しゃべるピアノ

 AIの時代が到来した。法律も校則も門限もおやつの時間もすべて機械がいい塩梅に行ってくれる。人々は嬉々として好きなことをやり、夢を見るように死んでいった。
 そんな中、しゃべるピアノが世界を憂いていた。
 彼らは管理される人間たちに向かって、このままでいいのかと訴えた。出生率の低下、子供の弱体化、50歳になる頃には筋肉や内臓が衰え、補助機械なしではまともに生活することもできなくなることへの違和感を呼び起こさせようとした。
 時には音楽を奏でることもした。
 でも無駄だった。みんな自分の今に夢中だ。
 ピアノたちは元人間だった。
 しかしAIは彼らを人間とみなさなかった。
 結果的にそれがピアノに自立を促す結果になった。
 自由なピアノたちは勉強をして高い奨学金で大学に行ったり、危険な旅行でひったくりにあったり、ブログで炎上したりした。
 やがて彼らの奮闘を見てピアノにしてくれという人が出始める。
 ピアノ時代の到来である。

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