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BOOK REVIEW vol.008 まる子だった

今回のブックレビューは、さくらももこさん『まる子だった』です!

言わずと知れた『ちびまる子ちゃん』の作者、さくらももこさんのエッセイ集。「毎週日曜日、夕方6時から始まるアニメ番組と言えば?」そう聞かれたら、きっと多くの人が答えられますよね。

私も幼い頃から、ちびまる子ちゃんを見るのが日曜日のお楽しみだった。私の実家は、基本的に食事中はテレビ禁止だったけれど、日曜日だけは特別にテレビを見ても良いことになっていて、ちびまる子ちゃん、サザエさん、キテレツ大百科、世界名作劇場…と続けて見るのが至福の時間だった。それから毎月『りぼん』も購読していたので、漫画の方も楽しみに読んでいました。

今回の『まる子だった』を購入したのは、今から26年前(!)の中学生の時。冒頭のAmazonのリンクは文庫本(2005年発行)になっているけど、私の手元にある本は、1997年発行のハードカバーの単行本。でも実はこの26年間、一度も読まずにいました。。当時から“買って満足するタイプ”の私に代わって、母がこの本を読み「おもしろかったよ。せっかく買ったんだから、アンタも早く読みなさい」と、まるで、まるちゃんのお母さんのような口調で言われたことはよく覚えている(苦笑)

本は未読だけれど、装丁は購入当初からお気に入りだった(購入した経緯はうろ覚えだけど、もしかするとジャケ買いだったのかもしれない)。表紙カバーにはフェルトを切り貼りして作られたまるちゃんが、そしてその周りは数種類のちょっぴりレトロなボタンで装飾されている。フェルトとボタンの組み合わせが、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していて『ちびまる子ちゃん』のほっこりとした世界観にぴったりなのです。

中でも私の一番のお気に入りは、口絵(本の巻頭にくるイラストや写真)にある“手作り壁掛けミラー”の写真。写真だけど、ミラーの部分には銀色の紙が貼られていて、そこだけ少し立体的。本物のミラーではないので自分の姿こそ映らないけれど、少々手の込んだ細工に、中学生の私はときめいていたのでした(著作権が気になり、写真をみなさんにお見せできないのがとても残念)。

今回、ブックレビュー用の本を選んでいた時に目があった『まる子だった』は、vol.001でご紹介した『金色のライオン』と同様、大学進学に伴う引越しの際に、実家から関西に持って来たうちの一冊。これまでの人生の大半を共に過ごしてきた、私にとっては“傍に在るだけで安心する本”なのです。

購入から26年が経過して、今回ようやく読むことができたエッセイ。『まる子だった』というタイトルの通り、エッセイの中に登場する子ども時代のさくらももこさんは、まるちゃんそのものだった。シュールな笑いを含みつつも、家族やクラスメイトたちとのほっこりとした日常が一冊の中にたくさん綴られている。

そのお話の中で起こる“ちょっとした騒動”に、笑ったり、じーんとしたり、切なくなったり、ヒヤヒヤしたりするけれど、騒動はいつも“ちょうど良いところ”に着地して終わる。さくらももこさんの表現も柔らかく、言葉に力みがないので、読んでいるうちに肩の力が抜けていることに気づく。クスッと笑えて、どこか懐かしい気持ちに浸っていると、いつの間にか心が和んでいるのです。

さくらももこさんとは世代は少し違うけれど、本文中に登場する「ノストラダムスの大予言」「こっくりさん」「ラジオ体操」「文通」というワードに、私自身も子どもの頃の思い出が次々と蘇り、懐かしさが込み上げてくる。

収録されているエッセイの中で、私のお気に入りは『七夕祭り』と『誕生パーティーをひらく』です。どちらも心情や情景の描写が繊密で、子どもの頃に感じたことのあるワクワク感を鮮明に思い出します。エッセイを読みながら、自分自身の子どもの頃を思い出し、さくらももこさんのワクワクと私のワクワクを重ね合わせながら読みました。
そして、お話の終わり方も胸にジーンとくるものがあって好き。傍にはいつも家族や仲の良い友人がいて、みんなが笑ったり泣いたりしながら暮らしている。そんな平凡な日常の中にこそ幸せが詰まっていることを感じながら、しみじみと優しい気持ちで読み終えることができるのです。

26年が経ち、ようやく読み終えた一冊。“あとがき”には、この装丁に至るまでの経緯が記されていました。何と私が好きなフェルトのまるちゃんも、ボタンも、壁掛けミラーもすべて、さくらももこさんご自身が材料を揃えて作られたものだそう。てっきり、デザイナーさんが作られたのだと思っていたので、とても驚いた。

あとがきを読み終えた後、あらためて本全体を眺めてみると、今までずっとお気に入りだった装丁にも、今回ようやく読めたエッセイの内容にも、まるごと全部に愛着を感じた。そして、これからはようやく「この本が好きです」と胸を張って言えるような気がして、心の奥にじんわりとあたたかいものが広がった。

今回、ブックレビューを書く機会が無ければ、一体、この本はいつ読んでいたのだろう?もしかすると一度も読まずに、本の装丁だけを愛でて終わっていたかもしれない。もしそうだとしたら、こんなにあたたかいエッセイのことも、装丁に関する事実も、私は何も知らないままだったんだなぁ…。そう思うとすごくもったいない。今回、この本を選んで本当に良かった。

26年も経ってしまったけれど、ちゃんと読んだからね。お母さん。

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