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ミンミン、ジジジ、と競うように騒いでいた蝉の大合唱はもう聞こえなくて、もう少し声の高い、控えめな鳴き声が聞こえた。秋の虫だろうかと日陰で電車を待ちながらぼんやり考えた。 祖父が亡くなった。享年89歳。救急車で運ばれた翌々日、病院で息を引き取った。 自宅で転倒してから満足に歩けなくなり、腰の骨が折れていた(!)から入院することになったものの、最終的に在宅介護をすることになった。 祖母が「自宅で看取りたい」と言っていたと両親から聞いたのが、たしか去年末だったと思う。
写真の専門学生だった当時、よそのゼミの夏季課題に「毎日一枚だけ撮る」というものがあった。たしか36枚撮りのカラーフィルムだった。 八月に脳神経の疾患で休職することが決まってから、あの課題をやってみようと思い立った。 記録を残すための名目ではあったけれど、変わり映えのない日々にせめてもの刺激がほしかった。 フィルムカメラは持っている。しかし肝心のフィルムがない。近所のカメラ屋では入荷待ちだったから、代わりに写ルンですを買って帰った。 写ルンですの思い出といえば、中学の
MRIも三回目ですっかり慣れた。狭いトンネル状の空間で目を閉じて、耳栓越しに色々な音を聞きながら、工事現場にあるようなドリルや、シンバルを持った猿のおもちゃが登場する妄想を膨らませる。 トイレのドアを切羽詰まって叩く人を登場させてから意識が曖昧になる。技師さんに足元を叩かれて目が覚めた。「もう少しで終わるから頑張って」寝ているうちに頭が動いてたらしい。 エアコンの効いた検査室で、「布団いる?」「暖かいと寝ちゃうから」「そういう子だったな」というやり取りを交わしてたのに。
余りの暑さに前髪は消え、リビングの時計は狂い出した。おまけに職場のエアコンも壊れた。 梅雨も早々に明けてしまった今年はどうかしている。 自宅にこもっているとパソコンの前から動かなくなってしまう。それに良くない方向に思い詰めてしまう前に、どこかで息抜きがしたかった。 午前中のうちに家事を済ませてから、下調べもそこそこに電車に乗った。 避暑地と心の安寧を求めて猛暑日に出かけるだなんて本末転倒かもしれないけれど、今になって思えば平日休みを有意義にしたかった。 カフェで