見出し画像

【1分小説】トムライチョウ

お題:疲れた弔い
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
       ※サービス終了しています
--------------------------------------

 トムライチョウは、羽も体も真っ黒な蝶々だ。
 姿が喪服に似ているのもさることながら、その名で呼ばれるもう一つの由来がある。

 トムライチョウの芋虫は、綺麗な新緑の色で、そのサナギも同じ色だ。
 彼らは羽化して蝶になった後も、毎朝抜け殻になったサナギの元を訪れる。

 十字の裂け目のついたそれは棺を連想させ、そこに戻ってくる様子は、まるで故人を弔いに来ているようだと言われ、この名がついたのだ。

 ここに一匹のトムライチョウが飛んでいる。例のごとく、今朝も己の抜け殻の元を訪れる。

 朝日を浴びても、体はその光をそっくり吸収してしまう。

 チョウは遠くへ飛んでみたかった。
 何日も何日もかけて遠い所まで行ってみたかった。
 しかし、毎朝のこの弔いが邪魔をする。

 チョウは抜け殻に止まったまま、透き通った空を見上げる。
 終わりのない弔いに、蝶は疲れている。