見出し画像

【画家・絵本作家の声】「田中清代絵本原画展」に寄せて ~田中清代

「おばけがこわい ことこちゃん」は、2000年に出版された、作・絵ともに私が手がけた初期の絵本作品です。
リアリズムで魅力的なこどもを描きたくて、小さかった姪っ子や、友人が勤める幼稚園のこどもたち、そして子供を被写体とした硬派な写真集などの助けを借りて、スケッチを重ねました。
それでも、子供を描くことの難しさを身にしみて感じました。そしてほとんどは、私自身の記憶の子供時代の記憶を元にして描きました。「夜トイレに行くのが怖い」というのは実体験です。暗闇や物音から、いろいろな想像をめぐらせてしまう子供だったのです。

「トマトさん」は、2年後の2002年に出版された作品です。「こどものとも」の仕事は3作目でしたが、やっと自分らしく、納得できる作品ができたな、と自信につながった絵本です。「トマトさん」は、大人の読者の方には自分を投影できると感じる方も多いと思うのですが、実は私自身、自分を投影して描いたキャラクターなのでそうなったのかな……、と思います。
 幼児の頃に自然の豊かな神奈川県厚木市で育った影響なのか、大学生の時に急にアウトドアに惹かれ、山や川に出かけるようになりました。旅先でふと立ち寄った自然科学館で、たくさんの身近な昆虫が標本になっているのを見て「虫を描きたいな」と思いました。自然のなかを舞台にお話を描けたのが良かったなと思います。

「くろいの」はそれから16年もかかって、2018年に出版された、作・絵としては実に「トマトさん」以来の絵本です。職業としての絵本作家・イラストレーターの仕事と、自分のやりたいことのバランスがなかなかうまく取れずに、目の前の仕事に向き合いながらも、人と関わる役割を引き受けてみたりと、あちこち動き回る日々でした。ようやく腰を落ち着けて制作に取り組み始めたのが2013年ごろです。子育てもあり、今後どのくらい仕事ができるかもわからないと思い、自分のやりたかったことをしっかりやろうと心に決めて作った作品です。モノクロ銅版画の絵本作品も、時間がかかるためずっと取り組めなかったのですが、この本では頑張って完成させました。4年という時間と、大変な手数をかけて作ったわけですが、そのせいか私の無意識のところもかなり反映されているようで、読む人によって、いろんな読み方ができるお話となりました。古民家、古い住宅街の路地、ひなたの雰囲気など、私の大好きなものを詰め込みました。

田中清代絵本原画展A4

今回展示される原画は、「おばけがこわい ことこちゃん」「トマトさん」は、銅版画を刷ったものに手彩色、「くろいの」は銅版画で仕上げてあります。
私の原点や、そこからちょっと洗練(?)された感じなど、手仕事から伝わるものをたくさん感じていただければ嬉しいです。

田中清代

「田中清絵本原画展」
開催期間:2021年10月8日金~2022年1月25日火
展示作品:『くろいの』(偕成社)、『おばけがこわいことこちゃん』(ビリケン出版)、『トマトさん』(福音館書店)
同時展示:森のおうち所蔵「バーナデット・ワッツ」絵本原画展

絵本美術館 森のおうち
開館時間:9:30~17:00(最終入館16:30)※12月~2月は16:30閉館
定休日:木曜日 臨時休館:10/20水、11/13土、12/15水
冬期休館:2022年1/6木~1/14金
入館料:大人800円、小中学生500円、3歳以上250円、3歳未満無料

最後までお読みいただきありがとうございます。 当館“絵本美術館 森のおうち”は、「児童文化の世界を通じて多くの人々と心豊かに集いあい、交流しあい、未来に私たちの夢をつないでゆきたい」という願いで開館をしております。 これからも、どうぞよろしくおねがいいたします。