森茶々丸

徒然に生きています。小噺/エッセイ/ゲーム

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    日々のあれこれや、エッセイ、頭の中のことなどをつらつらと。雑多です。

最近の記事

小噺「ちいさな旅」

当ても無いままに歩いて行く旅の、何と軽快なことだろう。 通り過ぎて行く景色の中には、把握出来ているものの他にも様々な事実が混在している。昔は城が在ったもの、栄えていたもの、土に埋もれた些細な歴史や人々の足跡。其れら全てが全ての人の目に止まることは無い。多種多様な人々の中で、多種多様な好奇心の元に人それぞれに理解され、見られ、過ぎ去られて行く其れらの、何と美しいことか。かく言う私もまた、己の好奇心の元に物事を見聞きし旅をする。すれ違う風景に恋をしながら足を止めずに歩き続ける。こ

    • 小噺「もうしない しないよ」

      言葉で殴り合ったその後の、気分の何と悪いことだろう。言いたいことを言えば言うだけ、後からやって来る遣る瀬無い後悔を僕は何度味わえば止めることが出来るんだろう。眉間に寄った皺も、緊張で上がった息も、すべてがただ辛い。 喧嘩の末に離れたい訳でも無い癖に、仕様も無い話で揉めてしまうのも冷静になれないのも、すべて若さのせいにして逃げてしまいたい気持ちになる。「あれは本心じゃなかった」と後から言うのは(簡単じゃ無いが)何時だって出来る。けれど後からじゃなく、その時の場面で口に出さない判

      • 小噺「終わりよ。」

        ーーーーああ、やってしまった。 バチンと大きな音が響いた店内は、先程までの喧騒とは打って変わって波が打ったように静まり返っていた。私の前で頬に手を当てて呆然とする男もまた声が出ないと言わんばかりに目を丸くしている。席を立ち上がって振り上げた、未だジリジリと痛む掌を握り締めて私は男を睨み付ける。やがて視線を落とした男の前に食事代分のお金を投げ捨てて、私はその店を後にした。 男とは恋人にあたる関係だった。付き合って数年の、比較的落ち着いて居ただろう関係。男は記念日を大事にするタ

        • 小噺「迷わず行くよ」

          真夜中に突然電話が鳴った。寝惚け眼で起き上がって、携帯を見る。知らない番号だった。 月も真上に来るような時間帯だと言うのに、一体誰だと言うんだろう。何時もなら不機嫌のまま無視していただろう電話に、何となく出てみる。すると電話の向こうから明るい声が聞こえてきた。 「ねぇ、あなた、私は今何処に居ると思う?」 もしもしの句も告げずにそう尋ねてきた声の主を、私は知らない。なんだ、迷惑電話だったか。起き上がろうとしていた身体を横たえて、携帯だけを耳に当てる。夢かも知れないこの電話に

        小噺「ちいさな旅」

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          5つの自己紹介

          自己紹介。何を書こう?何を書いたら伝わるんだろう?と悩んでしまったため、とりあえず五行でざっくり自己紹介をまとめてみました。 私はこんな人間です。 気になったところが有ったら、読み進めてもらえたら嬉しいです。 ▼もり ちゃちゃまる ・家族構成:夫、娘(0歳)、猫 ・趣味:文章を書く、絵を描く、ゲームをする ・好きなタイプ:日本語の通じる人 ・歴史好き:戦国時代、大日本帝国時代 ・この世で一番怖いもの:熊 「もりちゃちゃまる」という人間をおおまかに語るとして、二十数年間の

          5つの自己紹介

          小噺「恋をするということ」

          少し前までの幼かった私は、ただ恋に「恋する自分」が好きなだけの女だった。 二十数年生きてきた中で、本当に好きだったと確信を持って言えるのは一人か二人程度のもので。その他大勢の「好きだったはず」の人たちを心から好きになっていたかと問われれば、今ではもう疑いも無くNOと答えることが出来る。 好きな人が居る環境に身を置くことが好きだった、誰かを好きになれる自分が好きだった。叶ったその「嘘の恋」もあれば、叶わなかった「嘘の恋」も有る中、私は女として生きてきたのだ。 「恋」と言うもの

          小噺「恋をするということ」

          小噺「初恋の話」

          「好きになれると思ってたの。でも、ごめんね、やっぱり無理みたい。」 だから貴方の告白には答えられないわと首を振った彼女は、申し訳無さそうに眉尻を下げた。 僕は「まさか」と声をあげてしまった。 彼女は世間一般に見て、あまり美人じゃない。 クラスメートの女子の中でも際立って可愛い訳じゃないし、大層根暗な男子が「優しいよな」と褒めていたぐらいしか良い話は聞いたこともない。 僕以外に告白される筈もない、絶対に大丈夫だーーと確信していたからこそ、告白したのに。 そんな僕の莫迦らしい

          小噺「初恋の話」

          小噺「ルーティンの中に」

          朝、生きるために大きく息を吸い込む。 目覚ましによって半ば強制的に夢から覚めた脳は少し微睡みながら、未だ私の思考を薄すらとぼやけさせている。ああ、起きなければならない。 身体を無理矢理起こして、隣で眠る同居人の肩に手をかける。力任せに揺さぶれば、同居人の口からは「うん」とだけ返ってきて、それ以外に反応はない。 このまま起こし続けようとも、「あと五分」と粘られるのは目に見えている。五分後にまた起こすことにして、部屋に朝日を入れる為にベッドを降りた。 カーテンを引きながらふと

          小噺「ルーティンの中に」

          小噺「あの夏の雨の日の神様よ」

          たまに会えるその人はいつも言った。 「私を早く忘れなさい」と。 雨が降った日の夕暮れ時。近くの山のちいさな、あまり人の立ち入らない滝のある場所に行くと、いつも着物を着た男の人が近くの岩場に座っている。 初めて見た時は仰天してしまって、思わず足が有るかをまじまじと確認した。そんな私を見て少しだけ笑いながら「足はあるかの」と着物の裾をちらりと捲って見せて呉れた。それ以来、その不思議な雰囲気が気になって、雨が降ったら其処に通うようになっていた。 その人は雨が降った日は其処に必ず

          小噺「あの夏の雨の日の神様よ」

          小噺「雨宿り」

          ぽつりぽつりと降り出した雨は、次第にざあざあと音を立てて地面にぶつかり始めた。降るだろう、と分かっていたのに傘を持って家を出なかった自分の何と愚かなことか。地面にぶつかって跳ねた水滴が僕の足に飛んで来るのを見ながら、僕の頭上で渦巻く雨雲の行方を考えた。 このまま過ぎ去って呉れれば一番良い。されども降り出した雨はきっと直ぐにはやまないだろう。「雨音はショパンの調べ」だとか歌った誰かが居たとしても、今の僕は到底そんな穏やかな気持ちでこの目の前の雨を見ることはできない。僕の帰り路を

          小噺「雨宿り」

          小噺「ひとりぼっちのハニー」

          「僕を忘れないで」と言うことは罪なんだろうか。 「僕の傍にいて」は叶わない夢だったんだろうか。 「僕をひとりにしないで」を、どうして叶えてくれなかったんだろうか。 ぐるぐるぐるぐる自分の中だけで考えても答えは出ない、思いは届かない、声すら誰にも届かない。 誰だってひとりで生きることはできないのに、 誰だってひとりでわらうことはできないのに。 どうかお願い、僕を忘れないで。 僕がこの世界にいたことを忘れないで。 #犬吠埼マリンパーク/イルカのハニー 追悼

          小噺「ひとりぼっちのハニー」

          小噺「親愛なる僕」

          僕の莫迦な夢の話でもしようか。 幼い頃の僕には「家族が欲しい」というありきたりな、しかし一般的には非凡な夢が有った。そりゃそうだ。家族は居るのが「当たり前」が世間の常識だからだ。当時の僕にも確かに家族という名称に該当する人達が居たし、共に暮らしてもいた。けれども、いつも何処か空虚だった。僕は彼らを、世間一般に言う「愛して」はいなかったんだろう。 追い掛けようとした夢は否定され、僕の名前を使って好き放題にやる彼らに愛想を尽かして、僕は「恋」という勢いに身を任せて家を飛び出した

          小噺「親愛なる僕」

          小噺「結婚の条件」

          「私達きっと、うまくいくわ。貴方のこと、そんなに嫌いじゃないの。でも大好きって訳でもない。貴方もそんな感じでしょう?なら、うまくいくわ、きっと。」 だから結婚しましょう。 そう口元だけ微笑んで、手に持ったグラスを傾ける目の前の女性に愛は必要無いそうだ。利害が一致して、お互い憎からず思ってさえいるのならば相性がいいだろうと、想定外の逆プロポーズをして来た彼女と僕は、そもそも友人ですら無い。知人のまた知人だ。顔を合わせるのだって、今日で二回目の、お互いの名前程度しか理解していな

          小噺「結婚の条件」

          小噺「梔子」

          君の一日が少しでも幸福なものであれば良いと願って、僕は今日も瞼を閉じる。 まるで花が咲くように微笑む君の顔が瞼の裏できらきらと輝いているのが見える。思いを寄せるようになってから一年が経った。好意を口に出して伝えられた事は今までに一度も無い。意気地の無い僕の心を余所に、今日も屈託の無い笑顔を僕に向けては鈴のような声でコロコロ笑っていたのが随分と眩しかった。 折角君が話しかけて呉れていても、話下手な僕は女の子が楽しめる話の一つも出来ない。的外れな回答をしてしまうのが怖くて口を噤

          小噺「梔子」

          小噺「あなたが死んでしまった夜に」

          人生で初めて、僕は花をひとつ、手折ってきた。 「こういった時」に何を手土産にすれば良いのかも分からず、起こってしまった現実を受け入れられないまま、「とにかく行かなくちゃ」と走り出した僕の頭の中で、こだました花の名前。以前何回か聞いたことがあった。 「私、たったひとつだけ好きな花があるんです。小さな頃からずっと好きだった花」 あの頃は確か、恋人だった相手にもまだ一度も貰ったことが無い事も添えて話してくれていた。「春に咲いて、その鮮やかさに必ず目が奪われる筈なのに、あんまり

          小噺「あなたが死んでしまった夜に」