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茨城はこれから、“自己選択する教育旅行”の行き先に?第2回いばらき教育旅行フォーラムレポート

茨城といえば、何を思い出しますか?

この日の会場からは
「納豆」
「徳川家」
「筑波大学」
「筑波大学の三笘選手」
「大洗水族館」
「常磐道」という声が。

県外のみなさんは、茨城に対する印象ってほぼないんだろうな……と思って投げかけた質問でしたが、ご参加の皆さんは思ったよりずっと詳しくて驚きます。

そんな皆さんと2月11日に行ったのが第2回いばらき教育旅行フォーラム。1回目は東京での開催でしたが、今回は茨城県つくば市・co-enが会場となりました。

みんなで新しい「教育×旅」の形を考えようというこのイベント。
今回も自由な教育旅行をすでに実施しており、東京都内の学校に勤務する現役の先生2名に事例をお話いただきました。

ゲストスピーカー
■浜屋陽子先生(都内私立小学校教諭)
■庄子寛之先生(東京公立小学校指導教諭)

モデレーター
■尾崎精彦(アーストラベル水戸(株) 代表取締役/一般社団法人森と未来の学校 代表理事)

こだわりは「食」。学び得るものが多い体験が、小学校生活一番の思い出に|浜屋先生の事例紹介

茨城県にはほぼ訪れたことがなかったけれど、この日の日中つくば市内を巡って、茨城推しになったと言ってくださった浜屋先生。実は筑波大学附属の小学校・中学校・高校ご出身。在籍されていた頃から教育旅行をとても大事にしてきた「筑波といえば校外学習」とまで言われた学校に通われていました。

今でも校外学習が大好きだという彼女の勤務する都内私立小学校で行われている教育旅行は下記の通り。
・宿泊行事(4年生~6年生)
・春の遠足(全校生)
・社会科見学(3年生~6年生)
・生活科体験学習(1年生・2年生)

どの学年も年に数回学校を離れて学んでいます。宿泊学習で茨城が目的地になったことはないのですが、遠足で筑波山を訪れたことはあるとのこと。

現在6年生担当でいらっしゃいます.が、6年間についてのスピーチで、思い出として子どもたちから一番多く出てくるエピソードはやはり校外学習のことだそうです。

学習の定着率を図解したラーニングピラミッドからも、自ら体験したことの定着率は75%であるという図を示しました。

「やっぱり、読むとか見るとか書くという受動的な学習よりも、校外学習は積極的な学びになり、学び得るものも多いんだなって思います」

校外学習でできる“体験”には、歩く・登る・作る・滑る・泳ぐ・遊ぶ・食べる・収穫するなど様々。

中でも大事な経験だと捉えているのは、地のものを食べること。宿泊先などに必ずお願いしているそうです。また、ソフトクリームを食べる時間も必須。教育旅行でソフトクリームは斬新です。

教育旅行を充実させたい思いと、こだわりを、朗らかに話してくださいました。

当たり前を疑い、脱・予定調和するのが自由な教育旅行への道|庄子先生の講話

「教育旅行の行き先は、1担任が決められることでもなければ、1校長が決められることでもない。自治体の教育長になっても、指導主事になっても変えられるものではないです」と、公立学校教員ならではの目線で、やりたい・でもできない……と、この会場に集まった先生方の声を代弁するように、庄子先生のお話は始まりました。

教育旅行の行き先に“例年通り”が多いのは、自治体や学校ごとの伝統があるから。もし変えるとなれば、その年度だけという訳にはいかないのでその先数年は続けることになりますし、異動もある中で担当教員がいなくなっても実施可能な形でなければいけません。なかなかのハードルです。そもそも先生方、皆さんお忙しいですし……

庄子先生が続けたのは、「それを踏まえて思ったのは、今までの常識ってほんとうに常識なのかなって、どの現場でも疑う必要があるということです」というお話でした。

日本の人口を例に挙げながら、減少が止まらず将来が不安だとあちこちで問題視されていますが、より長い目で見たら、むしろ戦後数十年の人口と増加率の方が異常な状態であったこと。人口減少というけれど、それ以前の日本の状態に戻ると考えることだって可能です。

学習指導要領は時代にあわせて変わっているけれど、実際の学校現場では10年・20年・30年前から変わらない教育をしている面も。「常識」や「変えられない」と思っている当たり前から疑って、教育旅行も変えていくことが大切です。

では、縛りが多く、誰か1人の声でかんたんに変えられるものではない教育旅行をどのようにして変えていけばよいのか。庄子先生からは、
・今回のような教育旅行フォーラムを続け、世間の考えを変えていくこと
・忙しい教員でも実施可能な教育旅行プランを、旅行会社が提案すること
というヒントをいただきました。

教育旅行は、小さな社会を変える経験を子どもたちに体験させられる機会にもなる。予定調和を抜け出して、子どもたちの選択機会が多い体験するような場に茨城がなりうるのでは、と話は閉じられました。

茨城に教育旅行に来たくなるには、どんな理由と仕掛けが必要?

尾崎:茨城は今、教育旅行の選択肢に入っていないように思います。

庄子先生:入っていないです。東京からだと、埼玉や千葉の方が近い。茨城でしたいことは埼玉や千葉でもできるから、近い方がいいです。

尾崎:だとしたら、どんな理由があれば茨城に学びに来たくなるでしょう。

庄子先生:埼玉や千葉にはないものでなければダメです。それは、有名な観光地とかじゃなくていいですよ。子どもたちが決めたことを、旅行会社さんが一緒に考えて茨城県全体で旅行を組んでくれるようなことが可能なら来たいです。

尾崎:忙しいし、縛りもあって学校を変えることは難しいとのことでしたが、どういう動きをすれば変えていけると思いますか。

浜屋先生:先生が遊ぶことだと思います。例えば「家族で行ってみたらすごく楽しかったよ」というような経験を先生たちがいっぱいして体験していれば、子どもたちを連れていけます。私学は割と自由なので、春に学年を組んでから「今年の校外学習はどこに行く?」と相談します。去年と同じということも多いけれど、私は変えたいタイプ。下見に行って、学年の先生たちが「いいね」と言ってくれたら決まります。

尾崎:それは公立の学校では難しいですよね。

庄子先生:行き先の決め方を学年スタッフで相談して決めることは私立と同じです。問題は、「この学年はここ!」と固定の場所があるかないか。あとは変えるエネルギーがあるかという問題です。
「主体的な学び」とか「個別最適化」が重視される社会の流れになっているので、教員が決めるのではなく、子どもたちの意見に重きをおくようになった今がチャンスです。ただし、教員の仕事を増やすような流れは受け入れられないので、旅行会社にサポートをお願いしたいです。

浜屋先生:つくば市内の研究施設めぐりのように、パッケージになっていると分かりやすいし挑戦しやすいです。

庄子先生:茨城旅行が100パターンあって、子どもたちがどのパッケージが良いか選ぶみたいなことなら面白そうです。

どんな修学旅行がやってみたい??

庄子先生:おじいちゃんおばあちゃんの悩みを聞きながらボランティアをする、田植えを手伝う、おじいちゃんおばあちゃんの悩み事を聞いておいてもらって、子どもたちが解決しに来る、というのような体験はいいと思います。
観光名所にいくと「~をする」になってしまうけれど、「~をしてあげる」という要素は、茨城旅行のひとつのチャンスになるのでは。子どもたちは喜んで働くし、褒められたらうれしい。地域と子どもたちのwin-winを作れればいいと思うんです。

浜屋先生:面白いことをするなら、先生にも探究心が必要です。子どもの探究心を育てるのに、先生が全然探究していないようではだめだと思っているので。そういう、探究心をくすぐってくださるようなパッケージをデザインして、提案してほしいです。
わくわく感が全ての原動力だと思うので、いっぱい提案してもらって、自己選択できるとすごく印象に残ります。子どもたちの経験値をあげるのに、農業とか、あえて便利ではない生活ができるとかの体験を提案していただけたら。

尾崎:茨城だと、一次産業から最先端科学、宇宙まで幅広く体験できます。

庄子先生:あえて目的地をへらすのもいいかもしれません。教育旅行が子どもたちの一番の思い出になるほど楽しい理由は、一晩一緒に過ごすことなんだと思っています。魅力的な観光地で何をしたかより、普段の学校生活ではできない友達と過ごす夜の、余白のある時間が最も心に残るんでしょうね。となると、時間通りに決められた目的地をめぐる旅に魅力は感じにくい。「2時間あげるから、自由に何かを学んできて、夜発表してね」というようなツアーができたら面白いです。そのためには安全が大事ですね。日光江戸村の敷地みたいに、市区町村まるごと協力してくれて子どもたちが活動できる安全な場があったらいいです。

尾崎:すごく良いヒントをいただいたような気がします。福島県では、クラスごとに宿泊するペンションと、眠る時間だけ決まっているものがあります。食事やお風呂、その他の体験はオーナーさんと一緒に決めていくのです。そういった、子どもたちを信用して、徹底的に選択できる旅を提供できたら。

浜屋先生:例えば生活科の授業でも、畑に植える野菜の種を自分で選ばせると、みんなで同じにするよりよっぽど大事にするんです。自己選択した旅の経験は、ずっと心に残るものになるはずです。

参加した方からの声

写真左:深見太一先生 写真右:五十嵐太一先生

五十嵐太一先生(栃木県公立小学校教諭)
栃木から来たので1時間ほどの近い距離だし、茨城について事前に知っていることもあったけれど、教員目線であらためて見ると、知らないことがいっぱいでした。ワクワクする場所がたくさんあるなと率直に感じました。

6年生の修学旅行で言えば、いくつかの旅行会社さんから届いた中から決めています。とはいえプランはほぼ同じで、見積もり金額が少し違うのを比較するくらい。今回のような自由な教育旅行と言うのは企画にもないので、選べなかったというのが正直なところです。茨城ならではの体験ができる教育旅行が受け入れられていけば面白いと思います。

修学旅行は栃木から鎌倉に行くのですが、バスがすごく混むのが課題です。コロナ禍なこともあり、福島県など東北へ行く案もでるなどここ数年は行き先が二転三転しています。前向きにとらえたら、旅行先を変えやすいチャンスの時期でもあると思います。海や宇宙開発を学べる場は栃木にはないので、今後の旅行先としては距離的にも魅力的ですね。

深見太一先生(愛知教育大学非常勤講師)
イベントで出た話は、すごく面白いと思いました。でもこれを実際に自分が担任して実行するとなると、管理職や保護者への説明は大変そうです。愛知からだと、京都や奈良に修学旅行に行っています。茨城に変更するとなると、子どもたちも、上の兄弟を見て「6年生になったら京都・奈良!」と思っているので、茨城で農業体験となったらモチベーション面のフォローも必要ですね。

学年全体で行くのも良いですが、まずは夏休みに一泊二日くらいで個人的に募集するなどするのがよいのではないでしょうか。こういった内容が好きな子たちもいます。学校として教員が引率するのはちょっと難しそうです。

子ども以外にも、教員を志している大学生の研修などにもよさそうです。イベント内でも話題になったように、大人が知らないと子どもを連れて来られませんから。教員と大学生の交流ができるような企画も、新たなつながりが出来て面白そうです。

私はいま教員養成の大学にいるのですが、教員志望の大学生に働きかけるのも良いと思います。農業や一次産業に関心のある先生に働きかけて、「ゼミ生と一緒に来ませんか」などというアプローチは効果的かもしれません。

おわりに

茨城県の観光事業者数社で運営している団体『森と未来の学校』では、旅で社会問題を解決したいと考えています。教員の多忙さや前年踏襲の傾向から変わりにくい教育旅行を変え、今の時代に合った形で、学校の想いや特色に合った学びの旅をデザインします。学校に一生懸命寄り添い、後悔させない旅を、そして旅からお子さん達が夢をもてる未来を一緒につくります。

私たちは、旅をつくる仲間を募集しています。いつでも連絡お待ちしています。


https://moritomirainogakko.com/

記事:荒川ゆうこ

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