マッチに教えられたこと

 マッチを冷蔵庫にしまったのは祖父ではなかった。旅行中の彼にはどうやったって無理だ。
 では一体誰が。
「誰でもいいじゃない」
 娘が言った。
「だけど、マッチに足が生えたわけでもあるまい」
 と、息子。
 言うなり娘に頭を殴られる。生意気言うなということだ。
「いずれにせよ名乗り出ないということは、なにか言えない事情があるか…」
「ただ単に間違えただけかも」
 と、妻が私の言葉をさえぎってそう言う。あんまり乗り気ではないようだ。
「よし、じゃあ屋敷にカメラをつけよう。泥棒かも知れないし」
 全員が反対した。
 だから内緒で付けた。防犯上仕方がない。

 誰もいない深夜の厨房、祖父と妻と娘が揃って現れる。
 異変が起こったのはその後だ。
 娘が知らぬ男の子と手をつないでいる。


 その日を境に私はおじいちゃんになった。妻にそう呼ばれ、なんだいおばあちゃんと返すとしばらく口をきいてくれなくなった。
 大きい家なんかに住むものではない。

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