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『伊藤園、「おーいお茶」のパッケージに画像生成AIを活用。その狙いと効果は?』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.8.31


■伊藤園、「おーいお茶」のパッケージに画像生成AIを活用

 伊藤園は8月28日、9月に発売する「お~いお茶 カテキン緑茶」のパッケージデザインに画像生成AIを活用したと発表した。同様の取り組みは同社初。「中身だけでなく、外観も時代に合った魅力を伝えられる製品開発に努める」(同社)という。

「大企業が商品のパッケージデザインを画像生成AIで作った。」
この意味と影響を考えてみたいと思います。

伊藤園ほどの大企業ですから、パッケージデザインに生成AIを使う理由や目的はコストダウンや納期短縮ではないはずです。


プラグ社のパッケージデザインAIを使用

今回使用された生成AIは株式会社プラグ(東京都千代田区)のパッケージデザインAIだと明かされています。

『パッケージデザインAI』 とは
1020万人の消費者調査の結果を学習データに使い、東京大学と共同研究したシステムです。2つのメニューがあり、消費者がデザインをどのように評価するかをAIが予測する「評価AI」と、デザイン生成と評価を繰り返し行い1時間で1,000のデザイン案を生み出す「生成AI」があります。

デザイン案を高速に大量生成するというだけでなく、「消費者に響く」ことに特化したデザインを生成し、生成されたデザインが消費者にどう評価されるのかを予測する「評価AI」との組み合わせることに妙があるAIです。

つい先日、8月24日には棚に他商品と一緒に並べられた際の評価を予測する棚評価と、ネーミング・コピー評価を追加したと発表されています。

ランダムに画像を生成し、その良し悪しは人間の感性に任されている多くの画像生成AIに対し、このパッケージデザインAIは良し悪しもAIが判断するところが強みです。

また生成AIは過去のデータに依存して動作しますが、消費者の評価は年年歳歳うつり変わるため、新しい評価データにアップデートし続ける必要があります。人間のデザイナーがセンスをアップデートし続けるのと同じです。


デザイナーもセンスからデータドリブンの時代に

伊藤園が「おーいお茶」というメジャーな商品に生成AIを使った理由は、プラグ社のパッケージデザインAIの「消費者に響く」という目的を追求したからに他なりません。

データに基づいて企画立案するデータドリブンマーケティングの一環として、きちんとデータ評価する・言語化することで根拠を示すことが、マーケターやプロデューサーに続いてデザイナーにも求められるようになったし、それがAIによって実現できるようになったということでもあります。

デザイナーもセンスに頼るだけではダメ、データで証明するリクエストが、マーケティング分野ではどんどん広がっています。


生成AIを使ったと発表する意図

単に「消費者に響くパッケージデザイン」を作ることだけを意図しているなら、今回のように画像生成AIを活用したことを対外発表する必要はありません。

今後は当たり前のように生成AIを使ってデザインされていくはずですが、今のところ「生成AIを使った」という発表自体が注目を集めますし、時代の先端技術を積極活用する企業だというイメージをつけることにも効果を発揮します。

加えて、生成AIが大手企業にも使われる、有名商品にも使われる、という「画像生成AIが普及している感」が世の中に伝わる効果にも注目しています。

オタフクソースも先行してプラグ社のパッケージデザインAIを利用していると発表しています。

他にも発表・公表はしていないけれど生成AIでデザインされているものが既に出回っているのだろうと思います。


生成AIへの感情的な拒否反応を抑える効果

仕事が奪われる、人間が作った画像を学習データにされるのは不当だ、と画像生成AIにネガティブな感情を持つ人も一定数います。AIは嫌いだという感情的な反応から、法的には問題がなくても抗議活動をする人も一部います。

先日、ラーメン店「AFURI」が商標権をめぐってSNSで炎上していました。手続き上は「正しい」ことでも、感情に訴えた酒造メーカー側に共感する人が多く、AFURI側もその感情論にのっかって反論してしまったために炎上しました。

SNSでの反応は法的な権利関係の正しさとはほとんど相関性がない。AFURIに対するSNSでの反応を見ると「法的には」あるいは「ビジネス的には」正しい権利行使だとしても、AFURIを支持する気持ちにはなれないとする意見が少なくない(もちろん正しい権利行使と支持する声もある)。

画像生成AI、特にStable Diffusionの学習データについて問題視する反応が起きがちです。法的に正しくても感情的な違和感を感じることは理解できますが、この違和感も、生成AIに関するガイドラインの整備と生成AIで作られたものが世の中にあふれることで、かなり抑えられるのではないかと思います。

感情的な拒否反応が生成AI普及にとっての最後の壁です。パッケージデザインAIのように大手企業に使われる生成AI・評価AIが普及することで、感情的な拒否反応の壁を乗り越えられる時期が来ることに期待しています。


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