見出し画像

白夜の森、ラップランドにて

今の時期こちらの国は白夜で、22時を過ぎても空は白んだまま。
南部では数時間だけ夜の帳が下りるが、北極圏では一晩中太陽は沈まず、完全な白夜となっている。
夫の生まれ故郷であるラップランドの町まで約1000kmもの道のりを車で移動。途中の街々に泊まりながら、数日かけて帰省した。

ここ数年、国境沿いにある夫の祖父が建てたサマーハウスの大規模な修繕を行っているので、昨年は夫と息子まで駆り出され、義父も交え男だけで泊まり込み2週間くらい作業していた。
こちらの国でサマーハウスを持つことは珍しくないけれど、日本人が聞くと別荘のような家を思い浮かべるかもしれない。しかし実際は、そんな立派なものではなく、どちらかというと "夏小屋" という方がしっくりくる。

森にもルピナスが咲いていた
小さな金平糖みたいな花が集まった
マイズルソウ
サマーハウスの周りや夫実家の庭で摘んだ花を飾る
勿忘草とピンクのハート型をしたコマクサも可憐



水道が通ってなくて湖から汲んでくるとか、トイレは家の外にあるとか、中には電気さえ通ってないサマーハウスもある。自然の中での原始的生活を楽しもうと、あえて便利にしない民もいる。
自力でサマーハウスを建てる人も多い。
夫家族所有のサマーハウスはもう一軒あり、そこは夫の実家から車で30分くらいの森の中にある、義父と義祖父が自分たちで建てたログハウスだ。
ここは電気・水道も通っていて、トイレもサウナも家の中にあるので、かなり完備されている方だ。
国境沿いの方のサマーハウスの修繕はいつ終わるかわからないので、私は今までこちらの方にしか泊まったことがない。


一枚の絵のような
窓からの借景に癒される

サマーハウスの中は2ベッドルーム
居間とダイニングキッチン、サウナとトイレ
夏でも夜は肌寒いくらいで
暖炉に火を焚べることも多い
ロフトも付いていて
コンパクトだけど
家族で泊まれるくらいの程よい広さ


ところで、夏のラップランドは蚊が物凄いことになっている。
ラップランドは好きだけど、毎年、蚊問題が私を悩ませる。
昨年夏に、国境沿いのサマーハウス修繕に行った息子も早々に音を上げてしまい、もう夏のラップランドには行きたくないとゴネた。
修繕は手伝わなくていいから、と夫がなだめすかして、やっと今年も一緒にやって来たのだ。
北の蚊がどれくらい凄いかというと、湖などの水辺には小さな竜巻のような蚊柱が立ち、車や家の窓にはあっという間に蚊がビッシリと張り付き、森の中ではブーンブーンという羽音と共に蚊の大群に襲われ、丸腰でなんて数秒も居られない。
蚊のサイズも日本の2倍位は大きく、ヤブ蚊と呼ばれるような種類だ。
日本人が刺されると大事になりやすく、私など1週間は腫れが引かず、1ヶ月も痒みが続き、何年も虫刺され跡が残る。
だけどこちらの国の民は免疫があるらしく、刺されてもすぐ治まるので、しゑにったら大袈裟ねぇ、という目で夫家族には見られる。義父なんて裸足にサンダル履きという軽装で、森の茂みの中にも平気で入って行く…。
これまで私だけが到着早々に蚊に刺され、人相が変わるくらい瞼が腫れ上がったり、膝から下が丸太みたい腫れ上がり足が曲げられなくなったりと、悲惨な状態になっていた。
お岩さんみたいな顔になってる私を見た自然派の義母(元アロマテラピスト)は、カモミールのティーバックを冷やして瞼に当てとけば大丈夫よぉと言って笑うのみ…。
もうほんと、顔だけはやめて!刺さないで!
そんなわけで、私は義実家の庭でさえ "蚊除け帽子" が手放せない。
"蚊除け帽子"は、養蜂家のようなネットで顔の周りを覆うようになっているので、頭から首までガードされる。

蚊除け帽子を被って夜釣りする息子
この明るさで夜22時過ぎ


服装も虫除け繊維が織り込まれたパンツ、長そでジャケット、首にはスカーフ、作業用手袋をはめ、足元はゴム長。森でベリー摘みする時も汗だく💦
アルコール度数60°のウォッカに、ティートゥリーやペパーミントのエッセンシャルオイルを混ぜて自作した蚊除けスプレーも肌身離さず、外に出る度に服の上からでもシュッシュと吹き付ける。
裏ワザとしては、森へ入る場合は事前に抗ヒスタミン剤を飲んでおくという手もあり。
しかし、刺されてからじゃ何をやっても手遅れ…。
これだけやっても今年も、手、太もも、おでこなど計9箇所、しっかり刺され、今も腫れが引かず、痒みも治まってはぶり返すのを繰り返している。

蚊に対して神経過敏になり、蚊が多すぎる!もうイヤだ!!と叫ぶ私と息子に、夫もうんざりした様子で「アナタ達もう来なくてイイ。来年からワタシひとりで来るカラ!」と言われる始末。
こういう時、元は田舎育ちの自分も、すっかり都会のもやしっ子になっちゃったなぁと思い知らされる。


同じ南部の街で暮らしていた夫の幼馴染一家は、この夏、生まれ故郷であるラップランドのこの町へUターンした。
三人いる子供のうち、一人は元居た街に残り、一人はこの町の大学へ通うため独立して一人暮らし、末っ子と夫婦は亡くなった親の家を引き継ぎ越したので、さっそくお宅拝見に伺った。

「10年都会で暮らしたけど、やっぱり生まれ育った町がいい」
幼馴染の夫婦は、街で会っていた時より心なしか元気になって、とてもリラックスした様子だった。
都会っ子として育った末っ子くんも、すっかり田舎に馴染んでる感じで、自分でやってる家庭菜園を見せてくれたり、秋からの通学のために免許も取るんだと言って、すでに手に入れたバイクも披露して楽しそう。
広い庭に建っている小屋で、みんなでバーベキューもした。

ラップランドに来ると
サーミの移動テントKotaを模した
バーベキュー小屋をよく見かける
Kotaの内部は真ん中にある囲炉裏と煙突が繋がっていて
真っ直ぐ屋根へと抜けているので
小屋の中には煙が充満せず快適
家のすぐ目の前は湖で、とても景色がよい


幼馴染一家の新たな暮らしを垣間見て、私たちも近い将来、息子が独立し夫婦二人だけになったら、夫の故郷であるラップランドのこの町に戻る未来もあり得るかもしれないなぁと、思ったりした。
しかし、夏の蚊は大敵なんだけどね!!
やっぱりラップランドは冬の方が好き(笑)


こちらの国では森の星という名前がついている
ツマトリソウ

森の植物にたくさん出会えるのは夏のいいところ


帰路は、車ごと寝台列車に乗り、一晩かけて戻って来た。
長距離の寝台列車には、カートレインという乗客が乗って来た車を同じ列車に載せて運送できるシステムがあり、これは車に荷物を乗せたまま、到着後は自分の車でそのまま移動できるので大変便利。
ペットと一緒に乗車できる車両もあり、長距離旅行に利用する人も多い。

こちらの国は夏至祭の後から夏休みに入った人も多く、只今バカンス真っ最中。




いただいたサポートは、日本のドラマや映画観賞のための費用に役立てさせていただきます。