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「あんた、どうせ自分が248歳くらいまで生きると思っているんじゃないの?その頃には、あんたの体はとっくに機能を失ってしまって、脳みそだけが培養液に浮いているような、生きてるか死んでいるかも分からないような状態になっているでしょうね。それで本当にいいのかしら?あんたの心と体が、まだ思い通りに動いていたあの頃に帰ることなんて一生できないのよ。どんなに心で思っても、体が追い付かなくなったのは、そうね、大体70前後じゃなかったかしら。生きる希望も失って、あとは死を待つばかりの人生よ。
いい?人生っていうのは、何度も繰り返せるものではないのよ。
長生きしたって、中身が無かったらまるで意味がないのよ。まるで、キュウリの無いちくわみたいな感じよ。
今、心と体が言うことを聞いている間に、やれるだけのことをやってみなければ、きっと後悔すると思うわ。
私みたいに、爪の先ほどしかない脳みそになりたくないでしょ」
と、彼女は培養液の中で248年目を迎えた人生経験からくるアドバイスを、1歳の赤子に語るのであった。

峯岸達夫『千年女優』

 新しい場所へと飛び出すことを決めると、目の前のことが急に覚束なくなるのが常である。車両同士が切り離されるときと同じように、その動きはゆったりとのんびりしていてあっけない。それまでは強固に繋がっていたにも関わらず、新しい場所へと車輪を回しはじめた列車は、あっという間に繋がっていた車両を置き去りにして、路線を変えて行く。動き出した列車から見れば、繋がっていた列車は止まっているように見えるだろう。大体、そんな感じのことが今の僕の頭の中にあることである。

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