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VOICE(1)森をめぐる市民参加のかたち ●内山節

 日本の森を守り、よりよい森をつくりだしていく市民参加の活動がはじまってから、半世紀近くが経過した。私はこの活動は着実に広がっていったと思っている。なぜなら今日の日本には、狭い意味での森林ボランティアの活動に限定されない、森を視野におさめたさまざまな活動が存在しているからである。

 たとえばそれは「森のようちえん」にも現れているような、森林教育的な動きだったりする。あるいはそれは、山村から都市郊外にまで広がる地域づくりの活動で、そのなかに地域の森の維持、管理が内包されていたりする。さらに伝統的な木造建築を継承、保存する動きや、森、川、海を一体的にとらえる各地の活動も広がっている。森とともに暮らす社会をつくるには、直接的、間接的に森と関わり、大きな意味で森に守られた社会を築くことが欠かせない。

 と言っても、森とともに暮らす社会づくりの出発点が、森とは何かを知るところからはじまることは確かである。日々木々が育ち、その下ではさまざまな草などが生命活動を繰り広げている。動物たちや鳥、虫、微生物などのさまざまな生き物が暮らし、その森からは川や海が生まれていく。とともに人間たちに多様な自然の恵みをもたらし、同時に人間たちが森を守るための活動をしている。この自然と人間の世界こそが森である。

 だが今日の社会では、大多数の人々が都市で暮らすようになった。農山村でも森から薪をえるような暮らしをする人は少なくなった。ビルやマンションが増え、一般的な住宅でも、木材に頼らない住宅がいくらでもある。戦後の日本は、人間たちが森から遠ざかる時代を成立させてきたのである。

 こうして私たちは、森とともに暮らす社会をつくる入り口で、森のダイナミズムを知るための活動を開始しなければならなかった。自然のダイナミズムと森とともにある暮らしのダイナミズムとを、である。

 さがみの森は、そのための活動の拠点のひとつなのだと思う。はじめて植栽をした年から、さがみの森は年々その姿を変えていった。そして毎年、やらなければいけない仕事が生まれていった。このプロセスにかかわることをとおして、私たちは全国の森林所有者、森林組合、製材、建築にたずさわる人々など、さまざまな人々と結び合ってこそ日本の森は守れるのだと言うことに気づいていく。

 さがみの森は、そのようなダイナミズムとともに展開する森でありつづけたいと思っている。

写真2森をめぐる市民参加のかたち_内山


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