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座位時の腰痛を考察してみる

テレワーク勤務が主流になりつつあり,椅子などに座っている時間が長くなりました.ここ最近は特殊な時期かもしれませんが,現代の私たちの生活で座るということを避けるのは難しいでしょう.当然,私も例外ではなく,訳あって最近は一日のうち16時間は座っています.座りすぎです.そうなると必発なのが,腰痛です.この座位時の腰痛を訴えて来院する患者さんも多いことを経験します.今回は,座位時の腰痛のメカニズムの数あるなかの一つに絞って「私見」を述べたいと思います.

以前,下記のようなツイートをしました.これを少し深堀りたいと思います.なお,今回の座位は,特に断りが無ければ椅子に座っている状態の椅座位を指します.

なぜ,巷に溢れている椅子は座面の後ろが低く,そして中央部が凹んでいるのでしょうか.(前が下がってたらそれも座りにくそうだが)これも,これも.機能?デザイン?椅子の歴史を掘り下げたら面白そうです.

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これらの椅子は骨盤後傾・腰椎後弯が強いられます.
腰椎の後弯に伴い,仙骨はCounter Nutation(C-N)(起き上がり)の方向へ誘導され,この動き・位置は仙腸関節が緩む肢位となります.

座面中央部の凹みによって,緩んだ仙腸関節は坐骨結節を接近させられ,仙腸関節上部は開大すると考えられます.おそらくこの際の仙腸関節の回転軸は耳状面長腕部の下縁にあるのでしょう.

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股関節屈曲・内外転中間位の座位姿勢によって,大殿筋,中殿筋後部線維,などは寛骨付着部に対する張力を増し,寛骨は前額面上で下方回旋します.端座位で膝を閉じた姿勢を保持するのが難しいのはその証と考えています.

仙骨のC-N,寛骨の回旋,仙腸関節の緩み,これらは腰部多裂筋の過緊張を生じさせうると考えられます.腰部多裂筋の起始停止に関しては下記の通りです.

[起始] 腰部多裂筋の起始は以下の4つに分かれる
 ①第4仙骨孔までの仙骨後面
 ②上後腸骨棘
 ③背側仙腸靱帯
 ④すべての乳様突起および椎間関節包
[停止] 椎骨を飛び越して棘突起に停止
   運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹.MEDICALVIEW
腰部多裂筋は大きく以下の6つの走行形態をもっている
①各棘突起と2つ下位の乳頭突起ならびに椎間関節をつなぐ線維群 
②L1棘突起と上後腸骨棘(PSIS)周辺をつなぐ線維群 
③L2棘突起と上部背側仙膓靱帯をつなぐ線維群
④L3棘突起と下部背側仙膓靱帯をつなぐ線維群
⑤L4棘突起と仙骨下部背面外側をつなぐ線維群
⑥L5棘突起と正中仙骨稜の両側をつなぐ線維群
   運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹.MEDICALVIEW

ここで着目したいのが,各筋線維の走行と腰仙関節と仙腸関節をまたいでいるということです.仙骨・寛骨間の離開方向の動きは上位L1-L2レベルの腰部多裂筋の防御性のスパスムを,同様にL3-5レベルは仙骨C-Nの影響を容易に受けうるでしょう.このように生じる座位時の筋性の腰痛がありえます.

さらに,仙骨のC-Nで後仙腸靭帯が伸張されることは知られています(Vleeming 1996).座位による仙骨のC-Nの強制は仙腸関節後方靭帯領域(後仙腸靭帯・骨間仙腸靭帯)の伸張ストレスにも繋がることが考えられます.

ちなみにですが,床にあぐらをかくような姿勢はこれらが助長されると考えています.股関節の深屈曲位は当然ながら骨盤後傾を,股関節外旋は前額面上の寛骨下方回旋をより強調するでしょう.

大学院の講義,研究,オンラインセミナーのために座り続けた結果,今まさに,それらが私の腰で起きています.そんな時,坐骨結節間を広げるようなデバイスに座ったり,中殿筋をはじめとした寛骨の前額面上の下方回旋を強制するであろう組織の柔軟性・滑走性を求めたりします.坐骨結節を外側に誘導し,耳状面下縁を回転軸として仙腸関節を密着させる方向に誘導することで,腰部の筋の緊張が瞬く間に落ちるのがわかります.今回は,これで座位時の腰痛が軽減したことからも上記の考察を後押しすると考えます.

座位時の腰痛において考えられる病態としては,筋・筋膜性,仙腸関節性,椎間関節性,椎間板性などがあると考えられます.正直なところ,わかっていないことが多いのです.今回はその中の筋・筋膜性と仙腸関節性のなかのほんの一部について私見を中心に述べさせていただきました.最後までお読みくださりありがとうございます.


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