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憧れのToledo大学と仙腸関節(後編)

Goel教授との初めての対話.
広島という土地柄を説明した.立地,歴史,広島といえば原爆だろう.
アメリカの方に広島の原爆の話をすることをためらったが,認知度はやはり高い.

お土産は広島産で揃えた.ゴールド賀茂鶴という日本酒はオバマ大統領が来日された際に差し出されたものと伝えると喜ばれた.鉄板だが,日本の飴やチョコレートはかなり美味しいらしい.アメリカ人の方に聞いたらブラックサンダーが一番人気らしい.

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どこの誰かもわからない.
30歳の日本人を受け入れてくださった感じがして嬉しかった.
Physio therapistという資格のアメリカにおける社会的地位は高い.

"仙腸関節のエキスパートだからいろいろ教わるように"

と研究室の方に指示されていた.
いや,エキスパートか...慣れない呼ばれ方だったが,大学院で仙腸関節を研究しているのだ.
そう然るべきなのだろうとも思う.頑張らねば.


週に1回Goel教授とのmeetingがあった.

"Don't hesitate. ためらうな" 

2回は言われたかもしれない.
そんなつもりはなかったのだが,そう見えたのだろう.それが全てだ.
もっと主張すべきだったのだろうと思う.

E-COREはGoel教授を中心として
Toledo大学の研究室,Spinal Balanceという会社,Toledo大学病院を管理している.
Spinal Balanceという会社は脊椎固定術などに用いるインストゥルメンテーションの開発などを行っている.
それらの有限要素解析も研究室では行う.大学病院があるのでそこで臨床研究や屍体研究も行われる.
なんて素晴らしい環境だろうか.

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スタッフ,研究室は皆エンジニアだった.思えば,滞在した学部は工学部だ.私にとっては新鮮で,正直初めてエンジニアと呼ばれる方と交流をしただろう.私の中で結構大きな経験だった.この領域面白いし,まだまだこれからだと...

滞在中は仙腸関節を解析している院生と一緒に解析を進めた.
彼はネパール出身でネパール訛りが強く,少し苦労した.
インド訛りをさらに強くした感じだ.勉強になった.
What?, uh?, one more.  お互い聞き返し合うそんな光景は周りから見たら滑稽だっただろう.

彼に骨を固定して別の骨を回旋させてほしいとお願いした.
物体を動かす際には軸を規定してその回転軸をもとに運動を行う.
彼は骨の質量中心に軸を設定した.なるほど.
一つの物体で考えるならば,間違いではない.
ただ,これは人の体であって,関節に軸が埋設されなければならない.

座位姿勢を定義するディスカッションもあった.恥骨結合,両上前腸骨棘を結んだ面が床と垂直になるように定義してもいいが,現実的・臨床的ではない.こうしたほうがいいのではないか?いや,どうだろうか.そんなディスカッションが本当に有意義だった.
おそらく解剖・運動学は私たちの方が詳しい.まだまだ一緒にできることはありそうだ.


Spinal Balanceで働くエンジニア Dr. Aakash と話す機会があった.彼も雑誌Spineの編集委員だった.とはいえまだ20代だ.
彼は仙腸関節固定術のスクリューを開発しているそうだ.
私の専門が仙腸関節と聞くと,熱く語ってくれた.

"仙腸関節は固定すべきではない.本来動くべき関節であって,そこを止めては様々な障害が生まれる.
保存治療を行うべきだ.固定した人もやはり,痛みは残る.
消えることはほぼない.ぜひ,保存治療の研究を進めてほしい."

現場の,それもスクリューを作っているエンジニアの意見は初めて聞いた.
彼は続けた.

"もどかしい.エンジニアの研究は医師のためのOPに関するものがほとんどだ.なぜって?莫大なお金が必要になるからだ.医者はお金があるからね.保存治療の解析はほぼないよ."
ああ,なるほど.こういう壁あるよな.確かに.妙に納得した.

欧米では仙腸関節の治療は固定術が中心だ.
もちろん一定期間保存治療を行ったうえで保存治療に抵抗するようならば,固定術となる.年々,件数は増えている.

昨年にベルギーで開催された国際学会 Interdisciplinary World Congress on Low Back & Pelvic Girdle Painでは,SI-BONEという仙腸関節固定のスクリューを販売する会社の 熱烈な 接待に同席した.歌う踊るで大変だった.これが世界の接待か.歌と踊りは世界共通だ.動画を載せられないのがもったいない.
日本人医師に対する接待だが,JCHO仙台病院の医師をはじめ,日本仙腸関節研究会に固定術を広げたいという思惑があるらしい.
ああ,仙腸関節・骨盤帯の保存治療が,もっと進歩したらなと心底思った.

アメリカに滞在したのは9月,ベルギーの学会は11月.
立て続けに良い経験をさせてもらった.
ちなみに長男の1歳の誕生日は9月で父親は一緒に過ごせなかった.
誕生日に向けてポストカードを送ったのだが,家に届いたのは10月だった.速達をケチったのだ.とはいえ,ここまでとは...
そんなのもいい思い出じゃないか.
何より,こんなワガママを許してくれた嫁さんには感謝しかない.

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研究室では骨盤の有限要素解析を見せてもらった.
一つの骨盤モデルを作るのに6ヶ月かかるらしい...
そのモデルを使った論文はSpineにも掲載されているし,モデルの保証はされている.
そんなモデルを使わせてもらえるなんてありがたい話だ.
その研究は止まっている.
年明けに連絡してみよう.


ちょうど同じ年にGoel教授が来日した.本当に奇遇だ.
西良先生が大会長を務める日本低侵襲脊椎外科学会の海外招待講演のためだ.
スライドを一枚撮らせていただいた.(すみません)

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嬉しかった.
コラボした日本人というスライドの中に一応,名前がある.
何の肩書もない Tsuyoshi Morito, PT が一番下にあった.
ちょうどその講演を,同じく教育講演のために参加していた現在の指導教官と一緒に聴いた.
"仙腸関節おもしろいね.研究することいっぱいあるね!"
おっしゃるとおりだ.解析を進めよう.


最終日にGoel教授夫妻とミシガン大学の教授と中華料理を食べにいった.
食後にはFortune cookies が出された.アメリカの中華料理ではよく出されるらしい.
そこにはこう書いてあった.

"A bold and dashing adventure is in your future. " "勇敢な威勢のいい冒険が将来待っている"

まだまだ冒険も始まっていないくらいなんだろう.

OK. Don't hesitate. だ
ガンガンいこう.

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