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お正月といえば、向田邦子×久世光彦 新春ドラマ

今日1月6日は、私が住む国では公現祭でお休み。この日までクリスマスツリーを飾っておくのが一般的なので、我が家もツリーとお正月の鏡餅(作り物だけど)や重箱などがテーブルに並んでいて、和洋折衷の妙なインテリアになっているが、それが我が家の毎年のお正月風景になってしまった。

まだ日本に住んでいた頃、1982年〜2001年という長きに渡り、毎年お正月に楽しみにしていたのが、向田邦子・原案、金子成人・脚本、久世光彦が演出していた、新春ドラマだった。
小林亜星さん作曲「過ぎ去りし日々」の優しく切ないバイオリンの調べと、ナレーションは黒柳徹子さん。
毎年三が日を過ぎてから、ひっそりと放映していたため、日にちを忘れてしまった年もあったが、1990〜2001年までは全部観ていたと思う。

設定や時代が少し違っている回もあるが、だいたい舞台は昭和初期、一家は東京・池上本門寺脇の階段を上がった家に暮らし、軍人またはお役人だった父はすでになく、母と三姉妹、たまに長兄という家族構成。

元旦、母はおせちを重箱に詰め、娘は床の間に花を飾り、三姉妹は晴れ着を着て、家族揃って神棚に二礼二拍一礼する。新年の挨拶を交わし、障子戸に畳敷きの火鉢が置かれた居間で、お屠蘇を飲みおせち料理を食べる。
戦前の古き良き日本のお正月風景が描かれ、その時代に生きていた訳でもないのに、日本人の原風景のような懐かしさがある。
そういえば、子供の頃の元旦の朝は冷え込んでいたけれど空気が澄んでいて、一年の始まりにふさわしくシャキッとして清々しかった。

女四人での慎ましい暮らしを中心に描かれているのだけれど、毎日着物に割烹着姿で台所に立ち、夫亡きあと一家の大黒柱として凛とした佇まいの母を演じた加藤治子さんは、普段は穏やかなのにふとした表情に艶めかしさを秘め、時々ちょっと怖いようなお母さん。
真面目だけど何処か危うく生きづらそうでもある長女を演じた田中裕子さんは、30代でも少女みたいで、ほわっと呟くような独特のセリフまわしが何とも不思議な色気がある。
次女と三女はその時々で変わり、進歩的で自由奔放な次女は、南果歩さん、戸田菜穂さん、小泉今日子さん、天真爛漫でまだ幼さの残る女学生の三女は、田畑智子さんが演じた回が印象に残っている。
小林薫さんも常連キャストで、回によって長兄だったり婚約者だったり夫だったり。30〜40代頃の薫さんは、どこか暗い影のある役や危険で破滅的な役など、大人の男の色気が漂いとても魅力的。
小林薫さんは、個人的に小学生の頃から大好きな俳優さんだ。昔から若者にはあまり興味がなく渋オジ好きだったもので(笑)
でも今見返してみると、春馬くんが30、40代でこんな役を演じたら素敵だっただろうな…とも思ったりした。
そして、かかりつけの医者役などに人形作家の四谷シモンさん。(またシモンさんが渋くて素敵なのだ!)
普段のテレビドラマではお目にかかれないようなキャストもけっこう多かった。

名作揃いだけれど、とくに好きな回のあらすじをここで長々と語ってしまうのも野暮なので、TBSのサイトに紹介ページがまだ残っていたのでそちらをご覧ください。

わが母の教えたまいし
母と娘の確執が自分のことみたいに思えて、ラスト祝子が「お母さんを見て育ったこと、嫌いだったけど、好きだった」というセリフに泣いた。


隣りの神様
病弱な次女・笙子の願いを叶えようとする母と姉の気持ちが切なく、ラストは温かな気持ちになる。


女正月
いち乃は一見貞淑な妻だけど、本人には自覚がないのに奥底に眠るファムファタール感がすごい。こういう役も田中裕子さんの真骨頂だと思う。破滅的な男を演じる小林薫さんもニヒルで素敵。



切なくも温かく、時に女の業や心の奥底に眠っている情念など感情の機微を描いて見せて、普段の暮らしの中で人生の深淵を垣間見るような話が多かった。


たまにCSで再放送などもあるようだけど、手元に円盤がないとなかなか見る機会がないのはとても残念。
私は一時帰国の度に頑張ってDVD-BOXを持ち帰っていたが、全4BOXのうち、あと残り1BOXというところで力尽き絶盤になってしまった。なんせDVD-BOXは嵩張るので、他にも持ち帰りたい物は沢山あるしで、一回の帰国につき1個のDVD-BOXしかスーツケースに詰め込めなかったのだ。
今手に入れようと思ったら、中古なのに定価の3倍以上もする目の玉が飛び出るような値になってしまい、とてもじゃないが無理。
他にも岸恵子さん主演で終戦記念ドラマというのもありDVD-BOXも出ていたがすでにそちらも絶盤。
DVD-BOXの装丁はアンティーク着物の柄になっていて、着物好きとしてはそれも目を引く。
ドラマの中でも今ではアンティークと呼ばれる素敵だけど日常の着物が沢山登場していた。
この記事のヘッダー画像は、祖母から譲り受けた大正時代の着物を帯に仕立て直したもの。戦前の着物の柄は優美で和の色合いも美しい。


向田邦子さんも久世光彦さんも、小林亜星さんも加藤治子さんも、みんな鬼籍に入ってしまった。
今の時代、もうこんなゆったりとして味わい深いドラマは、なかなか制作できないのではないか?と思ってしまう。







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