仲西森奈 / Morina Nakanishi
仲西森奈による連作掌編小説「ショートスパンコール」シリーズ第3作目(予定)『空想を呼び声として、』のnote版です。 50編収録。2024年8月時点ではすべて無料で読むことができますが、次巻である4作目『記憶について語るときの』50編がすべて公開された時点で、単話・マガジンどちらも有料に切り替える予定です。 更新は不定期ですが、だいたい1〜7日に1編くらいのペースで更新していくつもりです。また、ショートスパンコールシリーズはどの巻、どの作品から読み始めてもいいような造りを目指しているので、この巻/マガジン収録の作品から読み始めても問題ありません。無料公開分の最新話数編を読んで、気になったから1作目や2作目を数編拾い読みする、なんて読み方もありです。
仲西森奈による連作掌編小説「ショートスパンコール」シリーズ第2作目『名付けたものどもを追う道筋を歩きながら、』のnote版です。 50編収録。値段や内容は、出版社さりげなくより刊行された書籍版と変わりません。 また、note版独自の仕様としては、単話購入も可能です。1編100円で、全編読むならマガジン、気になる数編のみ読みたい場合は単話、という選択をとることができます。 言うまでもないですが単話で50編を買っていくよりマガジン単位で購入したほうが安上がりですし、「梶沙耶の愉快な一年」と題された一連の作品など極端に文字数のすくない作品もあるので、マガジン単位で購入したほうが尚更お得感があるのではないかな、といったところです。
仲西森奈による連作掌編小説「ショートスパンコール」シリーズ第1作目『そのときどきで思い思いにアンカーを打つ。』のnote版です。 50編収録。値段や内容は、出版社さりげなくより刊行された書籍版と変わりません。 また、note版独自の仕様としては、単話購入も可能です。1編100円で、全編読むならマガジン、気になる数編のみ読みたい場合は単話、という選択をとることができます。 言うまでもないですが単話で50編を買っていくよりマガジン単位で購入したほうが安上がりですし、「梶沙耶の愉快な一年」と題された一連の作品など極端に文字数のすくない作品もあるので、マガジン単位で購入したほうが尚更お得感があるのではないかな、といったところです。
作品と経緯(概略)01『そのときどきで思い思いにアンカーを打つ。』note版 書籍版 献辞 惹句 目次 エピグラフ 02『名付けたものどもを追う道筋を歩きながら、』note版 書籍版 惹句 目次 エピグラフ 03『空想を呼び声として、』note版 惹句 目次 エピグラフ
木蓮 最初は、2階建てのアパートの1階。 たしか104号室だった。道路側の角部屋で、玄関を出て数歩で車道に出る。一方通行だったはずだ。いや、違ったか。いや、そうだったか。すくなくともそれくらい、道幅はせまかった。というより、1車線にしては中途半端に広かった。そういう道の途中に、エスポワール一乗寺は立っていた。道を挟んだ向かいには小さな酒屋があって、小さいけれど古びれてはいなかった。町の酒屋さん、といった風情の個人商店にしてはめずらしく、日付が変わるころまで店を開けていた
稲盛総一朗が市役所を出て駐車場へ向かうと、ひとりの女性が車の前に立っていた。 「どうされましたか?」 総一朗は訝しみつつ女性に訊ねた。 この辺りでは見かけない顔だった。 「稲盛総一朗さんですね」 女性は微動だにせず言葉を発した。 黒のトレンチコートを羽織っていて、両手をコートのポケットに入れている。なかに着ているのは白い薄手のセーターと黒いスキニーパンツ。風と、風によって斜めに降る細かな雪によって、トレンチコートは旗のように揺れながら点々と白い斑点を増やしていた
春は印字の擦れたレシート。誰かに呼ばれて産業道路を歩く。人のいない部屋ではダニが陽に焼かれ、朽ちていく間に夏になる。メンソレータムの故郷。革張りのソファ。暗がりで蕎麦を啜る小学生。ひとつの焦燥。はぐらかされた予定。秋は憧れ。着るものを選ばずに葬列の最後尾に並ぶ。自分の乗るバスだけがいつまでも来ない停留所。紙の地図を買い、安いパンを見過ごし、形の良い石を拾う。川肌から湯気が立ち上る。若い鹿のつがいに手を振る。ため息はひとりごとへ、ひとりごとは宛先不明の手紙へ。罫線が雪で滲む
甲州街道裏の緑道のてきとうな場所に自転車をとめて、エマは古びた細長いビルの階段を上がった。街はとっくに静まっていて、牛丼屋やコンビニ、暖簾を下げた蕎麦屋くらいしか人のいる気配はしない。 そのビルの屋上に、エマはたまに行くことがあった。一階は花屋、二階はカフェ、三階と四階にはそれぞれ会計事務所と商事会社が入っている。ビルの階段は街路と地続きになっていて、階段を上がるだけなら鍵もいらない。そして屋上へと出る扉の鍵はいつも開いていた。エマがまだ「Municipality H
わたしの妹は工場員で あいさつとシュシュと 電球の色とマツタケと 螺旋階段と改札と 首輪と菜箸と CANMAKEと白い巨塔と ラバーダムと森山大道と えんぴつと水銀と 破片と本体と 汗とオリジナル・グレーズドと 幸せと不幸せに 頓着がなかった ぬるいビールと濃い刺身 コピー紙とタバコ ジェネリック暴力と(しての)善意 を好み さ さやけばささ やくほどよく笑い 端的になめろう と注文した ひとついやふたつ あとでおしぼりもおねがいします 生 とりあえず ひとついやふたつ
春霖の全巻セットを売りに出す
ファイル名:写真 2013-05-09 15 53 39.jpg 種類:JPEGイメージ サイズ:2,104,900 バイト(ディスク上の2.1 MB) 場所:Macintosh HD → ユーザ → sayaKJ → Dropbox → Photos 作成日:2013年5月9日 木曜日 15:53 変更日:2013年5月9日 木曜日 15:53 内容:向かって左から、上川慶喜、梶沙耶、坂東統子、渡辺平子、鈴木絵馬の五人が、道路や街路樹を背に横並びで立っている。カメラに
それ、ぼくの同居人かもしれないですね。詰め所で噂話に興じていた私たちの前を縫うように通って、タイムカードを打刻した一汰くんはそう言った。権藤さんがいつも行くスーパーの入口には、近隣の学校給食の献立表が月替りで掲示されていて、最近、その献立表を長時間眺め続けている不審な外国人がいるらしいのだ。一汰くんはいつも通り、ぼんやりした表情で私たちの前をもう一度通ってから振り返り、たぶん、たぶんそうだと思います、と言った。 で、いま私の目の前に置かれたのはミートボールだ。それも、
ぼくたちは秘密基地にコントロール・ルームを作っていたから、かなしいことやムカつくことがあったらすぐにそこへ行って、ぶっとい木の枝でできたレバーをがっちり握って発進!そう叫ぶ。すぐに地響きが起こって、ぼくたちのからだは秘密基地ごと浮かび出す。ウィーむむむガシャ!行け、行け行けゴーゴゴー!根っこごとすっぽ抜けたケヤキや杉が、土を落としながら翼になってギュンと飛ぶ。行け、やっちゃえ、すごいやつ。重さは5トンを超えるから、当たればおまえもぺしゃんこだ。
「……っはあ〜ん!ああ〜〜〜ンまじかよお〜〜〜」 「っははは!」 「でえぇ〜。おいマジかよ〜」 「くっふふふふ……っ。湯たんぽ?」 「そうだよ〜マジかよ〜」 「あったかいよね」 「あぁったけえよお〜。んだよこれ〜〜〜」 「へへへ。ちょっと待っててね。わたしも歯磨いたら布団入る」 「ふぃえ〜〜〜あったけえ〜〜〜」 「わかったから。あったかいね湯たんぽ」 「はあ〜……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……よっ」 「……」 「……あ、気づかれちゃったか」 「いれない
停車場の八重山吹か総武線
カホンケースとウーバーイーツのバッグが似ているおかげで職質されなくなった、と貝原さんはうれしそうに言いながら、ソファ席の隅にカホンケースを降ろした。 「けっこう呼び止められることあって、以前は」 「たしかに、なんかものものしいですもんね。デカいし」 「そうなんです。ちょっと中身見せてもらってもいいですかーって。見せたら見せたで、これなんですか……? って」 貝原さんとわたしは、駅前の貸しスタジオでの恒例のドラムレッスンを終えて、そのまま歩いてすぐのサイゼリヤに入って夕
「こんにちは。坂東卵です。らん。みだれる、の乱。花の蘭。英語で走るはrun。アンケート用紙、役所の申請書、会員登録、さまざまな欄。LANケーブル。川が氾濫する。欄干に手を置く。ほらご覧。たのしいな、ラン、ラン、ラン。そしてわたし。意外といろいろな意味のある音ですよね、らんって。 わたしの、らん、は、たまご、と書いて、らん。ばん、どう、らん。なんだかすべてが強い言い切りのような名前ですよね。面、胴、籠手、みたいな。坂東統子の妹で、内臓が地球です。地球っていうのは、地球、こ