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小噺「ルーティンの中に」

朝、生きるために大きく息を吸い込む。

目覚ましによって半ば強制的に夢から覚めた脳は少し微睡みながら、未だ私の思考を薄すらとぼやけさせている。ああ、起きなければならない。
身体を無理矢理起こして、隣で眠る同居人の肩に手をかける。力任せに揺さぶれば、同居人の口からは「うん」とだけ返ってきて、それ以外に反応はない。
このまま起こし続けようとも、「あと五分」と粘られるのは目に見えている。五分後にまた起こすことにして、部屋に朝日を入れる為にベッドを降りた。

カーテンを引きながらふと、昔の私も起こされる側だったことを思い出した。母に「早く起きなさいよ」と毎日のように叱られていた。今や私は母のように人を起こす側へと回り、起こされることは無くなったーーーという点に一抹の寂しさはあれど、私もまた母のように「母」になって行くのだろうな、と思った。
電気ケトルに水を入れて、洗濯機に洗剤を入れてボタンを押す。顔を洗ったら同居人を起こして、お弁当を作る準備をしよう。
今日のお弁当には昨日の残りを少し入れてーー。

顔を洗いながらお弁当箱の中の構想が練り終われば、今日もまた忙しい朝が始まる。先程同様「うん」としか返さない同居人をどう起こしたものだろう。そんやことを考えながら、相も変わらず眠っているだろう同居人の顔を想像して、一人笑う。

いつもの朝はいつも愛おしいのだから、不思議だ。

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