森下裕美X吉田尚記さんとの対談inマチ★アソビ(その2)
森下裕美X吉田尚記対談その2!
前回は森下先生がマンガ家を目指したところまでのお話でした。
その1はこちら
今回はマンガ家デビューからアシベが生まれるまでのお話。
さっそく続きをどうぞ!
・やっぱりガロとジャンプ両方に持ち込む人っていないですよね?
吉田
最初から職業にすることを目指してマンガ家になったんですね。
森下
そうですね。だから、マンガ家になれなかったらどうしようと思って・・・それこそ、田舎の蔵にこもってひっそりと暮らすしかないと思っていました。
吉田
『蟲師』みたいじゃないですか 笑
マンガ家としてプロになるためには、作品を書いて編集部に持ち込みとかしないといけないと思うんですけど、それは14歳のころからやられていたんですか?
森下
そうですね、そのころから少女マンガに投稿していたんですけど、向いていないって批評されて、少年マンガに投稿することにしたんです。ただ、当時、世の中の雑誌のことを何にも知らなくって、とりあえず少年ジャンプとヤングジャンプに投稿しました。
吉田
他にも投稿はされたんですか?
森下
あ、そうですね。集英社から場所が近いという理由だけで、ガロにも持ち込みをしました。
吉田
え、ガロですか!?ガロって、表現の極北みたいなところじゃないですか。
森下
すごい近かったんです。徒歩5分くらいでした。
吉田
徒歩5分だから行ったんですか?
森下
そうですね。行きました。
吉田
そうなんですね・・・。あの、当時連載されてた作品で、少年ジャンプとかヤングジャンプとかガロには惹かれる作品があったんですか?
森下
いや、なかったですね。単に知ってる・売れてる雑誌という理由で行きました。
吉田
え、でも、ガロってそういう雑誌じゃないですよね?
森下
まあなんか近いし、行けば何とかなると思って 笑
吉田
そんな感じだったんですね 笑
ガロって、原稿料が出なかったって聞いたことがあるのですが、それだと雑誌に載ってもプロにはなれないですよね?
森下
知らなかったんです、出ないって。
・・・あ、でも実はもらってたんです。原稿一枚5000円かな?なんか途中で景気が良くなって出せるようになったんです。
吉田
へえ~、そうだったんですね。でも、結果的にですけど、やっぱりガロとジャンプ両方に持ち込む人っていないですよね?
森下
ええ、聞きました。誰もいないって 笑
吉田
ですよね。歴史上、他にだれもいませんよね?
森下
いないいない。
吉田
へえ・・・。それで、ジャンプとガロどちらにも掲載されたんですよね?
森下
そうですね。少年ジャンプとガロどちらにも掲載されました。
・幻のデビュー作
吉田
すごいですね。そして両方が載せたいって思うのもすごいですね。当然ですけど、作品は別ですよね?
森下
全然違いますね。小さい男の子の話をガロで描いて、中学生くらいの男の子の話をジャンプで描いてました。他愛もない日常でのお話です。
吉田
へえ、それぞれタイトルとか覚えていらっしゃいます?
森下
ええと、ガロに載せたほうが『少年』で、少年ジャンプのほうは『少年は青春が好きだった』ですね。
吉田
明るいマンガだったんですか?
森下
明るいマンガでしたね。
吉田
それらが掲載されたことと、アシベってつながることはありますか?
森下
いえ、つながってないです。アシベはアシベです。
・ヤングジャンプで『ここだけのふたり!!』を連載しようって言われた
吉田
なるほど・・・。ちなみに、アシベをヤングジャンプで連載するってなった時は、編集さんからこんな作品を描いてくださいって言われるパターンと、自分が描きたいマンガを描くパターンのどちらだったんですか?
森下
そうですね、当時の担当さんがわりといい加減な人で、「ページあげるから好きなもの描いていいよ」って言われたので、自分の好きなように描きました。ただ、その時は四コママンガを描くとは思ってなかったですね。
吉田
ええ~!!四コマだと思ってなかったんですか?
森下
そう、増刊でなんか描いてみる?っていう感じのノリだったんです。で、実は『ここだけのふたり!!』を先に描いてたんです。それで、ヤングジャンプで『ここだけのふたり!!』を連載しようって言われたんですけど、そのあと、増刊と本誌で連載が始まる前に竹書房さんの「まんがくらぶ」でそれを描いちゃったんで、載せられないことになったんです。それじゃあ、男の子が出てくるお話を描いてって言われて、アシベの原型みたいな作品をちょろっと描きました。その時、アザラシはいなかったんです。
吉田
え⁉待ってください、待ってください。いま、驚くべきことが多すぎるんですけど・・・。まず、本来集英社のヤングジャンプで始めるはずだった『ここだけのふたり!!』という作品、つまり売約済みの商品を、竹書房のまんがくらぶという他のお店に納品しているんですよね?これ、ものすごく怒られても不思議はないことじゃないですか・・・。
森下
そうですね・・・笑。それで、実はアシベの原型って、最初はガロで描いたんです。
吉田
え!?そうなんですか?
森下
そう。四コマで描いたんです。なので、本当はガロでアシベを描いて、ヤングジャンプで『ここだけのふたり!!』を描くはずだったんです。
吉田
なるほど、それが結果的に『ここだけのふたり』がまんがくらぶに載り、ヤングジャンプでアシベが始まることになった。この移動はなかなかないですよね?
森下
まあ、私もいい加減というか、常識を知らなかったんで 笑
吉田
え、それはつまりどういうことですか?
森下
なんか、意識すると色々なことにとらわれて動けなくなっちゃったりするじゃないですか笑。当時、誰にも怒られなかったんで、問題ないのかなと・・・。
吉田
・・・それ、厳しい編集さんだったらめちゃくちゃ怒られたと思います。
森下
あ、はい、たぶん絞られていたと思います 笑
一同 笑
・勝手に「キュー」って鳴かせましたね。
吉田
で、ヤングジャンプで連載が始まることになったんで、ガロでは描かなくなったんですか?
森下
はい、そうですね、ガロで描かなくなっていきました。
吉田
なるほど、そうだったですね。
で、ここで少々話を戻しまして、さっきの衝撃発言の、アシベにははじめアザラシはいなかったということについてお聞きしたいです。これは、どういうことがあったんですか?
森下
ヤングジャンプで連載するときに、「なにかペットを出してください」って言われたんです。だから、じゃあアザラシにしようと。
吉田
じゃあってどういうことです!?アザラシはお好きだったんですか?
森下
好きなのかな・・・。昔、テレホンカードってあったじゃないですか。それにアザラシの赤ちゃんの写真が載っていて、「え、アザラシの赤ちゃんって白いんだ!?」って驚いたんです。それがきっかけかな・・・。
吉田
なんと、ぼくはてっきり森下先生がアザラシに詳しいからかと思ったんですけど、むしろ普通の人より知らない感じで始まったんですね。
森下
そうそう。で、担当にアザラシと少年をセットにして出すって言ったら「オッケー」って言われたので、それに決まりました。
吉田
・・・緻密な検討とかまるでなかったんですね 笑。
森下
うん。なんにもない 笑。
だから、鳴き声とかも知らなかったんで、勝手に「キュー」って鳴かせましたね。
吉田
え、勝手になんですか!?
森下
うん、誰も聞いたことないし、私も知らなかったから
吉田
編集さんが調べたりとかはしなかったんですか?
森下
うん、なんにもない。
吉田
え、おそらくなんですけど、結構多くの日本人、それこそアシベの影響で、アザラシはキューって鳴くと思っているんじゃないかと考えるのですが、なんとなくだったんですか?
森下
そう、なんとなく。でもキューって鳴いたらかわいいから・・・
吉田
えええ!それで、キューって鳴くゴマちゃんが登場したんですね。・・・アシベの連載って何年続いたんでしたっけ?
森下
10年くらいかなー?いや、5・6年?どれくらいだっけ?
スタッフ
8年くらいです。
森下
8年?そっか、それくらいか。おかしいな・・・
・晩ご飯食べて、それから仕事して、夜10時には終わる。
吉田
笑。でも週刊連載で8年っていうのは相当な長さだと思うのですが、ここが先ほどおっしゃった、仕事にしたはいいけど楽じゃなかったところですか?
森下
いや、それはそんなに大変じゃなかったかな?私、ネームに詰まったこと一度もないの。
吉田
ええええええ!そうなんですか!?
森下
そう、一日のうち2時間くらいしか仕事してない。アシベのときは『ここだけのふたり!!』も連載してたけど、それでもそんな感じだったかな。
吉田
ええ~、そうなんですね。ネームって、思いつかない人だとあれだけのページに起承転結を入れて一週間で描かなければいけないっていう、それは大変な作業だと思うのですけど。
森下
う~ん、なんか知らないけど、私の場合、朝起きてご飯食べて、掃除洗濯して、お昼ごはん作って、お買い物行って、
吉田
・・・まだマンガ描いてないですね 笑
森下
笑。で、晩ごはん食べて、それから仕事して、夜10時には終わる。
吉田
え、晩ごはん後しか仕事してないんですか!?
森下
うん、だいたいそう。
吉田
いや、すごすぎですね、それ。