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避暑地と読書空間

 余りの暑さに前髪は消え、リビングの時計は狂い出した。おまけに職場のエアコンも壊れた。
 梅雨も早々に明けてしまった今年はどうかしている。

 自宅にこもっているとパソコンの前から動かなくなってしまう。それに良くない方向に思い詰めてしまう前に、どこかで息抜きがしたかった。
 午前中のうちに家事を済ませてから、下調べもそこそこに電車に乗った。
 避暑地と心の安寧を求めて猛暑日に出かけるだなんて本末転倒かもしれないけれど、今になって思えば平日休みを有意義にしたかった。
 カフェでホットドッグとミネストローネを食べた。ピリ辛のソースをこぼさないようにホットドッグを頬張り、カウンター席でアイスコーヒーを飲みながらオーナーとの会話を楽しんだ。口下手でも人と話すのは好きだ。(オーナーから教えてもらった本屋は臨時休業だったのでまたリベンジしたい)
 それから方向音痴の私は、左手に日傘、右手に地図アプリを起動したスマホで住宅街を歩き回り、次の目的地に到着した。
 住宅街にひっそりと溶け込むそのお店は小さな古民家で、遠縁の親戚の家を思い出した。
 店内には静かな音楽が流れている。そして、本、本、本。壁向かいのテーブル席や店内の奥にも本棚がある。
 座布団の敷かれた文机の前はガラス窓のようで、薄い布越しに青々とした植物が見えた。
 文庫本、絵本、漫画、図鑑……注文した飲み物とケーキが運ばれてくるまで、本棚を眺めてはうずうずしていた。ここで眠れたら幸せだろうな。

四畳半タイムマシンブルースを読んだ

 小説の最終章を読み終えてから、道中の古本屋で買ったエッセイを開いた。
 読書は救いだ。活字の海を泳いでいると心が満たされる。孤独や寂しさも忘れられるような気がする。
 本当にどうしようもない時は活字も読めなくなるけれど、その時はまた別の静養で。
 温かいチャイと金柑のチーズケーキでひと息つきながら、穏やかな読書空間にいつまでも浸っていた。

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