【1分小説】トムライチョウ
お題:疲れた弔い
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トムライチョウは、羽も体も真っ黒な蝶々だ。
姿が喪服に似ているのもさることながら、その名で呼ばれるもう一つの由来がある。
トムライチョウの芋虫は、綺麗な新緑の色で、そのサナギも同じ色だ。
彼らは羽化して蝶になった後も、毎朝抜け殻になったサナギの元を訪れる。
十字の裂け目のついたそれは棺を連想させ、そこに戻ってくる様子は、まるで故人を弔いに来ているようだと言われ、この名がついたのだ。
ここに一匹のトムライチョウが飛んでいる。例のごとく、今朝も己の抜け殻の元を訪れる。
朝日を浴びても、体はその光をそっくり吸収してしまう。
チョウは遠くへ飛んでみたかった。
何日も何日もかけて遠い所まで行ってみたかった。
しかし、毎朝のこの弔いが邪魔をする。
チョウは抜け殻に止まったまま、透き通った空を見上げる。
終わりのない弔いに、蝶は疲れている。