリスクが高まる。(P165-167)

学習障害/睡眠障害/アレルギー

学習障害のあるギフティッド児は、これまで考えられていたよりもずっと多く存在することがわかってきた。(略)ギフティッドの能力が障害を隠し、障害が知的ギフティッドネスを覆う。このような子どもは、当該学年の標準的な能力として求められているだけの力は発揮していることが多いため、彼らの特別なニーズは見過ごされる。(P169, P170)

ディスレクシアのギフティッド児の場合、ことばを用いた論理的思考力が高いにもかかわらず、口述や文書による言語的なアウトプットに困難を抱えることがある。(P183)

ギフティッド児に、不可解なあるいは明らかな不注意ミスや技能障害がみられる場合は、感覚統合障害、学習障害、または他の神経学的問題がないか注意深く調べるべきである。(P194)

過去数十年間にわたる多くのギフティッド児の親の報告から、ギフティッド児は他の子どもたちと比較して、極端な睡眠パターンをとることが推測される。(P203)

現在のところ、知能と胃腸機能との関係は明らかではない。とはいえ我々の臨床経験からすると、ギフティッド者の胃腸障害アレルギーの割合は高い。(P216)

この本では扱われていないのですが、数学の才能があるギフティッドがディスカリキュリア(学習障害の1つである算数障害)の重複診断を受けるという興味深い事例があります。イギリス人数学者のエマ・キングもその1人で、四則計算に困難をきたすものの、より高度な天文学的計算はできるようです。基本的な計算能力に障害があるにも関わらず、高等数学で非凡な数理能力を発揮するというのは一見矛盾しているように感じられ、脳の複雑さ、不可解さと、それによって産み出される能力の神秘性を感じずにはいられません。サヴァン症候群で知られるダニエル・タメット以来の衝撃です。


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