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ブックレビュー『日本占領と「敗戦革命」の危機』江崎道朗著

(※平成30年のブログ記事の再録)

「戦争」と「戦闘」は違う。

日米戦争は昭和16年12月8日に始まって、昭和20年8月15日に終わったのではない。それは両国が「干戈を交えて戦闘」していた期間であり、「戦争」はそのずっと前から始まっていて、そして8月15日以降もずっと続いていた。その観点を持たないと、あの時代を理解することはできないのではないかと私個人は考えている。

日本をひたすら擁護するためではなく(気持ちとしては擁護したいが)、敵をひたすら悪者にするためではなく、つまり「感情論」ではなく、あのとき何が起こっていて、どういう力が働いていて、誰がどこで何をしていたのか、という「ファクト」を丹念に調べることで、少しずつ実相が見えてくるのではないだろうか。

もちろんあまりにも複雑かつ広範囲で、解明されていないことも多く、一筋縄では理解できないと承知している。しかしそれでも、江崎道朗先生の『日本占領と「敗戦革命」の危機』(PHP研究所)を読み、戦闘終結後の「戦争」がいかなるものだったか、そのとき何が起こっていたのか、かなり事実が解明されてきたのを実感した。
(ちなみに「戦闘前の戦争」については、同氏の『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本は誰と戦ったのか』に詳しい)

今も勉強は不十分だが、今よりさらに何も知らなかった頃から、私はぼんやりとした疑問を抱いていた。GHQの占領政策において、なぜ財閥解体が行われたのか、なぜ労働組合が奨励されたのか、その結果、なぜバリバリの共産主義的労働組合が激増したのか、ということだ。GHQは「自由の国アメリカ」から来た人たちではないのか? それなのに、やっていたことは、まるで日本を社会主義国にしようとしていたかのようだ。どう考えても変じゃないか?

疑問を感じるには感じたが、それ以上何も調べられずにいた自分が、江崎道朗先生の一連の著書から得た大きなヒントが、「アメリカ政府にも、日本にも、“戦前”からソ連のスパイが浸透し、暗躍し、影響工作を行っていた」という「事実」である。つまりGHQは、自由の国アメリカからやってきたにもかかわらず、ソ連のスパイの影響が色濃く反映された組織だったわけだ。(そうでない人ももちろんいた)

すべてをスターリン一人のせいにするわけではない(それも感情論だ)。しかし、日米を戦わせて日本を疲弊させ、敗戦の機に乗じて、かつての東欧諸国のような「ソ連の衛星国家」につくり変えようとした、という意図があったのは明白ではないかと思う。それをギリギリで阻止した事実に基づくストーリーが、同書に記されている。

このような歴史の裏側が、少しずつ白日の下にさらされ始めている。30年前、40年前に信じていた「常識」は、一度完全に捨ててしまったほうがいいと、私個人は考えている。同書が多くの人に読まれれば読まれるほど、戦後の混乱期に何があったのかについての理解が深まり、日本がよい方向に進んでいくものと信じる。

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