【1分小説】日向ぼっこしていたら鎌倉時代にタイムスリップした話
お題:「陽だまり、歴史、羽根」
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
-----------------------------------------------
陽だまりの中に歴史あり。
うっかり人気のない陽だまりに足を突っ込んだら鎌倉時代にタイムスリップしてしまった。
初めから話そうか。
全く手入れされず森のように鬱蒼とした小さな公園の真ん中に、ひと一人分の陽だまりがある。冬至の日に日向ぼっこをするには小さすぎるとみえて、公園には僕以外だれもいない。僕は大丈夫だ。一人分の場所さえあれば問題ない。なぜなら僕はいつも一人でいるからだ。家でも学校でも。
ああ、日差しが温かい。家族やクラスメートの冷めた視線で冷やされた僕の体にも、日差しは平等に降り注ぐ。そうしてほんのわずかな時間、目を閉じたその時だった。頬を羽根で撫でられるような、わずかな空気の震えを感じた。
隣で誰かが倒れる音がした。いや、初めは人間が倒れるというより、金属でできた重いものが崩れたのかと思った。びっくりして目を開けると、そこに鎧を着た男が倒れていた。
時代劇の撮影だろうか。ということはカメラが回っているのか。うっかり映り込んだら大変だ。慌てて逃げようとしたら、男に足首をつかまれた。
「ひえっ」
「お主……この戦場に丸腰でいるとは、ただ者ではないな」
あっ駄目だこの人、役に入り込んでしまっている。
「は、離してください」
「随分と薄情な奴だな。お主の目はどこについている。ここに人が倒れているのだぞ」
「自分で立てばいいじゃないですか」
「うっ」
男は急に足を押さえて苦しみだした。
そのあたりでようやく、僕は異変に気が付いた。周りの鬱蒼とした草木の様子は変わらないが、どうも騒がしい。撮影にしては大がかりすぎるし、今まで嗅いだことのないニオイもする。
「伏せろ!」
男が急に僕の足首を引っ張ったので、思わず転んだ。
先程まで僕が立っていたあたりを、鋭い風が吹いた。矢だ。えっ本物? じゃあこの男の人は……。
「駄目だ。退却だ。もう打つ手がない。行くぞ!」
頭の整理が追い付かないまま、僕は男に手を引かれて陽だまりを抜け繁みに隠れた。
その時僕は気付かなかった。一枚の白い羽根が、陽だまりの中で光っていたこと。そしてその羽根が、またふわりと飛ばされてどこかへ飛んで行ってしまったことを。