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小噺「親愛なる僕」

僕の莫迦な夢の話でもしようか。

幼い頃の僕には「家族が欲しい」というありきたりな、しかし一般的には非凡な夢が有った。そりゃそうだ。家族は居るのが「当たり前」が世間の常識だからだ。当時の僕にも確かに家族という名称に該当する人達が居たし、共に暮らしてもいた。けれども、いつも何処か空虚だった。僕は彼らを、世間一般に言う「愛して」はいなかったんだろう。
追い掛けようとした夢は否定され、僕の名前を使って好き放題にやる彼らに愛想を尽かして、僕は「恋」という勢いに身を任せて家を飛び出した。僕を受け入れてくれた相手はただ笑っていた。どうしてただ笑っていられるのかが気になって、つい僕は彼女に尋ねた。

「親の居ない、身内の居ない僕でもいいの?」
「いいよ。だって私は、貴方と居たいんだもの。貴方の家族と一緒に居たい訳じゃないわ。それに、親が居ないのが寂しいなら、私の親が居るじゃない」

だから何も問題は無いのよ。そう僕を包み込む彼女の腕の、なんと暖かいことか。その胸についしがみ付いて泣きそうになるのをグッと堪えて、僕もまた彼女の背中に手を回す。
きっと彼女となら、僕の思い描いた夢のような家族を作れるだろうと、思ってしまった。思ってしまったらもうその気持ちは止められない。どうか一生傍に居て、死んだとしても来世でも僕とまた一緒に居て欲しい。そう願った僕に彼女はまた微笑んで、「当たり前でしょ」と腕に力を込めた。

そうして僕の莫迦な夢は、ヒーローのような彼女のお陰で「莫迦な夢」では無くなった。だからこそ今度は、僕と同じように悩んでいる子ども達の力に少しでも成れたらと、この夢について綴っている。
願いはいつか叶えることが出来るのだと、悲しんでいる誰かに伝えるために。

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