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『シンプルさ、中央集権化の誘惑』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.8.8

■暗号資産の弱点はその複雑性だ

今日は「web3の思想性と実務のギャップ」をモヤっと考えてみたいと思います。

いま私はGameFiの企画・設計をやっています。これまでのゲームにブロックチェーン、暗号資産、NFT、DeFiを足し算・掛け算したものをGameFi(Game×Finance)と呼びます。

ビデオゲーム、スマホゲームなどはもともと娯楽のために作られたものですが、そこに金融要素、特に暗号資産を掛け合わせると途端に難しくなります。

暗号資産は確かに複雑です。

ブロックチェーンとは?法定通貨と何が違う?なんでこんなに種類があるの?どうやって買うの?などなど。

さらに暗号資産の周辺事情も複雑です。

法定通貨を暗号資産に交換するために取引所に口座開設する手続きは、まぁオンライン銀行を開設するのと大差ありませんが、そこから先が面倒です。

取引所によって扱っているトークンが違う、国によってトークンに関する法律が違う、独特な税制がある、税務申告のための記録が大変。送金や両替をする回数がやたら多い、送金のために必要なウォレットがめちゃくちゃ使いづらい、情報源のDiscordのUXが致命的にダメ。などなど。

今回ご紹介するコインデスクの記事は、この「暗号資産が複雑」という状況がさまざまな誘惑をしてくるのだ、という着眼点が非常に興味深いものでした。


■実験、絵空事、詐欺

ビットコインはすでに実績を上げているが、暗号資産イノベーションに対する多くの試みから、何らかの新しい価値が生まれる可能性を除外することはできない。

前向きに本気で課題解決をするための暗号資産プロジェクトがたくさん生まれています。しかしその多くがいろんな事情で失敗します。

巨額ハッキングに遭う、創始者がプロジェクトを放棄する、コアメンバー自身がロックアップ期間明け直後に売り浴びせて暴落する、設計意図と異なる使い方をされて経済崩壊するなどなど。

本気でやっていても多数失敗するので、その中に初めから成功を目指していない絵空事や詐欺が混じっていても一見区別がつきません。

シンプルな成功法則がなく大半のプロジェクトが失敗する実情を見ると、成功するプロジェクトを探すためにチェックしなければならないポイントが多すぎて「複雑」に見えます。

多くの場合、周りの人の動きに乗る、夢を見る、逃げる準備9割で手を出す、ように本気のコミットがしづらいのが現状です。


■中央集権化の誘惑

web3プロジェクトを検討していると「中央集権化の誘惑」にぶち当たることが数多くあります。

正確には「誘惑」というより「非中央集権化・分散化を最初から目指すのは合理的じゃない」という現実です。

思想的な「脱・中央集権」の魅力とは別に、実務的に運営体制やサーバの処理などを考えていくと、特にローンチ初期は自律分散型・非中央集権化の設計を持ち込めない箇所が数多く出てきます。

STEPNを例に挙げると、シューズNFTはゲーム内のほとんどのシーンで中央集権的サーバで処理され、事実上NFTである必然性がない存在にされています。

ここをフルオンチェーンにこだわると、運営側も実装とランニングのコストが膨らみ、テストもままならず、ユーザーもいちいち長時間待たされガス代もかかるようになります。

DAOも、プロジェクトが実在しない計画段階は機能しません。誰かがお金を投じないと着手すらできず、DAOを先に作っても妄想の語り場になるだけです。

お金を投じる投資家がいるなら、その投資家は回収や利回りを目的としています。プロジェクトが利回りを目的とする限り、真に脱・中央集権化を目指すことは困難です。プロジェクトが無事ローンチされた瞬間、投資家がアロケーションされたトークンを売却しようとして暴落を引き起こすか、運営側のエクイティを握りDAO化を許しません。

冒頭の通り、「中央集権化の誘惑」というより「非中央集権化・分散化を最初から目指すのは合理的じゃない」という現実を目の当たりにすることになります。


■完成させるには複雑過ぎる

複雑性はセキュリティの敵だ。より多くの動くパーツをシステムに加えるほど、障害点となる可能性のある場所も増える。悪用やサービス妨害などを防げなければ、魔法のようなスマートコントラクト・プラットフォームを作ったとしてもあまり良いことはない。時に、素晴らしいホワイトペーパーが効果的なプロジェクトにならないこともある。完璧さは、良さの敵となり得るのだ。

これはその通り。
複雑なのでどれだけ監査しても見つけきれない穴が生まれやすくなります。従来のようにプログラムのソースコードが万全なら大丈夫とは言い切れません。

チェーン自体に脆弱性が見つかったり、先日のSolanaハッキング事件のように特定のウォレットのシードフレーズが盗まれるなど、サービスを失敗させる要因がこれまでの単体アプリとは違う部分で発生します。

外的要因の中に、投資家の売り圧や暗号資産市場全体の温度感というものも含まれるので、サービス自体を万全に作ったとしても失敗する場合があります。

サービス自体の良し悪しだけではない判断材料が多数必要というだけでも複雑で、どこまで変数が安定化すれば「完成」と言えるのかも不明です。


■さらに国家ごとの規制の影響も

この記事では触れられていませんが、国家ごとの規制も大きく影響を受けます。

巨大市場であり影響力が大きいアメリカでは、以前からSECを中心に非常に極端な発想が蔓延っています。

暗号資産やトークンはすべて有価証券=セキュリティトークン。
したがってトークンを扱う事業者はすべてSECに登録されるべきだ。
=事実上のトークン全面禁止、または機能不全につながりかねない発想です。

発行主不在のビットコインは発行主が登録することができませんし、GameFiも有価証券の取扱事業者として登録しなければならないならば証券会社や銀行並みの管理人員が必要になり、ゲーム会社がやれる事業ではなくなります。

先月には、米コインベースが未登録証券に該当する仮想通貨の取引サービスを提供している疑いでSECから調査を受けていることが報じられたが、これは氷山の一角だと指摘。「CoinGecko」のデータから、調査を受けている取引所の数は40超に上る可能性があると報じている。

実際にSECは未登録証券を扱っている、ということをいつでも誰にでも言える状況です。

アメリカ議会の議員からはSECの監督範囲や権限を明確にしたり制限する方向の法案が何度も提出されていますが、なかなか通りません。従来型の「アメリカ中央集権化の誘惑」は非常に強力です。

ほかの国では暗号資産をより積極的に扱えるようにすることでweb3投資を誘致していこうというところもありますが、概して小規模国や経済的にリスクのある国が多いのが実情です。

web3はday1からグローバル、とは言われますが、実際は国によっての規制の在り方の差に強く影響され、グローバルというより特定仕向け地用のマーケティングを考えざるを得ません。そうすると北米で営業できないことはとても効率が悪い。

グレーな状態でスタートして後出しジャンケンのように規制が加わるとユーザーも混乱しますし運営も途中で事業計画を大きく見直さなくてはならなくなります。


■シンプル=中央集権なら、複雑=分散化のままで成功例を作るしかない

ウォレットやDiscordのUXの悪さは技術と時間が解消すると思いますが、本質的にユーザーが「複雑」だと感じる部分が分散型運営スタイルやサービスごとに異なるトークンだとするなら、ここをシンプルにするのはweb3ではない、のだろうと思います。

シンプルな方がいい。のは間違いありません。多くの人に使ってもらえるマスアダプションという状態を実現するにはシンプルに見せる必要はあります。

しかしシンプルにすればするほど中央集権化の誘惑に駆られます。

思想的な非中央集権化はあまり流行らないと思っていますが、仕組みの部分をシンプルにするあまり中央集権な部分だらけになってしまうとweb3プロジェクトではなくなってしまいます。

マスアダプションを実現するシンプルさと、肝心要な部分のweb3っぽさのバランスを取るのは非常に難しいなと日々GameFi設計をする中で思うのでした。

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