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人間には真実も幻想も必要

世の中には見えなくていいのに見てしまうって事がある。ある日のこと、道を歩いていると向こう側からご老人が歩いてきた。白く立派な顎髭を蓄えた、明治の宰相を彷彿とさせる貫禄ある風体のご老人だ。これは今どき珍しい。敬意をもってすれ違うぞと覚悟を決め、もう少し近づいてみたところ、それは顎髭でなくただの白い顎マスクだった。

こりゃ見なきゃ良かった。もし近づいて見なければ真実はわからずとも、この町に貫禄ある老人がいる、というある種の幻想を抱いたまま生活できたのかもしれない。

世の中なんでもかんでも見えれば良いってものではなく、もし視力が良すぎたら人の顔の毛穴やらシミやらが見えすぎて美しいと感じられる人がいなくなってしまうかもしれないし、もし病原体が全て見える化してしまったらそこらじゅうにウヨウヨいすぎて人に近づくことができなくなる社会、無菌室に閉じこもる人だらけになるだろう。

真実を知ることは大事だろうが、アイドルは大便しないと信じている人は無理に大便写真を見る必要はなく、その方が(ある意味騙されてはいるが)幻想を抱いたまま夢をもって生きることができる。人間はどこまでも弱く脆く、どこまでも幻想を必要としてしまう生き物でもある。

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