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10月16日(水)9日目 国分寺、善楽寺、竹林寺

ここしばらくは夜8時か9時には眠くなって寝て、3時4時には自然に目が覚める、そこからしばらく旅の記録をつけるというルーティンが確立されていたが、昨日は2時まで飲んでいたから今朝は目が覚めたら7時。早寝早起きはよいルーティン、習慣だと思うが、酒は一発でこれをぶち壊す。まったくおそろしいドラッグである。今晩も高知を堪能するぞ(反省する気なし)。

とはいえ、昼はお遍路したい。高知市内とその周辺には札所が集まっている。まず、南国市にある二十九番札所国分寺。次に高知市内にある三十番札所善楽寺、三十一番札所竹林寺。これまた南国市にある三十二番札所禅師峰寺(ぜんじぶじ)。また高知市に戻って三十三番札所雪蹊寺。三十四番札所種間寺(たねまじ)。昼間はこれをサクサクまわりたい。とはいえ高知市内にゃ長くいたい。アンビバレントな気持ちである。

お遍路以外にも、高知という人口三十万人の大都会にいる間にしておきたいことがある。自転車のメンテナンスと、iPhoneの保護フィルム購入である。なんだかんだでここまでで500km近く移動したのではないか。ここらで油をさしてもらったり、空気を入れてもらったりしたほうがいいだろう。iPhoneのガラスフィルムも焼山寺での地獄の山道で割ってしまっていた。この旅の記録もすべてiPhoneで書いてるし、毎回割れた画面を見るのは気になる。直しておきたい。忙しい一日になりそうだ。

まずは腹ごしらえだ。高知に来たら食べろと言われていた地元ローカルチェーン店「くいしんぼ如月」に行く。コンビニと弁当屋。二足の草鞋を同時に履こうという先進的な業態で高知内では知らない人はいない地元ローカルチェーン店だという。名物のチキンナンバン弁当を注文。朝から!チキンナンバン!!味は残念ながらあんまり好みではなかったけど、やらかめのごはんが大好きな人には強くすすめしたい。


腹ごしらえもそこそこに早速札所をまわる。まずは南国市にある二十九番札所国分寺へ。こちらは田園風景が広がる平地の中にある、非常にシンプルなお寺だ。聖武天皇の令で作られたとされる国分寺。その歴史も古い。シンプルで余計なものがなく、すっきりしていて厳か。非常に自分好みの落ち着いた寺だ。

次は高知市内にある三十番札所善楽寺へ。これまた(山奥ではなく)一宮(いっく)という村落エリアにある「まちなかのお寺」という感じでアクセスはとてもしやすい。親しみやすいお寺ではあるのだが、これまた直前の国分寺とはまったく真逆のキャラクターで、というのは、何もかもがゴチャゴチャしているのである。国分寺はどこに立って何を見ても視界に余計なものが入らない。境内から門の方を見ると、切り取られた景色と空だけが目に映る、その心地よさよ。ところが善楽寺はこの逆でどこを見ても他の何かが目に入り、これが非常に「うるさい」のである。


その「うるさい」をさらに加速させているのが、この寺独自のお遍路のキャラクターである。高知出身のクリエイター、刈谷仁美がデザインしたというその女性お遍路さんのキャラクター、それ自体は魅力的なのだが、これを押し出す、打ち出すために、境内のどこを見てもどこにでもそのキャラクターのポスター、貼り紙、看板がある。残念ながらそれが煩わしさになってしまい、逆に寺の魅力を損なってしまっていると思う。とはいえ、寺の歴史を見ると、廃仏毀釈の影響を受け寺が潰されたり、それでもようやく復活したりと、紆余曲折ありながらも周囲の住民の協力を得ながら、親しまれながら、それをパワーにここまで生き抜いてきたのだということがわかる。別に美しさやスマートさだけが寺の魅力ではないだろう。SNSもやっているみたいでアカウントを見にいったらちょうどクラウドファンディングにチャレンジし見事達成したところだった。好みの寺というわけではないが、とても印象的な参拝経験だった。

続いて竹林寺へと向かうのだが、その前に。サイクルベースあさひにて自転車のチューンナップをお願いする。通りすがりのお遍路さん、あまりお金にもならないのに丁寧に時間をかけてメンテナンスしてくれた。ありがたや。続いて高知市内にある「あいほん屋」さんへ。こちらで画面保護フィルムを購入し貼ってもらう。「地元の方ですか?」というので徳島から来たお遍路だと伝えると「では一応伝えておきますね。一週間以内にガラスフィルムが割れた場合にこの紙をお持ちいただければ半額で購入できますので」。そんなすぐにガラスフィルムを割る人もいるのか。いや、いないからそんなサービスを提供してるのか。

というわけで用事もすべて済んだのでいざ三十一番札所竹林寺へ。高知市内ではあるが少しはずれた場所にあるのだが、今日まわった他の寺とは違って、山の上のほうにある。お遍路ももう長くなってきたので、この場合、自転車を下に置きっぱなしにしたほうが早いことは学習している。こんな感じでプレイヤースキルも確実に上がってるためか、険しい地形や山登りの距離などお遍路の難易度自体は上がってはきているものの攻略も容易になってきている。

昨日「たに志」で美術評論家のK氏から聞いていた通り竹林寺は大変素晴らしい寺だった。高知県でも最も歴史の古い札所の寺だということで古い仏像や珍しい仏像が並ぶとともに、美術評論家のある種のキュレーションも入っているのだろうか。新しい彫像も作られており、並列して参拝の対象になっているのがおもしろい。エインシェントでありながらモダン、リリジャスでありながらアーティスティック。庭自体も広く、また高知市高知県そのものの成立とも深く絡み合っているようだ。

毎日寺を見ているとどんどん寺を見るこちらの目も肥えてくるのも実感する。帰り道は今登ってきた坂道を降っていくのだが、昨日の深夜までの飲みと連日の疲れがたまっており、とにかく眠くてたまらない。本当はこの竹林寺から距離的に近い次の札所禅師峰寺も今日中に打っておきたかったが、禅師峰寺もおそらくは山の中にあるだろう。今の眠さでは危険と判断し、宿に帰って眠ることにした。

宿は高知市内にあるカプセルサウナをとってある。高知市は本当に魅力的な街でなんなら住みたいくらい、飲食店のレベルも高いし、今日見たようにお寺もどれも素晴らしく伝統もあるのだが、このカプセルサウナだけは許せない。それくらいひどい。まず、サウナだからということで浴槽がない。温水浴ができない。コストカットなんだろう。サウナ入りにきたのだし客もサウナ目当てで来るのだから湯船は必要なし!という判断なんだろうが、疲れた時に一番効くのはサウナなどではなく湯船である。でも、湯船がないから仕方がない。シャワーを浴びてサウナにだけ入り、水風呂に入って、その後、室内に用意されたリクライニングチェアに寝転ぶ。この室内も最低である。室内にいながら屋外のような開放感を!ということなのかもしれないが、床一面に敷き詰められた人工芝がたいへん不衛生だし(どうやって掃除するのか謎)水はけも悪く、常に濡れている。濡れた人工芝が心地いいわけがない。とはいえ、そんな怒りも維持できないくらい疲れており、一瞬で眠り込んでしまった。気づくと2時間ほど裸で眠っていたようだ。

カプセルルームに帰り、また旅の記録をつける。今日は8時からTwitterやMastodonなどで相互フォローのSOさんと一緒に飲む予定だ。SOさんは沖縄出身高知市在住の方で、過去にも森にいろいろ親切にしてくださり、気持ちが落ち込んだ時にはほしいものリストから物を送ってくださったりと世話になりっぱなしだ。

ひろめ市場でSOさんと待ち合わせる。初対面である。初対面という感慨もお互い深くはなく(笑)、そのまま「ひろめ行きましょう!」で屋内に入る。が、平日夜のひろめはどこも満席。ひろめ市場と似たことを他県でもやろうとしたが、たいがいのケースは失敗に終わるという。なぜひろめだけが成功しているのかというと、ひろめ市場を支えている、平日真昼間から酒を飲む客はほぼ高知民だからだ。それくらい高知の人は酒を飲む。

ひろめ市場にはもう何回も行っているので特に未練はない。満員だったのでSOさんおすすめのお店「パンダ屋」に入る。ここも非常に雰囲気がよい。たまたまらしいが、自分以外お客さんは全員女性である。高知では当然だが女性も酒を飲む。昨日たに志であった女性も、よく一人で飲んでいるという。高知がいいのは女が一人で飲んでいても別に誰も何も思わないところだという。他県で同じことをすると「一人でさびしいのだろう」と言われナンパばかりされるのでウンザリするという。

メニューは肉、魚、野菜と何でもあるが、とにかく自分はこの店の漬物が気に入った。「市販の液体使って漬けるだけですよ」とマスターは謙遜されるが、その素材ごとにきちんと必然性のある味付けで漬けてあり、キャラクターも役割もはっきりしてるので飽きることがない。それにこいつらで飲む日本酒がもう最高。高知の酒は割と淡麗で食べ物と組み合わせてこそ真価を発揮するものが多いから、食感も味もはっきりしているこの店の漬物との相性が抜群なのだ。そんなこと初めてだが、漬物ばかり頼んで食べてしまった。

チャーテの漬物。チャーテとはハヤトウリのこと。
イタドリ


頼んでもいなのに日本酒と同時にチェイサーだしてくれるのもありがたすぎる。高知ではお酒を結構飲んでしまったのだが、あまりひどい二日酔いにはまったくならなかった。お酒自体があとに残りにくいのもあるのだろうが、お店の人が水を出してくれたり、ドカンとウォーターサーバーが真ん中に置いてあっていつでも好きに水が飲めたりする環境も大きいのかもしれない。水を適宜補充しながらだとお酒もより多く飲め翌日へのダメージも少ない。とにかく酒をたくさん飲むことにかけては高知は「知り尽くしてる」印象を受けた。

以前から様々ご支援いただいているのでここはお代払いますと宣言していたのにもかかわらず、こちらの手を強く制止して「ノー!これは!お接待!」などと言ってSOさんが全部出してくれた。かたじけない……。

では二軒目は森のおごりでというと、SOさんが安兵衛に行きましょう!と言う。高知では知らぬ人のいない餃子屋らしい。見てみて驚いた。駐車場にテントを張っただけの簡易な「店舗」に客がびっしり。当然満員で並んで待つことになるのだが、回転率がとにかく早い。みんな飲むだけ飲んだらちゃっちゃと出ていく。長居はしない。あっという間に席を案内された。SOさんも食べるが森はもっと食べる。餃子におでんにシメのラーメン!! あっさりした昔ながらの「中華そば」風である。隣の席の人は福岡から来た観光客だったが、ここでもメイン客は地元民。周囲からは「ちゅうちゅう」「きぃきぃ」聞こえてくるのであった。



他のエリア、たとえば福岡や名古屋が栄えていても「人口規模が違うから」と思えば嫉妬もしないのだが、高知は人口30万。徳島は20万だから10万しか違わないし、むしろ立地や条件からすれば高知のほうが条件が悪いと言える。それなのに徳島なんか全然相手にならないこの盛り上がりとまち自体が持つ活気。高知の最後の夜をめいっぱい楽しみ、明日は市内と周辺の残りの寺をまわりきる予定だ。

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