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2040年の未来を見据えて、教育旅行を考える!もっと自由に / いばらき教育旅行フォーラムレポート


2022年12月8日、「いばらき教育旅行フォーラム」を行いました。テーマは『2040年の未来を見据えて、教育旅行を考える!もっと自由に』
前年踏襲が多い教育旅行を、今の時代に合わせた「もっと自由」「もっと意味のある深い旅」に変えていく挑戦に一緒に取り組む仲間づくりのきっかけになることをめざし、第1回の開催に踏み切りました。

今回は、
・ドルトン東京学園 中等部・高等部校長 安居長敏先生
・慶應義塾幼稚舎 井川裕之先生

の2名をお招きし、教育旅行を通したこれからの学びの在り方や考え方についてお話いただきました。お二人の独自のこだわりの取り組みをご紹介いただいた上で、これからの教育旅行はどうあるべきかを楽しい雰囲気の中、意見交換しました。

この記事では、当日の会場での様子をご紹介していきます!

1.  ドルトン東京学園中等部・高等部 安居長敏校長先生から教育旅行行事の紹介

まず、ドルトン東京学園の変化を作る人・安居校長先生から、学校で行っている教育旅行についてご紹介をいただきました。

ドルトン東京学園は、開校して4年目の学校。各学年100名ほどの中学1年生の生徒さんを受け入れ、現在は高校1年生にあたる4学年分の生徒さんが在籍。全校生433名を、70名近い教員で手厚くサポートしている学校です。
こんなにも手厚い教育体制は、教育理念に基づいて敷かれたもの。

教員が生徒に教え込むといった授業はせず、プロジェクト学習中心の、主体的な学習を行っているといいます。普段の授業は子どもたちや先生方が自主的にやりたいことを決め、そこに賛同してくれる人を募って行う形で進められており、学校旅行も同様とのこと。開校から3年目に定めた15のコンピテンシーを学校生活全体を通して養えるよう、ねらいをもって、しかしとても自由な形で取り組んでいます。

学年ごとに全員参加が基本の海外研修の他、希望する生徒が学年関係なく参加する「City As a Classroom(CAC)」という旅行行事があるのは特徴的です。

今年度実施した教育旅行について、下記のようにご紹介いただきました。
・現地の8つの学校を訪問し一緒に授業を受けたり、
 小学校で日本について紹介したりするオーストラリア研修(中学3年生)
・5か国6コースの中から生徒が興味に合わせて行き先を選択。
 訪問先の地域の社会問題解決に貢献できるよう、帰国後も学びを続けるアジア研修(高校1年生)
・福島県沿岸部の津波や原発事故の被災地を訪問し、
 自分自身や日本の未来に向き合うフィールドスタディ(希望者)

この先、九州への希望者を募ってのCACも予定されているとのこと。こちらも、先生と生徒が現地でやりたいことを出し合って内容を決めるとのことです。

同学年の生徒がまとめて旅行にいくことにももちろんメリットはある。けれどそれ以上に、やりたいことが共通している生徒と先生が小グループで行きたい場所に出かけるからこそ実りの多い旅ができると思うと安居校長先生はお話されました。

ドルトン東京学園は、型にはめない教育で生徒の成長を促しているため、開校4年目の現在は上記のような形をとっているけれど、より良いものを目指してこの先教育旅行も変化していく可能性があると付け加えて、お話は閉じられました。

学校の問題として教員の多忙化や長時間労働など働き方の問題がよく話題に上がる中で、生徒と先生が一緒に旅行の計画づくりから行う教育旅行をどのように実施しているのかと弊団体の尾崎が質問すると、「やらされている」と感じる働き方ではないのが理由の1つであるとのこと。友人・知人を外部講師として授業に招いたり、旅行も先生自身の関心事を生徒と共有したい気持ちで実施したりしているので、やりたいことを実現するための忙しさであり、負担に感じている先生はいないとのこと。
教育方針が先生の働き方に影響を与え、それが魅力的な教育旅行に繋がっているのですね。

2.  慶應義塾幼稚舎 井川裕之先生から五感を刺激する体験活動と、これからの学校行事の意義についてお話

続いて井川裕之先生の講話。はじめに、勤務先の小学校である慶應義塾幼稚舎で行われている校外学習をご紹介いただきました。

大きく分けると、
・世界に触れる
・自然に触れる
・その道に触れる

の3つをテーマにした校外学習を行っているとのこと。

世界に触れる校外学習では、イギリス、ハワイとのエクスチェンジ、アメリカ、イギリスへのキャンプなどの他、複数の国から子どもたちがハワイに集まってディスカッションしたり、イギリスへの1年間の留学など、少数精鋭のプログラムもあるそう。

自然に触れる校外学習では、雪山に行くものでもスキーをする行事だけではなく、雪山を歩いたり、スノーシューで雪遊びを楽しんだりする行事もあったりと、その環境をより深く体験する内容で実施されています。その他にも、1週間という長い期間にわたっての山の中での学習や、安全に十分配慮した環境で着衣のまま、ゴーグルをつけずに海で泳ぐ体験学習など、大人でも体験したことのないようなプログラムを複数実施されています。他には、千葉の海辺での理科の学習の宿泊や、四国でのファームステイなども行っています。

6年生では例年山に1週間宿泊し、さらに四国に5泊するプログラムを実施していたとのことですが、昨年は社会情勢的に実現が難しかったとのこと。そこで、学校からの距離と、体験できる内容のバランスが良かったとして茨城を行き先に設定。連日日帰り遠足を実施することで、宿泊はできなくても毎日新たな体験ができるわくわく感を味わったとご紹介いただきました。茨城での教育旅行の価値を広めていきたい私たちには嬉しい限りの事例紹介です。

その道に触れる体験学習としては、研究所の方にお話を聞いて研究所内を見学する、伝統工芸の職人さんや人気のパン屋さんから直接指導を受けてのものづくりなどの例をご紹介いただきました。いずれも、その道を究めた人の考えに触れることができる活動となっています。

たくさんの魅力的な校外学習を行ってきた井川先生が思う体験学習の意義は、本物に触れることだといいます。学校内でもできるだけ展示等で本物に触れられる環境づくりを心がけているそうですが、学校の外には、歴史・食・人・自然・匠の技……と、よりたくさんの“本物”との出会いがあります。

「デジタルで置き換えできるものが増えているからこそ、逆に本物の体験が際立って価値が高まるものだと思います」と、井川先生は話します。
デジタル時代となり、視覚や聴覚は手軽に置き換えられるようになったり、より詳細に感じることもできるようになりました。しかし、便利になった社会でもすべての感覚がデジタルに置き換え可能になった訳ではなく、嗅覚や皮膚感覚、味覚など、リアルでないと分からないこともまだまだあります。

また、今後の校外学習に求められるのは「どこに送りたいかではなく、何を学ばせたいかを考えた体験で、未来を考えられる活動」だとお話いただきました。
美術館に行って作品を見たという事実だけでは、記憶からは消えていってしまうでしょう。そこでナビゲーターの方に、作品の着目点などを具体的にレクチャーいただきながら回り、体験と学びがセットになると子どもたちの中に残っていくはずです。
歴史から未来を考える、持続可能な取り組みから未来を考える、里山文化から未来を考える、最先端のテクノロジーから未来を考える……学び×体験×未来志向がこれからの校外学習で重要なテーマになるとして、お話を結ばれました。

3.  教育旅行に関するフリートーク

それぞれの学校での実践をうかがったあとは、お二人に尾崎から質問をする形で教育旅行についてフリートークを行いました。会場での雰囲気が伝わるよう、こちらは会話形式でお届けいたします。

尾崎:旅行を案内するものとしてさらに進化させたいと思っているのが、旅行の前後の取り組みです。何か一緒に学校に提供できたらと思うのですが、秘訣や事例を教えてください。

安居先生:ドルトンの場合、事前事後の研修は必須です。
旅行前には、何のために行き、何をするのか、行き先で生活している人からオンラインで話を聞くなどして生徒自身が自分事になるようなところまで研修します。アジアに行った時などは、1週間毎日5日間、7コマ事前研修していました。旅行期間は現地でも何か活動して、足りない部分は学校に帰ってきてから現地と繋ぎながらブラッシュアップして次のステップを踏んでいます。
イベントで終わらせないというのが基本的な考え方です。距離とか金額とかではなく、どこの人と、どんな風に繋がるかを1番大事にしています。

井川先生:どんな学校でも可能なものとしては、やはり旅前にインプットして、旅後にアウトプットするいうことをシンプルにやるだけで、行くだけとは全く違う学びになると思います。
事前には、現地の方にオンラインで授業を1回してくださいとお願いします。伝統工芸の匠の方でも農家の方でも、普段仕事でやっていることの意味をものすごく考えてくださる機会になります。相手が「そもそも僕がやりたかったことはこれかも!」と、社会的に価値あることをやっているんだと非常に誇らしく伝えてくださり、学校側とお互いに盛り上がれます。
事後のアウトプットは、感じた気付きを学校の外に出すことがポイントです。先方の農家さんの近くの役場に飾ってもらうよと伝えるだけで、子どもたちは張り切って良いものをつくろうとします。現地の、多くの人の目につくところに届けることですね。地球の未来を食から考えるというテーマのときには、地球に合う場所にと考え、宇宙ステーションに掲示させていただきました。

尾崎:お二人の学校では、新しい行事がどんどん生まれていっています。新しい旅行行事をつくるコツがあれば教えてください。

安居先生:まず、旅行会社が突飛なプログラムを持ってくることはありません。
学校では、管理職の先生がどれだけオープンなマインドで考えてくださるかが一番大きいです。命の安全は確保しつつ、日常ではできないことや、大失敗をさせるとか、いろんなことを学校が用意してあげないとデジタルネイティブの子どもたちは楽しむ訳がありません。
コロナで世界の見方がみんな変わったのを上手く使って、保護者に理解を求めつつ、学校側も覚悟を決めて、ステップを大きく変えるための舵を切るのは可能じゃないでしょうか。

井川先生:
1. 志をぶつける
2. 空いている学年を狙う
3. 実現可能な負担感・距離感にする

がポイントではないでしょうか。
まずは真ん中に大義があるかどうかです。そこに連れていきたいというだけでなく、そこで未来を考えさせたいんだ、と。公立の場合は区の施設に必ず6年生が行かなければならないといった決まりもあるかと思うので、そういった縛りのない学年で実施していくこと。さらにまずは近場から、金銭的にも家庭に負担をかけない金額で行けるものにするとよいと思います。

尾崎:以前は集団で行く修学旅行は旅費が安いという魅力がありましたが、最近では逆に高くつくように。修学旅行に行くこともいつかなくなってしまうのではと心配しています。学校教育で旅行に行く価値とは何でしょう。

井川先生:家庭で旅行にいくらでも行けるという時代において、学校での旅そのものの希少性は全くありません。どこに送客するかではなく、どんな学びをプログラムとして作りたいのか、志のある行事だけが残っていくと思います。

安居先生:何を目的にして学ばせる旅にするかをはっきりと決めることは大切です。
例えば修学旅行に学年まとめていっても、現地ではグループ行動をする時間が圧倒的に多いこともあります。それなら全員で行かずに本校で行っているCAC化して参加したい人だけが行けばいい。逆に、同学年が一緒に同じ釜の飯を食う体験をするのを目的にするなら、1泊2日の宿泊体験でもいい。景色を見に行ったりその場を体験したりするのもいいけれど、私は、現地の人との魂の交流ができるような、人の営みを感じられる旅だと子ども達にも学校にも意味がある旅になると感じています。
この行事はこうあるべき論を捨てれば大胆に変えていけるし、今の保護者の方はそれに対してネガティブなこともおっしゃらないと思います。

尾崎:今日は旅行事業者の方も参加していますが、たぶん、効率を求めて自分たちが得意な場所に送り込む形の旅行が多かったのではないかと思います。これからはそうではなく、学校ごと、または先生方ごとに熱い考えのもと、カスタマイズして一緒につくっていくことが求められているなと強く感じます。

安居先生:提案型のプランを持ち込む形だと、企画料分の金額が上がっていくじゃないですか。それなら学校が現地と直接決めるのでエアだけとってくれればいいや、となってしまいます。旅行社としての収入や継続性を考えるなら、提供してくださる方自身が一緒になって「何か面白いことやりませんか」的なトーンで学校に来てもらい、子どもたちと一緒になって学びを作ろうというアプローチの方が最終的によいものができるように思います。

尾崎:最後に、お二人からそれぞれメッセージをいただけるでしょうか。

安居先生:本校では学校にゲストが来ない日がないくらい、外部の人が自由に入れる学校にしています。こんなことがあるよ、こんな面白いことがあるよと言うのがあったら、ぜひ来てもらう。
内部から扉をあけるのは難しい学校もあると思いますが、どの学校でも「この人に会いたい」とか「私面白いで」って外から積極的に行ってもらうと、きっかけができるかと思います。学校は怖いところではないので。

井川先生:新しい形の旅を作りたい方がいらっしゃったら、いろんな方を紹介できますので私にご連絡ください。新しい学びの形を作ることは私の研究テーマでもありますので、ぜひお力になれたら嬉しく思います。

4.  おわりに

今回のフォーラムの様子は、こちらのダイジェスト動画から見ることができます。
ぜひご覧ください!
https://youtu.be/5RMlbPeLLLM

今回のフォーラムを主催した私たち・一般社団法人森と未来の学校では、旅で日本の社会課題を解決したいと考えており、ぜひ茨城に教育旅行に来てくださいとお伝えしています。
観光施設は少ないのですが、茨城県は一次産業がものすごく得意。また、最先端の研究を行う施設もたくさんあります。教育旅行ではそういった場所で挑戦している本物の大人の熱に触れ、その人の職業観や、人間としての在り方を感じていただきたいと思っています。
今回、フォーラムのタイトルに2040年という数字を入れました。これは私たちが軸に置いており、今の子どもたちが日本を支えるようになる未来です。日本はこの先さまざまな問題を抱える大変な国になっていくことが予想されますが、それでも強く生きられる人になってほしい思いで、茨城での旅行コンテンツを作ってお届けしています。

このような取り組みをしている私たちに興味をもってくださった学校の先生方や、茨城県で面白いコンテンツを持っているよという方々がいらっしゃいましたら、ぜひ私たちに連絡をいただけると本当にありがたいです。

フォーラムのご感想や教育旅行に関するお考えは、問合せフォームまたはコメント欄からお気軽にお聞かせください。


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