田んぼの中を悠々と歩くのは… バリ島 インドネシア編
「ネコ撮影は楽しい編」
雨期のバリ行きを選んだのではなく、思い立ったときが雨期だった。幸いなことに雨は降っていないがとにかく暑い。クタという繁華街から車に揺られること1時間、緑が生い茂るウブドの村が見えてきた。
観光地だけど田舎
ウブドはバリ絵画やダンス、ヒンドゥー寺院やのどかな田園風景が楽しめるバリの一大観光スポットである。とはいっても山奥にある基本的にはのどかな田園地帯である。だから夜8時を過ぎるとみやげ店も閉まり、もぐりの白タクもいなくなってしまう田舎なのだ。
元々地図を片手に歩く方ではなく、ある程度位置関係を見てから町へ出るのだが、今回はそれもしないで、雲のように行きたい方向へ歩くことにした。宿の周辺は田園が広がっている。舗装されていないデコボコの道を行くと、田んぼの中をシッポを立てて歩いているネコを見つけた。緑濃く、米粒で垂れ下がった穂の中を気ままに歩く姿は、バリののどかさと重なって見える。まさに悠々という言葉がぴったりの、1枚の絵画のような風景だった。
ネコはどこにいる
旅人を笑顔で受け入れてくれるウブドの町は、歩いていてとても気持ちがいい。それはそれでいいのだが、困ったことに肝心のネコの姿がない。みやげ店ではネコの木彫りの彫刻など、たくさんあるが、本物のネコはあまりいない。おかしいぞ。だが、これであきらめてはバリまできた甲斐がないので、地元の人を見つけては、「ここらへんにクチン(ネコ)いる?」と聞いて歩いていた。それでもなかなかネコがいない。炎天下を歩くのは苦にならないのだが、お目当てのネコがいないと疲れが増してくる。民家が建ち並ぶ細い路地を歩いていると、壁の上でネコが寝転がっていた。
町の中心部にはたくさんの店と人がごった返している。バリではヒンドゥー教が信仰されていて、本当に町の至る所に寺院がある。ネコ探しをしていて困るのが、寺院だと思って入ると人の家だったりすること。宿の人に寺院について聞くと、各家に家族寺院というその家専用の寺院があるそうだ。寺院と民家の見分け方は門の大きさなんだよといわれたのだが、なんだかんだと最後まで判別することはできなかった。
寺院へ入るためのルール
ヒンドゥー寺院にはサロンという腰巻きをしないと入ることができない。また、傷があり、そこから出血している場合や、妊娠中の女性も宗教上の理由から入ることができないということである。
これまでの経験上、寺院にネコがいることを知っている僕としては、中に入らないことには話が始まらないので、こちらの男性が巻いているサロンを研究してから市場へいき、面倒だけど楽しい値切りの買い物で1枚購入して、早速寺院へ。他の観光客を尻目に入るのは、なかなか気持ちがいい。強い日差しの中、眼前に塔のような建築物が立ち並び、獅子の姿をした石像にはかわいらしくハイビスカスなどが飾られている。それぞれの塔には小さな小箱のお供え物がたくさん山積みにされて置いてある。さあネコはどこだと寺の写真を撮りながら寺院内を歩くと、バロンダンスというバリの獅子舞の道具が飾られていて、その横にある何かの神の石像が祀られている。ネコはその石像の下で居眠りをしていた。気づかれないように忍び足で近づいたのだが、ネコの危険察知能力の高さにはさすがに勝てず、あと1mというところで起きてしまった。仕方ないのでひとまず距離を保ちつつ撮影をし、馴れた頃に1歩前に出るのだが、近寄ると僕との距離を最低1m取ろうとして逃げるので、お互いにつかず離れずの微妙な関係を保ちながら写真を撮らせてもらった。ある程度経つと「コイツは自分に危害を加えない」と判断され、見つけたときと同じようにまた居眠りを始めた。僕はネコに「テリマカシ(ありがとう)」といって寺院を後にした。
ネコがいる風景
バリの人はカメラを首から下げた、歩き過ぎとネコがいないことで疲れた顔をした僕の顔を見ると、ニコッと微笑みながら挨拶をしてくれる。また、子供たちはカメラを向けるとかわいくポーズをとってくれたりと、疲弊した僕のことを励ましてくれる。何枚か写真を撮った子供たちにネコのことを聞くと、「そこにいるよ」と指を差している。「ホントか~」といいながら向かいの家の塀を見ると、まだ若さが残る、幼い顔をしたネコが気持ち良さそうに寝息を立てていた。僕は慌ててこのネコの写真を撮り始めた。少年よ疑ったりして悪かった。
ネコの周りには、子供たちの遊ぶ声、鳥のさえずりなどが響く、穏やかで優しい風景が広がっていた。それは「ネコの写真を撮るのは楽しい」、僕に改めてそう思わせてくれる貴重な瞬間だった。
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