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盛岡の老舗そば屋「直利庵」は、私にとって大切な和食の店・鮎そばと牡蠣そば

日毎に春の訪れが気になる3月の半ば、寒気も緩んだ雨の日。
ランチの時間、透明の傘を持って出かけた。歩いていると手が冷たい。
ダウンのポケットから手袋を手探り。
中の橋を東に渡り、数分で「直利庵」に着いた。都市化の並みにも威風堂々の建物だ。

暖簾を潜る。

そろそろ花見牡蠣の頃。今日のランチは、牡蠣そばと決めていた。

やはり見事。

箸を持ったまま、しばし見惚れてしまっていると鼻先に柚子が香る。幸せを呼ぶいい香り。吸い込んで箸を動かした。
まず、牡蠣の下に敷かれた若芽をかきわけ、品の良いそばを食べる。続いてレンゲでつゆを一杯。

いよいよ大ぶりの牡蠣。するりと口に入る。すぐに溢れ出る旨味。雑味のない牡蠣の味を存分に楽しむ。
若芽も春を感じさせる。
この器の中は奇麗で深い味わいの三陸の海。

実は昨晩もある人と食べに来ていた。店を出て間もなく、直利庵の近くでぼや騒ぎがあり、真っ赤な車が十数台。大騒動だった。
女将さんに言った。
「大変でしたね、近火見舞いに、また食べに来ました。」
「あら、どうもありがとうございます。」
店の人にも聞いたが一時は大変な騒ぎだったらしい。
昨晩は、そろそろ終わる「あゆそば」を食べに来た。その時一緒の人は天ざるそば。アクリル板を通しても綺麗。

いい具合の薄衣。包まれて素材が喜んでいる様だ。

漆黒の海苔は、たっぷり。見ていると喉ぼとけが動いてしまう。

私は、まず「白煮のうど」
サクサクとした食感を残して小さな春が喉を過ぎていく。瑞々しい!
鰹節をのせるあたりもいい。出汁のきいた汁も飲み干した。

いよいよ、なごり惜しい時節になった「あゆそば」。
海苔の上に鮎がまるごと。この茗荷がまた、心憎い。
頭ごと食べられる。口の中で軽く噛むだけでお菓子のように細かくなる。
さして川魚が好きではない私が、大好きになった仄かな苦み。

そろそろ直利庵では終わるという子持ち鮎。
この美味しさを例えようがない・・・
ひと口ごとに目を細めている自分がいる。とても美味しい。

明治17年創業、老舗「直利庵」の伝統の技が創る味。私にとってこの店は、とても美味しい「和食の店」。

素材を活かすため、相当の手間と工夫の上にある美味しさ。作り手に感謝したくなる。その夜も食べ終えて幸せな気分だった。

一日置いての近火見舞い。といっても、ただ牡蠣のそばを食べに来たようなもの。次の日も満足。店の人達に深く頭を下げて店を出た。
「二日続けても、まだ色々と食べてみたい。」と思う直利庵の味。
午後の空は雲に覆われていたが、足どりは軽い。



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