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肉が食べたくなると訪れる盛岡の老舗の洋食店「むら八」

 時々、訪れる店の一つ、盛岡市上田の老舗洋食店「むら八」。
 先日、ある方に誘われて行った。

 テーブルに置かれた伝統の味「洋食復刻フェア」のメニュー。座ると、
一緒の人はすぐに手にして、「これこれ、食べたかったんだ」と嬉しそう。

 久し振りだったので、近況から話が始まった。元気にしているようだ。
 しばらくしてテーブルを飾ったシーフードグラタンに海老フライと
ヒレカツのセット。

 これはたまらない。実は、グラタンが大好きなのだ。ベシャメルソースのいい匂いがする。
 料理長さんの顔が浮かんだ。
 むら八の自家製ソースへのこだわりや調理にあたって日々の気温なども
頭に入れ、調理する姿勢を聞いた事がある。基本的でシンプルなソースに
老舗のこだわりが隠れている老舗。これは逃さず、春が来る前にグラタンを食べに来なくては。

 向かいの人は、背を丸めてスプーンにのったグラタンをフウフウしている。そして、美味しそうに食べ始めた。なんだか、こっちまで楽しくなる。

 その日、肉が食べたくて仕方なかった。ハンバーグのセットに決めた。

 「鉄板が熱いので、お気をつけください」と目の前にグツグツのデミ
グラスソース。ソースの焦げる匂いが食欲をそそる。たっぷりソースを
絡めて口へ運ぶ。

 噛むほどに肉の旨味が広がる。さっぱり仕事が進まなかった日だったが、元気が湧いてくる。

 百十円で追加の茶碗蒸しもペロリと胃に収まった。

 一昨年、数日間入院した。人生で初めてのことだった。無事に退院し、
家に帰る途中、むら八で肉をたっぷり食べたいと思ったものだ。病院での
食事がどうこうじゃない。現に毎日、三食、微塵も残す事はなかった。
 久し振りに外気に触れたあの時、生きている証を求めるように美味しい
肉が食べたかった。
 食べている途中で、「あの時、とっても美味しくて、元気になった。今更ながらありがとう。」とこちらを向いた。
 一昨年のことだが今日、一緒の方が風邪で食欲がなかった時、むら八の
カツサンドを届けた事がある。急に言われて面食らったが、そんなこともあった。そうか、あれ以来に会っているのだ。近頃、月日の流れは早すぎる。

 ご飯をお代わりする若い人たち、楽しそうな家族連、ゆっくり味わっているシニアのニ人連れ。色んな人の笑顔に平和を見た。ただ、11年前の
東日本大震災、今のコロナや世界で起きている事を思えば、当たり前の暮らしのなんと危ういことだろう。老舗の味を楽しみながら、色々なことを
思った夕食だった。

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