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補論 情報の非対称性を巡る新たな動き

 第二回では、ブランドとは企業と消費者の間にある情報の非対称性を上手く活用する方法であると述べた。しかし、近年では、そのギャップをイメージで補うのではなく、ギャップそのものを積極的に減らし、「ありのままの姿」を見せることで消費者との信頼関係を築こうとする新しい動きが見られる。

 その代表が、米国のサンフランシスコに本拠を構える「エバーレーン(Everlane)」である(Forbes)。同社は、2010年に設立されたD2C(Direct to Consumer)型のファッションブランドで、2019年時点で日本を含む38か国に展開している。

https://forbesjapan.com/magazines/detail/88

 同社がユニークなのは、「Radical Transparency(徹底的な透明性)」というポリシーを掲げ、通常なら消費者が知り得ない様々な情報をウェブサイト上で公開している点である。例えば、男性用のTシャツであれば、材料費1.79ドル、生産コスト5.35ドル、物流コスト0.13ドルというふうに、製造や物流に要したコストの内訳を明らかにしている。

 このように、同社では情報の非対称性を利用して作り上げたイメージで勝負するのではなく、むしろ情報の非対称性を小さくし、出来る限り「ありのままの姿」で勝負しようとしている。そして、その取り組みは今のところ成功している(売上高は推定1億ドルとされている)。

 ただし、その成功の裏には、素の魅力もさることながら、情報の非対称性をなくそうとする取り組みが大きな話題を呼び、それ自体がイメージ作りを担った可能性もあり、純粋に素の魅力だけの成果と断定することはできない。これはある意味で、「ノンブランド」というブランドを作り上げた無印良品のようなパラドキシカルな結果と言えそうである(堤・三浦,2009)。

https://www.amazon.co.jp/無印ニッポン―20世紀消費社会の終焉-中公新書-堤-清二/dp/4121020138

 これまでもインターネットの時代には、消費者が能動的に自分の欲しい情報を大量に入手できるようになり、情報の非対称性が消滅する(時にはその逆転さえ起こりえる)といわれてきた(国領,1999)。そのため、かつてのようにギャップを利用して幻想を抱かせるアプローチは、以前ほど上手く機能しなくなるかもしれない。むしろ、エバーレーンのようにギャップを小さくし、消費者にありのままの姿を見せる方が、上手く機能する場合があるかもしれない。ただし、そのような取り組みをする場合は、当然のことながら、素の姿自体が魅力的なものである必要がある。

参考文献                              『Forbes 』「特集 世界を変えるデザイナー39」2019年2月号、56-59頁。 国領二郎(1999)『オープン・アーキテクチャ戦略』ダイヤモンド社。     堤清二・三浦展(2009)『無印ニッポン』中公新書。




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