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『十年目の手記』

https://www.ikinobirubooks.co.jp/syuki/

東日本大震災から十年というタイミングで募集された手記と、それにまつわる取組みの記録。webサイトにすべての手記がテキストで、一部は朗読音源が掲載されている。
Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021


2011年3月は、茨城県での大学生活を終え、就職しようという時だった。あの日は実家に帰省していたから、運良く直接被害は受けなかった。空調が無いアパートに住んでいたので、よく入り浸っていた図書館の2mほどの棚が、将棋倒しになった画像をTwitterで見て、卒業のこのタイミングでなかったら死んでいたかもしれない、と思った。バイト先もてんやわんやだったみたいだけれど、直接何かを手伝うこともできず、幸い就職先は予定通り採用してくれたので、4月には東京での社会人生活が始まった。卒業式はなかったから、1年後にパーティーのような集まりが開催されたが、参加者はそれほど多くなかったように記憶している。ただ、福島出身の友人が来ていて、直後はアパートに家族が身を寄せていたことなどを聞いた。いつか戻れると言ったものの、自分は心からはそう思えていないことに後ろめたさを感じた。放射能で戻れないかもという考えは拭えなかった。でも友人は希望をもった笑顔でうん!と返した。

その後の自分の人生を振り返れば色々あったものの、手記を寄せた人たちが生きてきたほど濃密な時間を過ごしてきただろうか、とふと思った。もちろん比べるものではないし、傍から見たら自分の人生もそれなりに波乱のあるものだと思う。ただ、10年という時を経て振り返ったときに、過去がどういう意味をもつのか、それは今をどう積み重ねるか、それによって如何様にも変わるのだと思う。
あの日から余生を生きている気がする、そんな旨を書いている人がいた。それは私も図書館の記憶から、少し分かる気がしている。余生はのんびり落ち着いて、もいいけれど、元気なうちは何でも挑戦してみたら、きっと過去は密度高くなっているんだろう。

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