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ツンデレにゃ桜🌸

とある日本庭園に
とあるツンデレな
桜がいた。

この大きい日本庭園を管理している
庭師のおじいさんは、長年

このツンデレな桜に
手こずっていた。

「この桜だけは、あれから
なかなか花を咲かせんように
なってしもうたの。。」

そう、ツンデレな桜は
この日本庭園が、かつて多くの人で
賑わっていた時に、それはそれは
見事な桜を咲かせてくれていた。

地域の雑誌でも特集が組まれるほどに
素晴らしい花を咲かせてくれていた。

しかし、街中にコロちゃんという
可愛らしい名前の割に恐ろしい
ウィルスが蔓延して

この日本庭園も人知れず
閉園になってしまったのだ。

元々、この日本庭園は
とある有名な領主が管理している
由緒正しい場所だったので

閉園になっても管理を続ける必要はあり
こうして毎年、庭師が管理をしているのだ。

「もう一度、お前さんの
あの綺麗な姿がみたいものじゃ。。」

そうボヤいていた庭師の足元に
どこからともなく猫が現れた。

「おぉ。
どっかから入ってきたのかのぅ?」

そう言いながら、猫の首を優しく撫でると
その猫が庭師の指先をペロペロと舐めた。

「猫の舌はザラザラしておるっと昔
聞いたことがあるけど
本当だったんじゃの。」

そう言いながら猫に笑顔を向けていると
突然、猫が喋りだした。

『にゃ、もう少し、顎の下も
撫でてくれにゃ。』

「ふわっ!?この猫、喋りよった!!」

驚いて腰を抜かしてしまった
おじいさん。

『にゃにを、そんにゃに
驚いているのかにゃ?』

猫は茶色い自分の毛並みをペロペロと
舐め上げて身繕いを優雅にしつつ

その青い瞳で
おじいさんを見つめていた。

言葉が見つからず口を
あわあわと動かしている
おじいさんに猫は話し出した。

『おじいさんや、いつも
この日本庭園を綺麗にしてくれて
ありがとうにゃ。

私は、そうだにゃ、、
人間界で言うと、この日本庭園で
のんびり過ごしている妖精みたいにゃ
存在ニャ。

それでにゃ、この桜が
おじいさんとお話したいと
言っていたので、その仲介に
来たにゃ。

良ければ、
話を聞いてやって欲しいニャ。』

猫はちょっと上目遣いで
その青い瞳をユラユラと揺らしながら
おじいさんを見つめている。

「お。おぉ。。何が何だか分からぬが
話をさせて貰えるなら喜んで
させて欲しいんじゃ。」

おじいさんは整理のつかない頭を
抱えながらも何とか返事をした。

『ありがとうにゃ!おじいさんにゃら
そう言ってくれると信じてたにゃ。』

『では、私の尻尾を
優しく撫でてにゃ?』

そう言って猫はおじいさんに
自分の尻尾を差し出した。

もふもふの尻尾を、おじいさんは
言われるがまま優しく、そっと
撫でてみた。

指と指の間を柔らかな毛並みが
スルスルとすり抜けて
夢心地になっていった。

すると、風が勢いよく吹いて
目の前が桜でいっぱいの世界に
いつの間にか変わっていた。

あまりの荘厳な美しさに目を奪われた
おじいさんは

「おぉ!!この素晴らしい桜は!!
儂の願いを聞き届けてくれたのか、桜よ。」

と叫んでいた。

その叫び声に呼応するように
ぼんやりと人影が、激しく舞う
桜風の向こうに現れた。

年のせいで視力が悪くなっていた
おじいさんだが、必死に目を凝らして
その姿を見ようとする。

時間が経つにつれ、その姿は
小さな巫女のような姿で
肩には先ほどの猫が座っていた。

【おじいちゃん、こんにちわ。】

鈴のようにコロコロとした
可愛らしい声で挨拶をしてくれるもの
だから、おじいさんも

「お嬢さん、こんにちわ。」と
挨拶を返していた。

【今日は遊びに来てくれて有難う。
それと、いつも綺麗にしてくれて
有難う。】

ペコリと頭をさげる幼女に
おじいさんは戸惑いながらも

「いやいや、大した事は
しとらんよ。」と照れていた。

「それで、お話とは何かのぅ?」

おじいさんは、この世界に呼ばれた
本来の目的を思い出して話を彼女に
ふってみた。

彼女は少しモジモジしつつも
【その。。私の桜を愛でてくれる人は
いつになったら戻ってくるのかしら?」と

少し悲しげに問いかけてきた。

おじいさんは、どう説明しようか
悩んでいると猫が話始めた。

『この子ってば、毎年の春に
本当は花を咲かせにゃきゃいけにゃいのに
人が遊びに来てくれにゃいからって
花を咲かせなくなったのにゃ。』

【だって、寂しいんだもん。。。】

『他の桜は人がいようといようまいと
綺麗に咲いて綺麗に散って、その役目を
果たしているにゃ。。

そもそも人がいなくても私や小鳥たちが
いつも遊んであげているだろう?

春先ににゃったら蝶々の
可愛らしい舞だって
見れるじゃにゃいか!!』

【いーやーだぁー!!私は人に
見て欲しいの!!沢山愛でて貰えて
沢山、可愛いって綺麗って
言って欲しいの!!

誰にも見て貰えないのに
咲いてなんてあげないんだからっ!!】

プイッと顔を横に反らす幼女と
猫の会話を聞いていた
おじいさんは、おずおずと声をかける。

「その。。儂もこの桜だけ咲かなくて
いつも寂しかったんじゃが。。」

ハッとした顔を見せつつ、それでも
幼女は頬を膨らませながら話を続けた。

【あのね!!皆は知らないかもだけど、
桜は寒い寒い冬の間も、
その寒さに一生懸命に
耐えているの。

人間界で言う暖冬だと、感覚的には
寒さが和らいで助かるんだけど
春先にイマイチ綺麗に咲ききれないの。

だから寒くても変に暖冬じゃなくて
ガッツリ寒い方が
私たちは美しく咲けるの。

それでも寒いのは、
やっぱり寒いし。


おじいちゃんも、この猫も寒い時は
暖かいお布団があるでしょうけど
私達はお布団もないまま寂しく寒さを
凌ぐ必要があるの。】

おじいさんは、幼女の話を
うんうん。と頷きながら
聞いている。

その様子をみて幼女は
引き続き話を続ける。

【それにね、春になっても
今度は花弁を咲かせる時期が
問題になるわ。

私達は桜っていう
1本の木に思われがちだけど
実はその1つ1つの小さな花にも意思が
宿っているの。

おじいちゃんの肉体だって、
細胞っていうものが沢山存在して
身体が構成されているでしょ?

それでおじいちゃんの意識とは関係なく
心臓とかは動いているんでしょ?

それと似たような感覚でね。

私の体に宿っている1つ1つの花々も
実は私の意識とは関係なく各々で
動いているのよ。

それでね、
”あの花弁が先に咲いたぞ!!”とか
”私も早く花を咲かせなきゃ!!”とか
”ウチは後ででええわぁー”とか

時々競い合ったり、
励ましあったりしながら
懸命に咲いているのよ。

中には結局、
咲くことなく散るものだっているわ。

散る時だって、そうよ。

”私は先に行くけど、元気でね!”とか
”アンタ、ちゃんと咲くんだよ!!”とか
”また来年ね”とか

別れを惜しみながら風に運ばれて
そのまま地へと還って行くの。】

おじいさんは幼女の話す内容に
思わず「そうやったんかぁ。。」と
感嘆の声を漏らした。

【さっきも話した通り、彼女たちは
私の意志とは、ほぼ関係なく咲いて
関係なく散っていく。

でもね、そんな彼女たちを支えるために
私は厳しい冬の寒さにも
耐えて励んでいるし
彼女たちも必死にその役目を果たして
くれているの。

だけど、それが出来るのは人が
愛でてくれるからなのよ。。

他の桜は知らないけど、少なくとも
私はそうなの。

ちゃんと人に見て貰って、
愛でて貰って
綺麗だねっ!て
可愛いねっ!て褒めて貰えて
そして何より笑って貰える。

そう思えるから寒い冬も耐えられるし
彼女たちも短い命を懸命に紡げるの。。

でも、何があったのか詳しく
私は知らないけど
貴方たち人は急に来てくれなくなったわ。

とっても、とっても寂しくなって。。

私は冬を上手く超えられなくなったし
彼女たちもその命を
紡げなくなってしまったの。

長い事お話してしまって
ごめんなさいね。

つまり、何が言いたいかと言うとね。

どんな形でも良いから、私達を
見に来て欲しいの!!

貴方たち人の世界で何か大変な事が
起きているのは、この猫から聞いているわ。

でも貴方たち人は賢いのでしょう?
沢山の道具や方法を次々と
考え出せるのでしょう?

じゃ、私たちを愛でる方法を一緒に
考えて欲しいの。。】

幼女は最後は涙目になりながら
話をしていた。

猫はヤレヤレという表情を顔に浮かべつつ
おじいさんに声をかけた。

『おじいさん、すまないにゃ。
この子がワガママ言っちゃって。。
でも確か人はカメラとかビデオとか、
常世を映し出せる道具があるって
聞いたニャ。

事実、私も時々、
現実世界をお散歩していると
なにやら長方形の機械で
よくパシャパシャと
音をたてられているにゃ。

もし良ければじゃが、おじいさんも
そういう道具を持っていたら、それで
この子を映してやって欲しいにゃ。」

猫は一通りおじいさんに話し終えると
尻尾で幼女の頭を撫でつつ

「それだったら、お前さんも
花を咲かせれそうかにゃ?」と
声をかけていた。

幼女は両手で顔を抑えつつ
首を縦にふっていた。

おじいさんは彼女達の話と頼みを聞いて
どうしたものかと少し思案していた。

「多分、お前さんたちが言っているのは
スマホとかの事かと思うんじゃが
儂は、そういうのには疎いからのぅ。。」

しかし、そんな中で
とある方法を思いついた。

「そうじゃ!!儂には孫がおっての。
あの娘なら、そういう事が
出来るやも知れぬ!!」

その話を聞いた幼女と猫は

【おじいちゃんのお孫さん?
おじいちゃん、お孫さんいたのね!
ふふっ、是非会いたいわ!!】

『私も会ってみたいにゃ!!』

と喜んでくれた。

「よし。約束じゃ!!孫を連れて来るぞよ。
それでお前さんの綺麗な桜を撮ってもらう。
だから、来年は、どうか
花を咲かせてくれの?」

おじいさんの言葉に
大きく【うん!!】と
満面な笑みを浮かべて頷いた幼女。

そしてその笑顔に
安堵の表情を浮かべた猫。

彼女たちは、そのまま
あらわれた時と同じように
ぼんやりと姿を消していき

桜風が舞う中、いつの間にか
おじいさんは元の世界に戻り

まだ花弁をつけていない桜の木を
冬空の下で1人眺めていた。

「はっ!!
白昼夢だったんじゃろうか?」

現実世界に戻ってきたという感覚が
イマイチ実感できないおじいさんだったが
掌には桃色の花弁が一欠片
しっかりと握られていた。

そして、その日、
おじいさんは孫にその話をした。

もちろん、幼女や喋る猫の話は
ナイショにしたが、管理している日本庭園の
中でも一際、美しく花を咲かせてくれる桜の
話を熱心に語った。

元々、おじいちゃんっ子であった孫は
その話を嬉々として聞き入り
(写真に収めてみたい!)と
おじいちゃんの服を揺らしてきたので

これ幸いと、日本庭園の管理をする時に
孫を連れて行った。

「儂は、この桜が特に好きでのぅ。
キット妖精さんでも、おられるんちゃうか
と思っとるんじゃ。」と孫に話すと

(妖精さん!すっごい!!
来年の春が楽しみだね!!)

(でも咲いてない時でも
佇まいが美しくて私も好きになるわ♪)

と嬉しそうにスマホで色々な角度から
写真を撮っていた。

一通り、写真を撮り終えた後
「ご挨拶をしようのぉ。」とおじいさんは
孫の肩に手を添えて二人で頭を下げた。

「お約束通り、こちらが孫でございます。
来年の春に改めて、お伺い致します。」

そう心の中でおじいさんが
挨拶をすると風が優しく2人を包んだ。

そして

全国的に豪雪となり
厳しい冬を越えた

翌年の春。

桜も約束通り
満開の花弁を咲かせ

おじいさんと孫は一緒に
スマホのカメラにその姿を
何十枚と納めた。

特に孫は大はしゃぎで

(綺麗!!花弁も可愛い!!
何か歌いたくなるねっ♪)

なんて言いながら
パシャパシャと
桜の姿を撮っていた。

(おじいちゃん、見せてくれて
ありがとう!!)

と満面の笑顔を浮かべる孫に
顔が綻んでいると

頭上からも

【ありがとう。】
『ありがとにゃ。』

と声が聞こえてきた。

その声に呼ばれるように
おじいさんが視線を上に向けると

幼女と猫が桜の木の枝に
腰掛けながら嬉しそうに
微笑んでくれていた。

それからは毎年
おじいさんと孫はこの桜を
撮りに来たし、

桜も見事な花を
咲かせてくれるそうに
なったそうな。

めでたし、めでたし。

日常と非日常を放浪し、その節々で見つけた一場面や思いをお伝えします♪♪ そんな旅するkonekoを支えて貰えたなら幸せです🌈🐈 闇深ければ、光もまた強し!がモットーです〇