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出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その3

皆さまこんにちは、色々と社内でドタバタしてまして、少し更新が遅れてしまいました。文章書くモチベーションを高めるって結構大変ですよね。作家さんって本当にすごいなと思います。

出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その1
https://note.com/moritsuu/n/n50f5526c9cdc
出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その2
https://note.com/moritsuu/n/n60c5a8560c7c

に続き、その3を書きます。

--------その2はココカラ
・電子書籍という新しい流通形態・流通チャネル
・話売りをはじめとする販売形態の多様性
・マンガを読むきっかけが大きく変わった
--------その3はココカラ
・マンガアプリという媒体の変化
・宣伝プロモーションの変化
--------その4はココから
・データ分析に基づく施策の取り組み
・これからのDXを新規事業の観点で考える

マンガアプリという媒体の変化について

今回のテーマの結論から言うと、少年ジャンプはDXがとてもうまくいっているサービスと組織だと思っています。

マンガのデジタル化を語るにあたって、大きな変化として外せないのが「電子書籍」「マンガアプリ」です。マンガが読めるアプリというと大きな枠になってしまうのですが、ここでは連載形式でマンガを楽しめる無料・有料アプリを指すことにします。

よくデジタルマンガ業界の人気アプリランキングなどにおいて「電子書店」と「マンガアプリ」がひとくくりにされて並べられがちなのですが、僕らの中ではちょっと認識が違います。

・新しいマンガを連載し、いわゆる雑誌的な機能に特化したアプリ
例:ジャンプ+、マンガMee、マガポケなど
・電子コミックを売る機能に特化させた、いわゆる電子書店のアプリ
例:ジャンプBOOKストア、LINEマンガ、Kindleなど

もちろん、ジャンプ+でも電子コミックは売ってますし、LINEマンガでもオリジナル作品の連載は持っていますが、どちらに特化しているのかは結構重要なわけで、この二つは機能が全然違います。

特に集英社が数年をかけて力を入れてきたのは前者である「ジャンプ+」をはじめとする雑誌アプリ。その1の記事にで書いた「雑誌の機能」として説明をした「媒体力」「コンテンツ工場」の機能を備えた、マンガ出版社としての未来には欠かせない機能を持っています。

例えばジャンプ+は週刊少年ジャンプのデジタル版が読めることをウリにしたアプリです。ただ、それだけだとあくまでも書店になってしまうということで、数十のオリジナルの作品を連載し、世の中に新しい作品を生み出していく「コンテンツ工場」としての機能を重視した設計になってします。だからこそ、トップページはジャンプではなくオリジナルマンガの連載になっています。

さらに、今のユーザはいきなり課金をしてくれることは無い時代。そのニーズに合わせてオリジナル連載は基本は無料で楽しめる設計にしており。コツコツとグロースを積み重ねた結果として、MAU300万を超えるユーザ規模に届けられる「媒体力」を備えるようになりました。

この両方を実現したことで、将来仮に紙の雑誌が厳しくなった時でも、雑誌としての機能の代替性、ひいては出版社としての機能を失わない体制が作れていると私は思っています。(もちろん紙のジャンプの良さはたくさんあるので、永続してほしいですが)

さらに、アプリというものは戦略の幅を広げる手段にもなっており、事実、ジャンプ+チームは本体のアプリだけでなく、様々な機能を他のデジタルサービスを通して拡張していってます。

例えば
「ジャンプPAINT」
https://medibangpaint.com/jumppaint/
これは漫画家さんがデジタルでマンガを描くツールを出版社が提供をすることで、いわば描き手を増やそうという取り組みです。

例えば
「ジャンプルーキー!」
https://rookie.shonenjump.com/
従来漫画家さんの持ち込みは編集部に電話をして持ち込みをする、もしくは漫画賞に応募をするという物理的な受付しかしていなかったものを、デジタルの世界にあなたのマンガをアップしてください。ジャンプ編集部が積極的にリクルートします!という取り組みです。

例えば
「Manga Plus by SHUEISHA」
https://mangaplus.shueisha.co.jp/
従来、日本語でしか読めなかった海外のユーザさんにも同時で英語・スペイン語で読めるようにして、海賊版対策になるだけでなく、グローバルにマンガ読書のすそ野を広げていこうという取り組みです。

他にもいろいろとあるのですが

マンガの描き手を増やす
→描いた人に気軽にWeb媒体で投稿してもらう
→強い媒体をもつことで、作品の認知を広げる
→電子書籍含めて幅広くマネタイズをする
→海外に向けてもより広げてマーケットを増やす

この一連の川上から川下までの流れを、この数年をかけてジャンプ+はコツコツと取り組んで来ています。

ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の名著「イノベーションのジレンマ」で、既存の成功している企業はその成功体験から逃れられない。それゆえに新しいイノベーション(破壊的イノベーション)のタネが生まれ、それが既存事業の競合になる場合、そのタネを育てることができないジレンマに陥る。といったことが書かれています。

週刊少年ジャンプはいまだに圧倒的な漫画誌の王者ではありますが、「少年ジャンプを超える」という意思で、ある意味競合になりうるジャンプ+を内包し、ジャンプ本誌の電子化の積極推進などを進めて来ており、結果としてイノベーションのジレンマを克服しているのではと考えています。

単に雑誌をデジタルで配信をするだけでなく、全体のビジネスの流れをデジタルにシフトさせていく、これこそが雑誌におけるDXの一つの形なのではと思っています。

以上の理由から、弊社マンガチームで一番DXがうまくいっている週刊少年ジャンプの話を紹介しました。ジャンプは組織としての仕掛けをどんどん作っているのでこの先もっと面白くなっていくと思います!

と、私が偉そうに語りましたが、この一連の仕掛けは弊社ジャンプ+編集部の編集長細野と副編集長の籾山をはじめとしたジャンプ+チームが仕掛けています。特にこの二人はマジですごい。ひそかに尊敬しています。

・参考になりそうな記事
「少年ジャンプ+」編集長が語る、画期的マンガアプリ誕生の背景 「オリジナルマンガで行くという戦略は間違っていなかった」
https://realsound.jp/book/2020/02/post-507984.html
海外に日本マンガを届けた人々番外編Ⅰ MANGA Plus by SHUEISHA - メディア芸術カレントコンテンツ
https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16143/

二人のTwitterはこちら
https://twitter.com/HosonoShuhei
https://twitter.com/momiyama2019

宣伝プロモーションの変化 Web広告について

さて、話は変わりまして、デジタル化の流れは作品を知ってもらう仕組み自体も大きく変えてきています。

記事その1で、マンガ雑誌自体がプロモーションの機能を備えていたと書いたように、一昔前は雑誌に掲載されること自体が認知の取り方でした。その認知力をもってコミックスの売上がつき、人気が出たことを通してアニメ化され、アニメ化のメディアミックスを通してさらに作品の人気が広がる。この流れをいかにうまく作り上げるかが従来のマンガ業界の成功モデルでした。

もちろん、その過程において作品のプロモーションとしてテレビ広告を出したり、新聞広告、交通広告といった作品を知ってもらう宣伝施策もずっとやってきていますし、今もそれは継続されています。ただ、プロモーションは一発に大きくお金がかかるもので、小さく始めて大きく育てるといったことはなかなか難しいものです。

前記事にも書いたように、どんなに面白い作品であっても認知をとるのがとても難しい時代。一方で、Webマンガ媒体の増加により作品数はどんどん増えていっています。出版社はマーケティング、プロモーションの武器を一つでも多く作らねば、作品は埋もれていくばかりの時代になりつつあります。

そんな中、マンガに興味がある人に面白い作品があるよ!と届ける方法、この面白いマンガはこんな内容だよ!と届ける手法が最近大きく変わってきています。それがWeb広告動画です。

みなさん5年くらい前のこの広告覚えていませんか?

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親なるもの 断崖@まんが王国さんの広告
広告画像を勝手に拾ってきてます。問題あればおしらせくださいませ..

インターネットの記事やまとめサイトなどを見ているとマンガのコマが使われたバナー広告が出てきます。僕ら集英社内では「コマ広告」と呼んでまして、その名の通りマンガのコマを使った広告です。

この広告は本来は電子書店が自社のサービスのユーザ獲得のために、作られたものです。「電子書店のブランド宣伝」ではなく、「マンガの面白そうな部分」を切り抜いて、クリックして書店に誘導するという目的で動いてます。なので、マンガ自体の宣伝が目的ではないため、少しセンセーショナルな表現だったり、少し性的な表現であったり、Attentionを引くためのデザインになっているわけです。

この宣伝が始まった当初、上記の切り抜き方をされる故に出版社側は「作品のあらすじとは違う意図で切り抜かれるので誤解を受ける」といった意見であまりポジティブに捉えていませんでした。おそらく電子書店としては出版社や作家さんからなかなか許諾がおりない、そんな状況だったと思います。しかし、そんな状況の中でとても面白い事象が起きました。

「最近、広告でめちゃくちゃ見かける『親なるもの断崖』という作品が話題になって、紙で復活するまで売れているらしいよ」

まさにそれがさきほど紹介した広告です。

本作品は1992年の作品で、2007年の文庫版以降いわゆる絶版となっていた作品ですが、電子書店の広告を経て2015年に再度紙の本として再発売されました。理由は明らかで「ネット上で目を惹く広告をたくさん見て内容が気になったから」

電子書店の誘導として作られた広告が結果として作品の宣伝になったのです。もちろん電子書籍も爆売れし、その結果紙の本の再出版が決まったのだと思われます。こんなことは滅多に起きません。大事件です。

当時、私自身も電子書籍&マンガアプリの担当をしており、「あれ?この現象はちょっと面白いぞ」と思い。自社媒体の宣伝かつ作品の宣伝で使うことができないかと言うことで検証をしました。

普通Web広告はサービスに誘導すること自体が目的なので、CPI(Cost per install )やROAS(Return On Advertising Spend)といった獲得効率で効果測定を行います。その過程のimpressionやCPC(Cost Per Click)は参考にはすれど、KPIとしての指標には使わないと思います。

当時の自分はImpressionを作品のコマが目に触れた数、CPCをコマに興味を持たれ人が動いてくれた数と見て、広告出稿を通してどれだけの露出効果が図れ、いわゆるテレビCM的な効果を生み出すのかを検証しました。(厳密には色々とずれることは理解してます)

自社アプリである「ジャンプBOOKストア!」の広告をジャンプの作品でコマ広告をうち、アプリ自体の宣伝もしつつその期間および前後で自社だけではない全ての電子書店や紙の書店の売上が上がるのか?という検証です。

細かい結果は書けませんが、当時明らかに全電子書店の売上増の相関がでました。

これは各電子書店の売り上げを全て見ている出版社ならではの考え方ですし、電子書店さんはおそらくこんなアプローチでは動かなかったと思います。これは一つの発見でした。

マンガアプリのユーザ獲得もできて、作品の宣伝手法にもなる、これは美味しいぞと。

以降、社内でこの「コマ広告」のポジティブ効果を喧伝しまくり、色んな検証を行いました。クリエイティブで変わるのか?1話目を読んでもらうための誘導の仕方は?作品によって効果は違うのか?紙の書店と連動できないのか?などなど

時にはこのクリエイティブは明らかにおかしいぞ?と言うのも混ざっていたかと思いますが、作品の認知やアプリの認知を広げるために色々な検証をしました。(もちろん編集部の許諾はもらった上で)

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ネットでも少し話題になりましたが、ボーボボの広告とかは結構面白い結果出てたはずです...(笑)

今では弊社はコマ広告という言葉が社内用語にもなりましたし、私自身も多くのレポートにまとめ、色々なノウハウがたまりました。我々がきっかけではないかもしれないですが、「集英社も積極的に作品を広告にしているぞ」と、業界全体としてポジティブな効果が広まり、マンガ業界における一般的な広告手法になったとは思います。自分は業務から離れて久しいですが、おそらく今は更なる変化を遂げているかと。

作品を広げるきっかけが、あくまでも副次効果から生まれたと考えると面白いですよね。

このコマ広告と電子書店の動きをだんだんと見ている自分だから気がつくのかもですが、この数年のWebマンガ連載では、この広告を意識した作りになっている作品も多いなと感じます。「広告作りやすそうだな」「このマンガで作るといい効果が出そうだな」と。

業界の流れが作品の中身にまで影響をしていると思うと、少し面白い流れだと感じたりします。

僕ら出版社はWeb広告を通した宣伝というひとつの武器を得られました。

宣伝プロモーションの変化 動画について

少し手法の方に話をずらします。

マンガが動画になる。一般的にはアニメが思い浮かぶかと思います。

基本的にはマンガの原作を動画にするということはアニメにする、もしくはテレビCMとかで少しマンガを動かす?くらいが限度でした。なぜなら制作コストが高かったから。

マンガは読むという行為があるため能動的に楽しむコンテンツなのですが、アニメは観るという行為で楽しめる受動的なコンテンツなので、マンガ層よりもアニメ層の方が層が厚くなりがちです。なので、一般的にはアニメになると作品の認知は大きく広がります。

マンガ原作の良さはもちろん絶対的なものではありますが、絵が動き、音も入り、カラーになる。やはり動画はコンテンツとしてリッチで強い。

Youtubeをはじめ動画を見るサービスが一般的になり、制作コストが大きく下がった今、僕らの業界も動画自体には大きく目をつけています。もちろんアニメを作るのはアニメ制作会社の方が圧倒的に長けているので、もっと手前の領域。プロモーションの観点での動画を使えないかと。

従来、動画を作るとなると数百万円かかった制作費が、今や簡単な動画であれば数十万円、作り方によっては数万円で制作できる世界が来ています。ネット回線の高速化に伴い、前述のWeb広告自体もどんどん動画に対応をしてきています。

先ほどのWeb広告でも説明しましたが、「あ、このマンガ面白そう!」って思わせる手法として動画の領域が入ってくることは確実だと思います。

それを見越して、実は少年ジャンプ作品の全ての新連載は2018年くらいからコツコツとプロモーション動画を作っています。約1分くらいで制作をして、LINE公式アカウント、Twitter、Yotubeなどで配信をして、どんな作品なのかを知ってもらうための試行錯誤です。

週刊少年ジャンプ50周年のタイミングで当時の僕らデジタル事業部で始めたのですが、今は編集部に機能ごと移管をして継続がされています。

マンガを知ってもらうのは1話目を読んでもらうのが一番良い手法で、実際にジャンプ+などでも1話目の無料開放などは効果をあげていますが、能動的に「マンガを読むことすら少し面倒」と思われてしまう今の時代。受動的に見てもらえる「動画」というものは大きな可能性を感じています。

とはいえ、ここら辺はまだまだ我々も途中過程でして、上記のようないわゆるPV的な動画の作り方も取り組んでいますが、よりファンを拡大していくための動画にも需要があるし、可能性があると思います。
例えばこんな取り組み

マンガの原作を活かしつつ、アニメ要素を入れて、声優さんの声もつけて、よりその作品の刺さりそうな層に面白さを伝える。

ほぼアニメじゃん!ってことで、なかなかチャレンジングな取り組みだったのですが、思惑もハマり、作品の面白さを届けたい層に届きました。(社内戦略的な話もあり本件の詳細は割愛します)

スマホ端末はどんどん進化をし、ネットワークの速度も更なる進化をしていく未来が確実な今、動画は宣伝の手法としても、コンテンツを魅せるための手法としても、これからのコンテンツ業界には切っても切り離せない関係になっていくと思います。

YoutubeやTikTokはじめ、動画の作り方、効果的な使い方については私自身も業務として引き続き取り組んでいこうと思っています。

以上が、プロモーションを通しての業界の変化です。
この観点はまだまだデジタルをツールとして活用する領域に止まっていて、大きなDXにまでは至っておらず、出版社の機能として積極的に強化して行かねばいけないポイントだと思います。

その1
https://note.com/moritsuu/n/n50f5526c9cdc
ではそもそも雑誌の機能とは?僕らの課題とは?を説明し

その2
https://note.com/moritsuu/n/n60c5a8560c7c
では、デジタル化による流通と施策の変化を説明

そしてこの3では
デジタルの時代において、雑誌とプロモーションにおいてどういったことを取り組んできたかを書きました。

次回、その4では
データの活用などでどう変わるのか?
その先のDXって何があるのだろうか?
といったことで締めくくろうと思います。

実は来週の火曜日までに書かねばなので、頑張って書きます。

再び、期間限定で質問箱もオープンにしますので
何か質問があればどうぞ!
https://marshmallow-qa.com/moritsuu?utm_medium=url_text&utm_source=promotion


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