事業再構築補助金で活用出来るアンゾフのマトリクスの使い方

アンゾフのマトリクスは、新規事業とは?の記事で、「既存事業とどのぐらい遠かったら新規事業なのか?」を測定するためのツールとして活用しています。
参考までに、我々が定義している「新規事業」は、以下の図の緑色の部分です。

スライド3

今話題の事業再構築補助金でも、似た様な整理の仕方で再構築の分類を決めることになっています。
そこで、今回は、事業再構築補助金で活用出来るアンゾフのマトリクスの使い方をご紹介します。

事業再構築の類型

事業再構築補助金では、事業再構築の類型(分類)が5つ定義されています。
それぞれの、概要は以下の通りです。

スライド1

新分野展開

①業種・事業の内容について
 事業再構築指針の手引き(以下、「手引き」)上、「主たる業種又は(or)主たる事業は変更しない」という条件があります。
 ただし、結論から言うと「主たる業種及び(and)主たる事業は変更しない」場合のみが、新分野展開に該当します。
 それぞれの言葉の定義をご説明します。
 “業種”とは、日本標準産業分類に基づく大分類の産業となります。
 大分類とは、宿泊業・飲食サービス業、製造業、建設業など大きな括りのことです。
 “事業”とは、日本標準産業分類に基づく中分類、小分類、細分類の産業となります。
 大分類が宿泊業・飲食サービス業を例にとると、中分類、小分類、細分類は、下記のようになります。

業種_事業

 “主たる”とは、売上割合の最も高い事業となります。
 結論としては、メインで行っている事業の業種や事業は変更しないものの、新しい分野の新規事業も展開するということです。

②事業計画で説明が必要な内容について
 主たる事業の業種や事業を変更しないままで新規事業を展開するというお話をしましたが、新規事業をどのように評価・判断されるのかについては、事業計画で説明が必要です。
 具体的には、手引きで以下の3つを、事業計画で説明することが求められます。

スライド4

※製品等は、製品、商品、サービスとなります

 それぞれ、詳しくご説明して行きます。
 Ⅰ:製品等の新規性について
 新規性という要件なので、これまでとは違う製品を新たに提供する必要があるのだろうなと想像できると思いますが、具体的には3つの要件が求められます。
 1.「過去に製造等した実績がないこと」
 2.「製造等に用いる主要な設備を変更すること」
 3.「定量的に性能又は効能が異なること(製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合)」
 の3つ(又は2つ)です。
 まず、1.「過去に製造等した実績がないこと」は、その名の通りこれまで製造等をしたことがない新しい製品等を作ることです。
 新しい製品等であるということを示すための方法としては、飲食店であればメニュー表等、製造業であれば製品カタログ等を活用して、今まで作った事が無い製品等であることを事業計画で説明するのが比較的簡単な方法だと思います。
 以下の様なイメージです。

スライド5

 次に2.「製造等に用いる主要な設備を変更すること」は、製品の製造等に利用する主要な設備はこれまで会社で利用していたものではなく、新しいものを利用するということを示しています。
 こちらの説明としては、固定資産台帳(ソフトウェア等の無形固定資産含む)を用いて、新規事業で利用する新たな設備が会社に存在しないことを事業計画で説明するのが比較的簡単な方法だと思います。
 以下の様なイメージです。

スライド6

 最後に3.「定量的に性能又は効能が異なること」は、計測できる場合に限るという条件が付いている上、Ⅱ:市場の新規性(既存製品等と新製品等の代替性が低いこと)も求められるため、ほぼ全てのケースで、この項目の説明は不要だと想定されます。
 説明が可能なケースとしては、企業向けの製造業(例えば、化学工業、プラスチック製品製造業、生産用機械器具製造業等)で、汎用品のみを製造・販売していた会社が、専門・特化品を新たに製造・販売する場合等が考えられます。
 以下の様なイメージを、数値で説明する形になると思います。

スライド7

 Ⅱ:市場の新規性について
 「既存製品等と新製品等の代替性が低いこと」を説明する必要があります。
 これは、「顧客(セグメント)が異なること」又は「新製品が既存製品を代替しないこと」を説明する必要があります。
 1.「顧客(セグメント)が異なること」
 その名の通り、既存製品と異なる主要ターゲットに新製品を展開するということです。
 2.「新製品が既存製品を代替しないこと」
 代替性がある製品の場合は、一方の製品が売れれば、もう一方の製品は売れないという関係が成り立ちます。
 そのため、新規事業の売上が増える代わりに、既存事業の売上が減らないことを事業計画で説明する必要があります。
 この1と2はOR条件なので、どちらかを満たすことが説明できれば新規性の要件は満たせます。
 以下の様なイメージです。

スライド9

 Ⅲ:総売上の10%以上となる計画について
 「事業計画期間終了後(3~5年後)の新製品の売上高が総売上高の10%以上となる計画」を策定する必要があります。
 事業再構築なので、会社の業績に一定のインパクトを与える必要があるということです。
 上で示したグラフを例にとると、右側の事業再構築後の売上が既存製品で15百万円、新製品が2百万円です。
 全体で17百万円の売上となることから、2百万円の売上で10%以上を賄えています。
 このように図や表(下図参照)で10%以上という条件を説明できれば良いです。
 また、以下の表の様に、製品別売上高表で説明しても良いです。

スライド10

 なお、新製品の売上割合が45%以上となる場合は、主たる業種や、主たる事業が変更となる可能性が高いので、注意が必要です。
 また、売上割合が低い業種や事業に関する取り組みである場合は、新製品の売上割合が20%以上でも、主たる業種や、主たる事業が変更となる可能性もあるため、更に注意が必要です。
 例えば、イタリアン、中華料理、回転寿司、日本料理を展開している外食チェーンをイメージしてみます。

スライド3

 現在は46%とイタリアンが一番多いため、主たる事業は「その他の専門料理店」となります。
 この外食チェーンが、中華料理(主たる事業は「中華料理店」)に関する新分野展開の取り組みを行い、既存商品の売上は現状維持とし、新商品の売上が料理全体の20%程度になる計画を立てます。
 この場合、上の図の様に中華料理の売上割合が一番高くなるため、主たる事業が「中華料理店」となります。
 この様に、新規事業の売上高の割合が低くても、業種や事業が変化することもあります。業種や事業が変化する場合は、新分野展開とはならないので、注意が必要です。
 以上、「業種・事業の要件」と「事業計画に関する要件」の兼ね合いから、結論としては、新分野展開に該当するためには、以下の図の緑色の部分に関する取り組み(補完品開発又は多角化)で、かつ売上割合が余り高く無い(総売上の10~30%程度)取り組みとなります。

スライド11

事業転換

①業種・事業内容に関する要件について
 手引きで、「主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更する」という条件があります。
 つまり、中分類、小分類、細分類が変更になる取り組みである必要があります。

②事業計画で説明が必要な内容について
 手引きで、以下の3つを、事業計画で説明するという条件があります。

スライド12

 「Ⅰ:製品等の新規性」と「Ⅱ:市場の新規性」は、新分野展開と同じ内容となるため、改めての説明は省略します。
 「Ⅲ:売上割合が最も高くなる計画」は、上でご説明したイタリアン(その他の専門料理店)から、中華料理店への変化がまさしくこれです。
 こちらも改めての説明は省略します。
 以上、「業種・事業の要件」と「事業計画に関する要件」の兼ね合いから、結論としては、事業転換に該当するためには、以下の図の緑色の部分に関する取り組み(補完品開発)で、かつ売上割合が高い(総売上の概ね25%以上)取り組みとなります。

スライド13

業種転換

①業種・事業内容に関する要件について
 手引きで、「主たる業種を変更する」という条件があります。
 つまり、大分類が変更になる取り組みである必要があります。

②事業計画で説明が必要な内容について
 手引きで、以下の3つを、事業計画で説明するという条件があります。

スライド12

 「Ⅰ:製品等の新規性」と「Ⅱ:市場の新規性」は、新分野展開と同じ内容となるため、改めての説明は省略します。
 「Ⅲ:売上割合が最も高くなる計画」は、イタリアンから中華料理店の例とほぼ同じなのですが、業種転換の場合は、「業種」で売上割合を求める必要がある点に注意が必要です。
 先ほどのイタリアンのお店ですが、大分類で言うと、「宿泊業、飲食サービス業」となります。
 現在の売上割合は、宿泊業、飲食サービス業が100%です。
 このお店の強みが仮に「食材の仕入力」とした場合、仕入れた食材を他の飲食店に卸(販売)したり、お店に来たお客さんに食材そのものを販売したりすることも可能です。
 この様な事業を実施した場合、業種は「卸売業、小売業」となります。
 この事業の売上割合が、51%を超える計画となる場合は、業種転換となります。
 イメージとしては、以下の様になります。

スライド14

 以上、「業種・事業の要件」と「事業計画に関する要件」の兼ね合いから、結論としては、業種転換に該当するためには、以下の図の緑色の部分に関する取り組み(原材料販売又は多角化)で、かつ売上割合が高い(総売上の51%以上)取り組みとなります。

スライド15

業態転換

①業種・事業内容に関する要件について
 業種及び事業に関する指定は無いので、気にする必要は無いです。

②事業計画で説明が必要な内容について
 手引きで、以下の3つを、事業計画で説明するという条件があります。

スライド16

 「Ⅱ-1:製品の新規性」、「Ⅱ-2:商品の新規性」、「Ⅲ:総売上の10%以上となる計画」は、新分野展開と同じ内容となるため、改めての説明は省略します。
 Ⅰ:製造方法の新規性について
 1.「過去に同じ方法で製造等していた実績がないこと」
 2.「新たな製造方法等に用いる主要な設備を変更すること」
 3.「定量的に性能又は効能が異なること(製造方法等の性能や効能が定量的に計測できる場合)」
 の3つ(又は2つ)を説明する必要があります。
 まず、1.「過去に同じ方法で製造等していた実績がないこと」は、サービス業の場合は会社の沿革などを説明するのが比較的簡単な方法だと思います。
 製造業の場合は、いわゆるハイテク化(DX、IoT等)の取り組みであれば、比較的簡単に説明が可能ですが、それ以外の取り組みの場合、説明するのが難しい項目かと思います。
 なぜなら、無いことを説明・証明する必要があるからです。
 これは、一般的に「悪魔の証明」と呼ばれているほど、難易度の高い物になります。
 ただし、ハイテク化であれば、時系列で説明することが可能となるので、説明の難易度が下がります。
 例えば、IoTであれば、以下の様な説明をすることが可能となります。
 「2010年代後半より、海外・国内の大手企業で応用研究や実用化研究が進められてきたが、センサーデバイスや通信費が高価であったため、当社も含めた中小企業で取り扱うことはリソース面(カネやノウハウ)で非常に困難であった。そのため、IoTを用いた製造は、以前は行うことが出来ませんでした。」
 次に、2.「新たな製造方法等に用いる主要な設備を変更すること」は、新たに取得する機械等(有形固定資産)又はソフトウェア等(無形固定資産又はクラウドサービスの利用料)を説明するのが比較的簡単な方法だと思います。
 最後に、3.「定量的に性能又は効能が異なること」は、生産効率(新しい製造方法により、1時間当たりのどの程度(個数や量)生産量が増加するか等)や、提供効率(新しい提供方法により、1時間当たりに提供出来る個数がどの程度増えるのか、1回当たりの提供コスト(広告宣伝費や人件費等)がどの程度減るのか等)を説明するのが比較的簡単な方法だと思います。
 「製品の新規性」でも同じく「定量的に性能又は効能が異なること」という要件がありました。
 その際に、ほぼ全てのケースで説明が不要とご説明しましたが、「製造方法の新規性」では、ほぼ全てのケースで説明が必要になると想定されますので注意が必要です。

 上図の「Ⅱ-2」の商品の新規性の欄のOR条件として「設備の撤去」という条件がありますので、続いてこちらをご説明します。
 ここでは、「主要な設備の変更及び定量的に性能・効能が異なることにより、不要となる設備を撤去すること」を説明する必要があります。
 例えば、主要な設備を変更するために、新しい設備(店舗、什器、機械、ソフトウェア等)を取得するケースが多いと思います。
 この場合、今まで利用していた設備の中で、撤去(除却・売却)出来るものが出てくると思います。
 この設備を、文章と共に収益計画で減価償却費が減少することを説明するのが比較的簡単な方法だと思います。※既に備忘価格になっている設備の場合は、文章のみでの説明になると思います。
 以上、「業種・事業の要件」と「事業計画に関する要件」の兼ね合いから、結論としては、業態転換に該当するためには、以下の図の緑色の部分に関する取り組み(代替品開発又は補完品開発)で、かつ売上割合が10%以上となる取り組みとなります。

スライド17

事業再編

図解は省略しますが、以下の方法を伴う事業再構築を行う時は、事業再編となります。
・合併(吸収合併(=A社とB社の合併に伴い、片方の会社のみを存続させ、片方の会社を消滅させて合併する方法⇒大企業等が中小企業等を買収する時等に多く用いられる方法)or新設合併(=C社とD社の合併に伴い、C社・D社の両社を消滅させ、新たにE社を設立して合併する方法)
・会社分割(吸収分割(=A事業とB事業を営んでいる会社が、片方の事業(両方の事業でもOK)を他に企業に移管する方法)or新設分割(C事業とD事業を営んでいる会社が、片方の事業を別会社(子会社or兄弟会社)として切り出す方法)
・株式交換(子会社を完全子会社化する時に多く用いられる方法)
・株式移転(同じ規模感の2つの会社が、持株会社を設立してグループ企業化する時に多く用いられる方法)
・事業譲渡(複数の事業を営んでいる会社が、そのうちのいくつかの事業を他社に譲り渡す方法)

まとめ

上記の説明や図解を参考に、再構築の分類や、事業を再構築するための方向性の検討をして頂ければと思います!
また、方向性を決めた後は、事業計画書の作成が必要となります。
事業計画書の基本的な内容は、仮説立案としての事業計画書の記事をお読み頂ければと思います。
なお、事業再構築補助金の事業計画書は、公募要領に指定された項目を記載する必要がある点に注意が必要です。

著:NS.CPA森本 晃弘

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?