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LOST SEVEN(中島かずき/劇団☆新感線)

新感線いちウェルメイド(だと私が勝手に思ってる)な作品。
99年、白雪姫をモチーフにした青山円形劇場のファミリー公演「リトルセブンの冒険」と対になる形で上演された新感線の本公演。

DVDは昔買った新感線20th century boxに入ってたのを久しぶりに観た。
戯曲はこないだ買ったのだけど、LOST SEVEN とリトルセブンが二本立てで収載されててお得感あり。

いやーもう、何がいいってタイトルがカッコいいよね。LOST SEVEN。しかし物語中に出てくる七人の名前は「ゲリラセブン」。ダサい。この上なくダサい。このダサさが物語のダークさを和らげてる、と思いたい。
リトルセブンが七人のこびとの話なら、LOST SEVEN は完全にレッドローズ、赤い薔薇の姫君の話。
主演は羽野晶紀さん。レッドローズを演じられるのは羽野さんだけだなと思ってしまうほどにハマり役だった。
ちなみにリトルセブンでレッドローズを演じたのは、元第三舞台の藤谷美樹さん。こっちは映像になってないので戯曲しか読んでないけど。
羽野さんの相方・タンロウは第三舞台の京晋佑さん。第三舞台以外の京さんを見るのはこれが初めてだったので、なんか新鮮だった。
そして同じく第三舞台の小須田さんの、どこで本物の魔人をキャスティングしてきたんだと言いたくなるような、完璧なまでの魔人ぶり。マシン小須田ならぬ魔人小須田…とか呟いてひとりでウケてた。
古田新太さん、高田聖子さんなど新感線の主要劇団員がいない中、第三舞台大好き人間としてはこの客演陣だけでもテンション上がりました。

いろんな意味で、ものすごく新感線らしくて、かつ新感線らしくない芝居。
新感線にしては珍しくかなり「物語」に寄っていて、普段の新感線比で相当笑いを抑えてる(あくまで普段の新感線比だけど)。
これは羽野さんありきで書いた芝居だと中島さんが何かに書いてたけど、もう「レッドローズと男ども」とかいうタイトルでいいのでは?と思うほど、とにかくレッドローズの物語。
いやもちろんタンロウ、ロクゾン、テムラー、ホセイなど、それぞれの物語もちゃんとあるのだが、それを全て押しのけてしまうくらいとにかくレッドローズの物語が、強烈なインパクトを持って展開する。

しかしこのストーリー、新感線の独特のテンションとテンポで演じてるから「ダークファンタジー」と呼べる仕上がりだけど、普通の劇団が普通に演じたらかなり重いだろうなあ。
登場人物それぞれが抱える「現実」。レッドローズにとっては自分の生い立ちそのもの、そして自らの持つ魔力そのものが残酷な現実。
タンロウはじめ、ゲリラセブンの面々にとっては、自分達の人生で一番輝いてた(と思ってた)行動が実はより悪い結果をもたらしていたという残酷な現実。

それぞれに現実を乗り越えようとして彼らがあがいた結果、待っているのは悲しい「終わり」。

レッドローズとタンロウはこの結末を悲劇とは思っていないのかもしれないけれど、いやどう考えたって希望はないよなこの終わりかた…。
ここまで徹底的に一切の希望を叩きのめして、救いも希望もない「終わり」だけをみせられながらも、しかし観終わったらもう一度初めから観たいと思ってしまうあたりはやはり新感線。

なんでこんなに希望がないんだろうと考えてふと思い当たったのは、この芝居には「悪役」がいないんだよね。一見すればテムラーやハインリッヒが悪役的立ち位置にいるようにも見えるのだけど、魔族達とて悪意ではなく、むしろ魔鏡の持つ力の暴走を止めようと悪戦苦闘していることがやがて分かってくる。
テムラーにしても、終いにはレッドローズを出し抜いてセフィロトグラスを操る力を手に入れようとし、結果的にクイーンロゼの力で魔鏡に取り込まれてしまうのだけど、このテムラーの反逆にしても、野心や利己心といったものからの反逆ではない。鏡師として魔鏡セフィロトグラスに仕え、誰よりもその力を知りながら、決してそれが自分のものにはならず、ただ隣で見つめるしかなかったテムラーは、セフィロトグラスに対して愛と呼んでもいいほど強い感情と、鏡に「受け入れられたい」という強い憧れを抱いていた。そのセフィロトグラスに「受け入れられる」絶好の機会が突如眼の前に転がってきたとき、誘惑に負けてしまったテムラーを悪人と呼ぶことはできないと思うのだ…。クイーンロゼがテムラーを「はしゃぎ過ぎだよ」と諌めた言葉も、その気持ちを理解しているからこその言葉なのだろうなと。
誰も悪意がないのに、それでもカタストロフィは訪れる。だからこそ、そこに一切の希望が見えないのかもしれない。

このダーク新感線の今回の癒し担当は右近さんでした。
こんなにトイレのぱこぱこ(あれ名前なんて言うの?)が似合う役者はいないと断言できる。

それにしても、「しんか」と入れたら新幹線よりも先に「新感線」が出てきて、「だい」と入れたら真っ先に「第三舞台」が出てくる私のiPhone、賢いなあ。

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