朝も夜も死んでほしい蜘蛛

最近、蜘蛛と同居している。この部屋に現れる虫はテントウムシダマシとカメムシだけだったから、すごく新鮮だ。いらっしゃいませ。ようこそ。

しかしまあ、実害はないけど気持ち悪い。遠目に見てるぶんには罪のない子蜘蛛だけど、肌の上を這われたらと思うとゾッとする。だって足が多いもの。

大きさはテントウムシよりも小さい。もちろんテントウムシダマシよりも。

ちなみにテントウムシダマシはテントウムシとは違う。テントウムシは肉食で、体内に毒を持っている。ダマシのほうは草食で毒もない。だからテントウムシの姿を真似て、ほら僕も毒あるから食べないでよとアピールしている。

草食と聞くと無害そうではあるが、農作物に被害を及ぼすから害虫指定されている。逆に肉食で毒持ちの凶悪そうなテントウムシさんは、アブラムシを食べてくれるから益虫だったりする。

カメムシは害虫です。臭いから。地球規模で害虫なので、ほんと滅びればいい。

蜘蛛の話に戻りますが、別に私にとっては益虫でも害虫でもないので、正直いてもらっても構わない。

しかしまあ、天井に巣を作り始めたところを見ると、放置するのもいかがなものかと思えてきた。この部屋に、お前が捕食できる生き物など存在しないのに。ダマシが草食でよかったなお前。

蜘蛛を見かけるたびに私は殺そうと思って立ち上がるが、ふと手を止めてしまう。

朝と夜、蜘蛛を殺してはいけないのはどちらだったか。悩んでるうちにどうでもよくなってしまう。スマホで調べるのもめんどくさい。

おかげで蜘蛛は生き長らえてるわけだが、時間帯によって生殺与奪が変動するって、どういうシステムだ。

まるで蜘蛛の命の価値が、朝か夜か、どっちかにしかないみたいじゃないか。一日半分しか生きてる価値がないのか蜘蛛には。

あれか。職場ではニコニコ接するけど、家に帰ってからSNSで殺す殺す殺すとぶちまけるようなあれか。不健全だなあ。

どうせ殺すなら、昼夜問わず殺意を抱くべきじゃないのか。朝だからとかそんな理由で見逃すのは、逆に蜘蛛に失礼なんじゃないのか。

ああ、カメムシか。お前はたとえ私が最高に上機嫌なときでもぶち殺す。朝でも夜でも正月でもクリスマスでも、変わらぬ殺意を持って接してやる。ぶち殺すと心の中で思う前に、すでに行動が終わっているくらい、奴らには冷酷でいられる。

必殺仕事人よろしくガムテープをビッとちぎり取り、すっと背中から貼り付けて除去して、外のゴミ箱に捨てに行く。

カメムシは臭腺がお腹にあるけど、羽を震わせないとニオイを拡散できないから、ガムテープで固定してしまえば完封できる。

ゴミ箱の中で、己のニオイで自害することもできずに餓死していくカメムシを思うと、良心が痛むどころかむしろ爽快だ。ざまあみろ。

しかし蜘蛛にはそこまでの殺意は抱けない。でもまあ、このまま部屋にいたところで、餓死するしかないと思うんだけど。だったら自主退室していただくのが最も穏便な解決法ではあるのだが、当の本人は住む気まんまんでマイハウスを建て始めてしまった。

その巣にうっかりカメムシが引っかかって、パニックを起こしてニオイを撒き散らしたらどうしよう。そのリスクを避けるためにも、やはり蜘蛛は排除しておくべきなのか。

あっ、いまは昼だから殺してもいいのか。

私はビッとガムテープをちぎり取り、中途半端な殺意にもやもやしたまま、天井に手を伸ばすのであった。

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