通い婚
生まれ草、という変な名前の花がある。普通に綺麗な花だけどな、と見て回っていたら、声がした。
「あの」
幻聴かと思って振り向いたが、確かに誰もいないので幻聴だと思った。
「えっと、聞こえてますか」
聞こえているが、幻聴は付き合うだけ悪化するので。僕はまた歩き出した。
「あっ待って、………はあ」
ため息までつく幻聴は珍しい。さては何かありそうだとも思ったが、その日は特に気づかずに帰った。
半年後、また来園して、声がしたはずの花のあたりを探して見た。「何か」いるはずなのだ。小さい、もしくは霊的な「誰か」が。
見つからない。5分か10分もいじくり回して、違う花だったかな、と立ち去りかけたら、
「あの、はあ、はあ、………待って、ください」
上気した、色っぽい声がした。
「私です、あの、半年前も」
やはりこの花の中に何かいる、と手に取ろうとしたら、花がひとりでに身をよじって避けた。
「あんまり、触らないでもらえますか……?」
(続く)
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