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小噺「初恋の話」

「好きになれると思ってたの。でも、ごめんね、やっぱり無理みたい。」

だから貴方の告白には答えられないわと首を振った彼女は、申し訳無さそうに眉尻を下げた。
僕は「まさか」と声をあげてしまった。

彼女は世間一般に見て、あまり美人じゃない。
クラスメートの女子の中でも際立って可愛い訳じゃないし、大層根暗な男子が「優しいよな」と褒めていたぐらいしか良い話は聞いたこともない。
僕以外に告白される筈もない、絶対に大丈夫だーーと確信していたからこそ、告白したのに。
そんな僕の莫迦らしい理由を見透かしてか、彼女はひとつため息をついて笑った。「そのまさかだよ」と。

断られる想像なんて一切していなかったから、「これでやっと僕にも彼女が出来る」「これで周りの友達にも揶揄われないで済む」「ああ、よかった、告白してみて」……なんて思っていたのだ、既に。友達に「彼女が出来そうなんだ」と言ってしまった。
なのに、なのに。僕の前で気まずそうに唇を尖らせる彼女は僕の想像通りにはなってくれなかった。
それどころか僕の想像をとうに追い越した断りの文句を更に告げてくる。

「まず君は私のことを好きじゃないよね」
「え、」
「"彼女"のレッテルが欲しいから適当な所にあたりに来たんでしょう」

やれやれと眉尻を下げて「私以外にあんまりそういうことしないほうが良いよ」ともう一度だけ微笑むと、彼女は「じゃあね」と僕に背を向けついでに手を振った。ば、バレてる。全部バレてる。なのに少しも怒る素振りも見せずに許してくれる、なんて、そんなこと有るのか。女子なら憤慨して周りの女子に言いふらして、村八分の様にしてくるものじゃ、ないのか。
ほんのりと胸に何かが灯るのを感じる。
いや、いやまさか。
化粧っ気も無い、僕の好みのロングヘアでも無い、スポーツが出来るわけでも無い(…勉強は僕より出来るか)彼女に、何かを抱こうとしている僕が居るなんて、そんな、まさか。
歩いて行く彼女の背中をつい見つめる。
困った笑顔以外に、彼女はどんな笑い方をするんだっけ、そうふと気になった。



なんて昔のことを思い出して断った理由を聞いてみた僕に、「若い頃の貴方のそういう所が嫌いだったから断ったけど、私はあの頃とっくに貴方が好きだったのよ」と後に隣で笑いながら教えてくれた彼女に、僕は今でも頭が上がらない。
何が切っ掛けかなんて、分からないものなんだなぁ。

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