バキ童が童貞を捨てるために必要なこと

 バキ童( @gunpee2 )と呼ばれる芸人がいる。
 その男がつい最近出した動画があまりにも刺さり過ぎたので、衝動に任せて記事を書いている。

問題の動画

 動画を見るのが面倒という人のために、ここに該当の言葉を抜粋させていただく。

(異性を意識しすぎなんじゃない?という質問に対して)
でも俺はキモがられるんじゃないかっていう……それ(異性を意識しないこと)はキモがられるんじゃないかっていう発想が、人生がたまたま顔が幸運にうまくできているからこそ、一回も考えずに済んだから幸運だから言えてるだけであって。俺は自分がなにをしてもキモがられる人生なわけで、そんなキモがられるのを知らない人間が自意識過剰なんて言うけど、それは俺が人に迷惑をかけないために、一生懸命あなたが考えないでいい部分を考えあげてるだけであって……それは(自分がキモがられているのではないかという可能性を)考えなくて済んだ幸せを喜べばいいじゃん。

 この動画を見て思わず「あ、俺と同じだ」と思うと同時に、「この人もアダルトチルドレンなのではないか?」と反射的に疑問を持つにいたった。

バキ童=ぐんぴぃとは?

 ここで知らない方のために、バキ童という男について紹介しておきたい。
 バキ童(バキバキ童貞の略)ことぐんぴぃとは、福岡県小倉出身のお笑い芸人である。

 Abema NEWSのインタビューで「バキバキ童貞です」と答えたことでネットミーム化し、ネットのおもちゃとしてフリー素材のように該当インタビューの画像を使われまくったことで有名になった人物でもある。

 彼は幼い頃に父親から暴力を受けながら育ち、小学校からいじめに遭いながらも「コミカルなデブ」というキャラを演じることで辛い幼少期を乗り切ってきた。
 青学に入学して相方の土岡哲朗と出会い、「春とヒコーキ」というコンビ名で芸人の道を歩き出す。
 バキバキ童貞という汚名をYoutubeで活用することで這い上がり、今や有名バラエティプロデューサー佐久間宣行の番組やYoutubeにも出演し、地上派のTVドラマで櫻井翔とレギュラー共演するまでに至るほどの成功を収めている。Youtubeチャンネルの登録者数は破竹の勢いの伸び続け、2023/2/13時点で43万人近い人間が彼のチャンネルに注目している。

 そんな着実にサクセスロードを歩んでいる彼が上記の言葉を吐露したので、私は思いの外衝撃を受けた。

バキ童はアダルトチルドレンなのではないか?

 よく考えれば端々にそんな兆しはあったのだが、上述の動画を見るに至って私は「バキ童もアダルトチルドレンなのだ」と勝手に確信してしまった。
(個人の思い込みなので、実際のところどうなのかは本人が診断を受けてみないとわからないということはここで明記しておく)

 アダルトチルドレンとは「幼少期に家庭などで負った心的外傷を大人になっても無意識下で引きずってしまう現象」のことである。
 こう言うと家族に大きな問題があったように聞こえるかもしれないが、ほんのわずかなことでもこの現象は起きうる。例えば私の場合、物心ついてから一度も親に褒められたり抱きしめられたことがなく、日常的に「お前はうちの子じゃない」と言われて夜中に家から放り出されるなどをされてきたというだけで、アダルトチルドレンだと自覚するに至っている。
 たったそれだけのことでなってしまうくらい、アダルトチルドレンとはごく一般的な現象なのだと私は認識している。

 ここで念のため、バキ童がアダルトチルドレンであると考える根拠について整理しておきたい。

 バキ童は幼少期に、しつけという形で父親から殴打されながら過ごしていたという話をしていた。
 これだけでも十分にアダルトチルドレンの要件は満たしていると思うが、更に彼は小学校時代のデブいじりに対して「デブはコミカルじゃないとダメだ」という悟りを開き、コミカルに振る舞うことでいじめを耐え忍んできたという経験もある。
 更にそのコミカルな反応を父親から殴られた際にも発動させてしまい、余計に父親から殴られたという逸話も語っている。

 自身に対する厳しい攻撃に対して、道化を演じることで耐え忍ぶ。
 これは典型的なピエロ型のアダルトチルドレンの行動なのではないかと私は思うし、むしろこの境遇でアダルトチルドレンにならずに済んだのなら驚異的な精神力の持ち主であると言わざるを得ない。
(無論、自分は心理学や精神医学のプロではないため、改めて言うが実際のところどうなのかは当人が診断を受けてみるまでわからない)

バキ童が童貞を捨てるために必要なこととは?

 上記を踏まえた上で、バキ童が童貞を捨てるために必要なことを真剣に考えたい。

 当然はであるが、北方謙三御大の「ソープに行け!」は今回使えないものとする。
(バキ童の本当の問題とは童貞というステータスではなく、「自分は人に愛される素養のない人間かもしれないが、それでも人に愛されたい!」というジレンマを解消することにあると思うからだ)

大前提

 バキ童がアダルトチルドレンであることを前提とするならば、バキ童は例え他人が好意を示してくれたとしてもそれを素直に受け止められる土台がまだないと想定できる。


 例えばバキ童の理想の女性が彼に猛烈にアタックをかけたとして、彼はそれを喜びながらも心の奥底で「でもこの人、いつかもっといい人見つけて自分を裏切るんだろうな」とか「どうせ金や売名目当てなんだろうな」とかを考えずにはいられないタイプだと思う(事実、女性恐怖症の動画でも「どうせ女は裏切ると思ってる節はあるかも」と述懐していた)。

 更に言えば、そういう女性と付き合う前に「この人は自分なんかと付き合うより、もっといい人と付き合った方が幸せになれる」などと考えて自ら身を引く可能性すらある(これは自分の経験則)。
 まずはこの状態を脱却しないことには問題の解決ははかれないと思う。

 もしバキ童が恋愛テクニックなどを参考に自己改善して童貞を捨てたところで、元々自己肯定感の低いバキ童の場合、今度はインポスター症候群(自分は不当に人を騙して利益を得ている詐欺師だと感じてしまうこと)を発症するかもしれず、より深刻に自己肯定感を下げるだけの結果になりかねない。
 フィクションの話だが、恋愛テクニックに全振りした典型的なアダルトチルドレンとして『スキップとローファー』に志摩聡介、八坂千笑璃があげられる。他者からの愛情をコレクションすることで本来得られるはずだった親の愛情を補填しようとしており、結果として本人の生きづらさを助長しているように私には感じられた。
 ちなみに『スキップとローファー』には「私なんかに告白されたら気持ち悪いと思われないか」「私が好きになる人は、私のことなんか好きにならない。私のことを好きになる人は見る目がない」と心中を吐露する少女がおり、この心理はバキ童のそれにかなり近い気がしている(彼女はアダルトチルドレンではないが)。

 そういう意味では、恋愛テクニック系の対策は彼のような状況では避けたほうがいい気さえしている。
(努力をしなくてもいいという意味ではなく、あくまでまだその段階ではないということ)

(1) アダルトチルドレンを克服する

 方法のひとつとして、アダルトチルドレンの解消が挙げられる。
 これについては実際にプロの意見を聞いた方がいいので私からは何も言えないが、アダルトチルドレンを解消することで他人の好意を受け入れやすくなるというケースも多いようである。
 アダルトチルドレン解消によって承認欲求が弱まり芸人としてダメになるのでは、という懸念もあるかもしれないが、バキ童の知識や話術や共感能力は、彼固有のスキルなのでアダルトチルドレンでなくなったところで消え失せるわけではなく、芸事に深刻な影響はないと考えられる。
(むしろ先日出演した『褒めゴロ試合』では売れようと必死な周りの出演者に気を遣って一歩引いてしまい、よさを十分に出せなかったようにも思えたので、他人に嫌われることを恐れず前に出られるようにやることで、よりバラエティで活躍できる可能性すらあると思う)

(2) 自己肯定感を高める

 もうひとつ考えられる方法としては、バキ童が自己肯定感を高めることだ。

「簡単に言うけど……」と思うかもしれないが、幸いなことにバキ童は人間関係に非常に恵まれている。
 彼の周りには芸人仲間として彼の面白さ、人柄、知的好奇心など彼のいいところを知っている人間がたくさんいる。ファンの多くも彼の人間性に惹かれて動画を見続けているはずだ。彼らの言葉に耳を傾け、「今の自分を好きでいてくれる人間がいるんだ」と心から実感することが何より重要である。

 また、自分の場合「自分がアダルトチルドレンである」と認めることで気が楽になり、「まぁ誰に何言われようがこれが自分だからな」という諦めに似た悟りによって、他人との摩擦による心の痛みを多少なりともスルーすることができるようになった経験がある。
 自分を好いている人間がいることで、自分を嫌う人間について「自分が否定された」と思うのではなく、「自分とはアンマッチだったんだな」と思えるようになり、必要以上に自責の念に駆られずに済むはずである。

(3) 愛情への期待値を下げる

 またもうひとつの道として、愛情という概念へのハードルを下げることも重要だと思う。

 自分もそうだが、幼少期から愛を実感しないまま生きていると、幼少期に得られなかったものを取り戻そうとして、愛情というものに過剰な期待を寄せがちである。
「はじめて付き合った人間とそのまま結婚する」とか「地球上全ての人間(異性)に愛されたい」とか、愛情に対して過剰なハードルを設定しめしまい、永遠に満たされないまま愛情を求め続け、果てはセックス中毒と化す例も見たことがある。
 そうならないためにも、愛情への期待値を下げておくことは重要だと考えられる。

 三つほど方向性を上げてみたが、とにかく今バキ童に必要なのは恋愛テクニックでも身なりの清潔さでもなく、人の好意を素直に受け止められるメンタルを作ることにあるのではないかと私は思うのである。

最後に

 ここまでバキ童を擁護するようなことを言ってきたように感じるかもしれないが、もちろん全ての人間に欠点があるように、彼にも欠点はある。
 本人が自称していたように「生来の不潔性」があるのだろうし、モテ男のスタッフにひがみを口にしたり、女性でなくとも引いてしまうような下ネタを口にすることだってある。

 しかしそんな欠点を補ってあまりあるほど、多くの視聴者はバキ童という人間の魅力を感じており、応援しているのだということをわかって欲しい。
 文学や専門書を読みふける知的なところ。自分をネタにして笑いを取ったり、ひがみや割と壮絶な人生を語るときも自虐の体をとってあくまで人を笑わせることに繋げるところ。面白い企画を立てたスタッフを素直に褒められるところ。他人の価値観を尊重して理解を示せるところ。
 そういうバキ童のいいところも悪いところも見てきたからこそ、「容姿などにとらわれず、この男のいいところも悪いところもわかった上で人間として好きになってくれる女性がこの世に存在してほしい」と願ってしまうのである。

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