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出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その2

みなさま、こんにちは

1個目の記事
出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その1
https://note.com/moritsuu/n/n50f5526c9cdc
の反響が比較的よく、社内外から色々と感想いただきました。

マンガ業界の編集者の話だけでなく、ビジネス的な話もそれなりに需要があるのね!と個人的に嬉しかったので、頑張って最後まで書きます。

前回に引き続き、本文はあくまでも私個人の主張ですので、集英社としての意見ではありません。あしからず。

今回のテーマは
マンガ業界はデジタルで何が変わったのか? 前編

書いてて長くなったので、全編・後編に分けます。なので、その3は後編。最終的な未来のお話「これからのDX」はその4でまとめたいと思います。

ざっくり分けるとこんな感じ。

・電子書籍という新しい流通形態・流通チャネル
・話売りをはじめとする販売形態の多様性
・マンガを読むきっかけが大きく変わった
--------前半はココマデ
・マンガアプリという媒体の変化
・宣伝プロモーションの変化
・データ分析に基づく施策のクオリティアップ

そもそも、DXの未来を語る前に今、出版社のデジタル業界で何が起きているのかを整理しないことにはこれからのDXは語れないかと思っています。前回のテーマで既存のマンガ業界の一番大事なポイントを語りました。そして今回はいま起きている変化のお話です。順序立てて説明していきますね。

デジタル技術の進化は、いわゆる反対側にあるといわれる紙の業界である出版社にも大きな影響をもたらしておりまして、ざっくり分けると「単なるデジタルによる既存の仕組みの代替」「デジタルによるビジネスの進化」をもたらしてくれています。もちろんDXは後者でなければならないのですが、まだまだ代替にとどまっているところも数多くあります。

では進化とは?

いろんな議論の余地はあるかと思いますが
私は、ビジネスがより強くなること
すなわち
より市場が大きくなること
・より収益性が高まること
だと考えています。

デジタルは出版社にどういった進化をもたらしたのか、まだまだ代替にとどまっているのかを以下の観点で論点を整理していきたいと思います。

電子書籍という新しい流通形態・チャネル

マンガのデジタル化自体は色々な形で広がっているのですが、マンガのデジタルという言葉を聞いて真っ先に思い浮かべるのは電子書籍ですよね。

現状、電子書籍業界は約3000億円規模の市場と言われています。出版業界全体が約1.5兆円くらいなので、まだ5分の1くらいの市場。

ただ、実際に市場が伸びていることが証明しているように、電子書籍の利便性は新しいビジネスチャンスを生み出してます。
・欲しいと思った時に買える(在庫の問題を解決)
・プライベートの書棚として買える
などなど、色々と思いつきますよね。

「私は電子書籍派だ」「私は紙派だ」いろんな議論があり、この二つはよくライバルのように扱われます。全部ではないにせよ、電子コミックが紙コミックの市場を代替している部分があるのは事実だと思います。

この議論の延長で、「長年電子書籍は紙の市場を滅ぼすのか」といったセンセーショナルな議論が繰り広げられてきたわけですが、私はこのライバル議論は反対の意見でして、実際には近年、食い合いとは違う現象が起き始めています。

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『出版月報』2020年2月号より

この資料は「デジタル市場が伸びているよ!」という説明もできますし、「雑誌・紙コミックが残念ながら落ち続けている」と説明もできます。ただ、違う視点で見ると、2014年以降はコミック市場全体の推移で96年以来、長年マイナス傾向だった全体の市場が紙とデジタルを足すと、下げ止まって少し上向き始めたよという結果にもなっています。

紙の市場をデジタルが代替しているとも見えなくもないのですが、弊社でもデジタルコミックが売れたことによって話題になり、後追いで紙の重版がかかって紙もプラスに動くといった事例も出てきていることから、補完関係にあるのでは?と私は考えてます。

また、データを見てもわかるように、紙コミックス市場はかなり横ばいに推移しており、昨年から今年の鬼滅の刃の大ヒットで紙コミックスが売れに売れていることからわかるように、まだまだ紙コミックの市場は底堅く根強いです。

後編のプロモーション/分析のところで書きますが、紙と電子では売り方が変わったのも面白いポイントになります。

ただ、電子書籍の惜しいところとして紙と電子の読み方は変わらない。ePubのデータは仕様上、単なるスキャン画像のアーカイブ。単なるデジタル化に留まっています。

市場が広がっているのはDXともいえるし、読書体験という意味ではまだ代替に留まっているのはDXとは言えない、微妙なところです。

ただ、市場全体はポジティブに動いているのは喜ばしいですね。

将来、いわゆるマンガの読み方・読書体験すら変化するDXが実現できるのか?僕らが実現しなければいけないのですが、日々どうしたものかと悩んでいます。良いアイデアがあれば是非ご一緒にお仕事しましょう!

話売りをはじめとする販売形態の多様性

電子書籍が普及していくにあたって、コンテンツの粒度も変化してきています。従来、マンガビジネスは雑誌で連載し話数・ページ数がたまったタイミングでアーカイブとしてコミックスを売るというのが一般的でした。

アメコミの薄い本とは異なり、コミックスは200ページ~300ページ、雑誌はさらにページ数が多い、ぎっしり話が詰まった本の形態が日本のマンガのスタンダードであり、流通もそれに合わせて動いていたわけです。

それが電子書籍になると従来のパッケージモデルは残りつつ、分割される現象が起き始めました。いわゆる話売り形態の流通が登場してます。

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話売りでマンガを読むならゼブラック!(宣伝)

話で読めるマンガというと、マンガアプリをイメージしがちで、スマートフォンの普及で状況が動いたのかと思われがちですが、実はガラケー時代からマンガを話で読むサービスは動いており、有名なとことだとアムタス社の「めちゃコミック」さんが大手ですし、集英社もマンガカプセルというサービスを2006年から提供しています(マンカプは2015年に終了)。

話売りは消費形態の変化をもたらしており、マイクロコンテンツ化することで、自分が気になるものだけを、気軽に、手に入れやすい価格帯でトライすることができるようになった。

「ただ単にパッケージをバラバラにしただけでしょ?なんの進化もないじゃない?」と思うかと思います。しかし、この紙ではできなかった、デジタルだからこそできた分割性が読まれ方とプロモーションの多様化を生み出しています。

マンガの読むきっかけが大きく変わった

前記事で今の出版社に必要なのはマーケティング機能。と書きましたが、出版社のデジタル業界ではマンガを読んでもらうため、手に取ってもらうためのいろんなプロモーション施策が動いています。

・ひとつが「一巻無料」

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ジャンプBOOKストアのトップも基本的には無料施策のバナーで埋まっています

電子書店に行くと、大体の書店で「冒頭巻が無料!」というキャンペーンが展開されています。最初は「無料で読むってどういうこと?」って思う方も多いかと思いますが、作家さんの許諾の上でビジネスでやっているわけで、何も無料で読んで欲しいわけではないです。

言わずもがな「冒頭巻を試しに読んでね、続きが気になったら買ってね!」という施策です。

基本的には期間限定で、期間が過ぎると本棚からデータが消えます。紙の本だと「はい!読んでくれてありがとう!じゃあ本棚から消しておくね!」なんてマジシャンみたいなことはできないわけで、電子版だからこそ出来るきっかけづくりなのです。

実際に電子版ではこの施策のアリナシでは大きく売り上げが変わってきますし、この施策が有効的なジャンルとなかなか難しいジャンルで売上は結構変わります。

この施策はもはや業界全体のスタンダードになってしまったのですが、電子書籍の黎明期の時はバッチバチにはまったようです。施策をやれば大体のマンガの続刊が面白いように売れた。もちろん、今でも有効な施策ではありますが、最近は業界全体に広がり、巻数が増えたり、目立たなくなってきているので、改善の余地が出てきているようです。

・ひとつが「待てば無料」

さらなる進化として、電子書店の1巻無料と、話売りのマイクロコンテンツ化と、スマホゲームの待ち時間の課金システムが組み合わせた施策が生み出されました。

それがピッコマさんによる「待てば無料」

ざっくりいうと、全100話のうち50話までは無料で読めます。ただし、読めるのは1日1話だけ、明日まで待てばもう1話読めます。待ちきれない人や50話以降を楽しみたい人は課金してくださいね。というモデル。

思いつきそうな形ですが、これはなかなか画期的でした。画期的過ぎて、サービス当初、日本では各出版社もなかなかOKを出さなかったのも記憶に新しいですし、なんだったら自分も当時うまくいかないだろうと思って反対してました。ごめんなさい。

今やいろんなアプリでも採用されていますし、集英社でも「ゼブラック」や「ヤンジャン!」のアプリで同じ仕組みが採用されています。

このモデルは人間の心理を突いているというか、マンガの続きが気になる中毒性を突いた面白い仕組みで、ピッコマさん自身もサービス開始から急成長をしています。

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ピッコマさんの資料から抜粋(2018年までの少し古いデータです)

同モデルを採用してリニューアルをした後のLINEマンガも大きく伸びていますし

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LINEのIRデータから抜粋

集英社のゼブラックもサービス開始から大きく伸びてます

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ゼブラックは対外的に情報出してないので、担当の中路さんのツイートを抜粋2020年6月26日の投稿

と、このような形で、デジタルによる業界全体の変化、マンガアプリによる変化、読み方・マンガのタッチポイント、プロモーション施策のやり方などいろいろな変化が起きています。

これにより市場が広がっていることも事実だし、この変化に合わせたビジネスモデルを出版社は如何に早くキャッチアップし、協業関係にある電子書店さん、自社アプリを対応し、作家さんに1円でも多くの売上をお戻しできる方法を考えねばならないわけです。

意外と面白そうだし、思ってたより古臭い業界じゃなくてデジタルマーケティング業界的だと思いませんか?今の時代の出版社の働き方楽しそうじゃないですか?

優秀な方々、ぜひこの業界に飛び込んできてください。

さて、気が付いたら目安の3000文字も大きく超えて3800文字になってますので、続きは後編(その3)に書きます。

次回は読み方が変わったことに加えて、プロモーションがどう変わったのか、マンガアプリという雑誌に変わる新しい可能性、データ分析とかってどうなの?といったポインㇳをビジネスの観点からまとめてみたいと思います!

その3はこちら
https://note.com/moritsuu/n/ncbc87ca7f273

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