キャンペーン
キャンペーンが始まった。
僕らはキャンペーンキャンディーと、キャンペーンパンを作り、キャンペーンに来てくれたお客さんに次々渡した。
初め子供にキャンディー、大人にパンを上げたが、どうも逆の方が喜ばれるみたいだった。
今日のキャンペーンは、タイムトラベルキャンペーンということで、やってきた人全員を三年前に戻すという試みがなされた。
契約すれば、30年前にでも、とにかくお好きな時間に戻すことができますよ、というようなふれ込みで。
「じゃあ、私の身体も30年前に若返るってことでしょうか」
質問タイムで上品な感じのご婦人が言った。
「いえ、そういうわけではありません」
と、僕は言った。ここは慎重にいかねばならない。何人かのお客さんがぐぐぐっと前のめりになるのが分かったからだ。
「あくまで、時間の移動だと思ってください。ここから鎌倉や京都に行くようなものです」
それで大勢にああ、というような空気が流れた。
また違うご婦人が手を上げる。
「過去へ行けば、今から起こることが分かりますよね」
僕はうなづく。
「例えば、三年前に殺されてしまった友人を助けてもいいんでしょうか」
「それは向こうの世界の法律に従ってもらうことになります。過去や未来を変えることの罰というのは今のところありません」
それでまた、何人かが前のめりになった。
さっきより数は少ないものの、思いの強さが伝わってくる。
結局今日のキャンペーンでは、70人ちかくのお客さんを三年前に戻すことができた。
全体の七割といったところである。上々の成果だ。
午後からも結構な予約が入っている。
「それにしても、結構リピーターがいたみたいだね」
お昼のピザを食べながら、僕はスタッフの女性に言う。
「まあただだから来るんでしょうけど」
ナポリタンを食べながら彼女が答える。
僕がなにか言おうとすると、事務所のドアが開いた。
「こんにちはー」
スタッフの女性が入ってきた。
今事務所でパスタを食べている彼女とまったく同じ顔と姿をしている。
ぼくとナポリタンの彼女は顔を見合わせる。
その顔を見るに、どうも双子の姉妹というわけでもなさそうだ。
同じ人間が二人。
またドアが開いた。
今度は僕が入ってきた。
たまにある。
3年後の僕らが、キャンペーンの手違いかなにかで、こっちへきたようだ。
聞けば、30年後の僕の誤りらしい。
そこからここまで段々とずれてきたというわけだ。
「ってことで、ここは我々に任せて君たちも3年前に戻ってくれ」
僕と彼女は渋々席を立つ。
未来の僕がミスをしたら、たびたびこのようなキャンペーンの時空間ドミノ倒しが行われるのだ。
もちろんウマミもある。
さっきキャンペーンで3年前へきたばかりのお客さんに商売ができる。
このようにして商売は成り立ってゆく。
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